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愛してよ [監督:福岡芳穂、主演:西田尚美]

2006-03-05 22:07:32 | 映評 2006~2008
 ママは言う。人生はくじびきのようなもの、当たりの日もあれば、外れの日もある

 ママは手帳にびっしりとスケジュールを書き込み、そのとおりに行動する。手帳の空欄からツキが逃げていくと言う。


 母親のキャラクターがよく練られていて、西田尚美(秘密の花園、ナビィの恋)がそのキャラに最終的に確かに命を吹き込んだ。

シングルマザーとその息子のもがきが描かれる
「じゃあ、あたしのことは誰が愛してくれるのよ!?」
「あたしは幸せになっちゃいけないの!?」


「誰も知らない」でもYOUが同じようなこと言っていた気がするが、「愛してよ」の西田尚美は育児放棄などしない、時に重荷と感じながら、自他ともに育児ノイローゼと認め、子供をオーディションに出すのも自分のストレス発散のためと自覚しながら、それでも子供を切り捨てず親の責任を全うしようとする。
全うしきれずに途中でぶち切れてしまうかもしれない。自分か息子かどちらかが。親子愛が崩壊寸前なまま物語は進んでいき、パンパンにふくれあがった風船が刺だらけのせまい通路を漂っていくような、危うさと緊張感が全編を支配する。
「こんなにあんたのこと愛している私の目の前で、死ねるもんなら死んでみなさいよ!!」
の一言で親子は救われ、映画は緊張感から解き放される。

そしてまたこの映画が頑張っているのは、子供あるいは母親だけの立場に立った主張をせず、両方の立場で、さらにその友人、恋人、友人たちの家族・・・と多角的に崩壊の構図を映画の上に展開していくところだ。
主要登場人物4人(地方のキッズモデル候補)が、フォトセッションで行う自己アピールが印象的。

欲しいものは? (ライバルのモデル)
欲しいものは? 全部 (友人のモデル)
欲しいものは? 友だち (片思いのモデル)
欲しいものは? ない
(主人公)

少年少女の心の中のもがきがこのシーンに集約されている。

うまいなあ、と思う反面、長いなあ・・・と前半終わったくらいで疲れと飽きが出てきたのも事実。
残念なのは、やはり作り手の自己満足に終わっているような、一方通行な主張や作品世界。
こういう自主映画の延長みたいな作品は、努力は買うけれど、ちゃんと脚本を練ってストーリーで魅せるように作らないと多くの観客の支持は得られない。
主人公の少年が、ライバルのモデルにボコられるシーンなど、ピンチをチャンスに変え大逆転へと転じる、絶好の機会だった。シナリオの80分が経過した時点でのプロットポイントとして最適なシチュエーションだった。なのに、ただ重苦しさと絶望感を深めるだけのしか機能させない。それでなくてもあのライバルモデルは、失笑寸前で、都合のよすぎるヒネリなしのエピソードで語られるのに、それをマジメで正直なメッセージに繋げても共感できない。
「もし遅刻したからダメだなんていう奴がいても、泣きつくとか脅すとか、いくらでも手はあるんだから!!」
などと言う母親のバイタリティあふれる、したたかな世渡りをこそ見たかった。
マジメすぎる低予算映画は正直つらい。

西田尚美の好演は評価できる。
音楽は岩代太郎(「殺人の追憶」「蝉しぐれ」「大河ドラマ・義経」「SHINOBI」「春の雪」などここ最近大活躍)で、これがまた秀逸。さびしげなピアノが焦燥感を高める。

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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございます (冨田弘嗣)
2006-04-19 01:53:47
誰も読んでいただけない「愛してよ」のトラックバック、ありがとうございました。「愛してよ」の訪問者が1になりました。

>多角的に崩壊の構図を映画の上に展開

思えばそうです。私はボキャブラリが少なく、自主映画制作工房氏の引き出しの多さ、引き出しの深さにマジにたじたじしております。

私は、マダム・クニコ女史のホームページリンクからやってきた凡百の一人ですが、ひとつひとつをまとめたら、かなりの単行本になるような文才です。

マダム・クニコさんに伝えましたが、私は昨日、夜中から朝まで、自主映画制作工房さんのホームページを読み続けていました。徹夜のまま仕事へ行きました。それくらい、熱中できました。

本当にありがとうございます。そして、過去のコメントをみつけてくれて、ありがとうございました。
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