
今回は、クラシック音楽による血塗られたハリウッド映画史について書きたいと思います。
ってそんなに重い話ではないですが
ハリウッド映画ではクラシック音楽、特にオペラやカンタータみたいな歌手の入る曲をバックに暗殺が行われる演出をよく見かけます。
いくつか思いつくままに書いていきたいと思います。
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『知りすぎていた男』
【アーサー・ベンジャミン カンタータ「ストーム・クラウド」】
某国首相暗殺の情報を偶然聞きつけてしまったアメリカ人の家族。暗殺団に子どもを人質にとられてしまい、警察に頼らずに自分たちで息子を取り戻そうとします。夫はジェームズ・スチュアート、妻はドリス・デイです。
暗殺団は、コンサートの最中に首相を殺そうとして計画を立てました。演目がアーサー・ベンジャミンの「ストーム・クラウド」と知り、その曲の最後の最後にシンバルがバーーーン!となるのを利用して、そのシンバルの音にあわせて拳銃を撃てば聴衆に気取られずに首相を殺せるぞ!と。何しろあまり有名な曲ではないので映画中盤で曲の最後の方をレコードで聴かせてくれるというサービスぶり。
暗殺団のアジトは突き止めたものの子どもを取り返せなかった夫婦は、暗殺団を追ってアルバートホールへ。
そこでは、ヒッチコック映画の音楽担当のバーナード・ハーマンが指揮台に立っていて、「ストーム・クラウド」の演奏が始まりました。
10分くらいある曲がフルサイズで演奏されその間セリフはなし。
曲が盛り上がりクライマックスに近づくにつれて、時々カットインされるのは座っているシンバル奏者。たった一音のために演奏に参加している彼はまさか自分の一音が、色々な人間の運命を握っているなど夢にも思わない。
VIP席に座っていた死神みたいな顔の射撃手が画面から消えると、ぬうっと拳銃の銃身がアップでカーテンの陰からでてくる。
何も知らずに聴き入っている首相。
暗殺団の席をさがす夫。客席から首相席やその周りをうかがう妻。
いよいよ曲も大詰め、シンバル奏者が立ち上がる。銃を構える殺し屋。事前に暗殺団の打ち合わせシーンでかけていたレコードの部分の旋律に差し掛かり、シンバル奏者はシンバルを構えて…
・・・・という緊迫感あふれる場面でした。
アーサー・ベンジャミンという作曲家、不勉強なもので全然知らず、私には「知りすぎていた男のあの曲の人」ですが、このカンタータは素晴らしい曲だと思います。
CDの紹介です。クラシックのCDじゃなくてすみませんが、私はアーサー・ベンジャミンの「ストームクラウド」は90年代に発売されたバーナード・ハーマンの音楽集で聴いています(今買えるのかわかりませんが)。
これは当時スコセッシ映画の音楽をしょっちゅう担当していたエルマー・バーンスタイン(「荒野の七人」「大脱走」で有名な映画音楽の巨匠です。レナード・バーンスタインと縁戚関係はありません)が、スコセッシ 監督による「ケープフィアー」のリメイクでハーマンの音楽もリメイクした縁で発表したアルバムでハーマンの代表作を新録したものです。
いや、「ストームクラウド」はハーマンの曲じゃないじゃん、と突っ込みたくはなりますが、映画でハーマンが指揮していたんだからいいじゃない!というノリですかね。
演奏はロイヤルフィルハーモニー管弦楽団で最近までシャルル・デュトワが芸術監督務めていたところだそうです。(あんま詳しく知らない)
「市民ケーン」も「サイコ」も「めまい」も「タクシー・ドライバー」も聴けて、ハーマン好きのエルマーらしく原曲の雰囲気もしっかり残した演奏でバーナード・ハーマンのファンもヒッチコック映画ファンも納得かつ大満足の一枚です。
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『アンタッチャブル』
【ルッジェーロ・レオンカヴァッロ 道化師より「衣装をつけろ」】
ロバート・デ・ニーロ演じる暗黒街の帝王アル・カポネは、邪魔な捜査官4人組、人呼んで「アンタッチャブルズ」を皆殺しにしてくれると、4人の中の一番年長のショーン・コネリー演じるマローンの殺害を部下に命じます。
その一方で自分はオペラ「道化師」を観に行くのです。
さてカポネの部下の下っ端がナイフを持ってマローンの家に忍びこみ、彼の背後からゆっくり近づきます。危ない!ショーン・コネリー!
…と思ったもののそこは元007のコネリーがそんな殺気むんむんの刺客に気づかないはずなく、逆にショットガンを突きつけて勝手口に追い出します。わしを殺したいなら銃を持ってこい、と、さすが殺しの許可証保有者は言うことが違う…と思ったら、勝手口を狙える場所で待ち伏せしていた別の腕利きの殺し屋がトンプソン機関銃をバリバリバリバリ!!
ショーン・コネリーは無数の銃弾を浴びてしまうのです!
ああ、これが007映画ならQの秘密アイテムで助かるシーンだったのに!
あれだけ弾くらって生きてるはずがないと、殺し屋はさっさと退散しますが、マローンはまだ息がありました。
ズリズリと血を流しながら家の中に這い戻っていきます。
この辺から「道化師」がフェードインしてきます。
マローンはアンタッチャブルズのリーダーのケビン・コスナー演じるエリオット・ネスに、カポネをあげるための重要証人が乗る列車の時間を伝えようと、家の中の時刻表をせめて手につかんで死のうとしていたのです。
はいずるマローンの画と、カポネが観劇するトゥーランドットがクロスカッティングされます。
そして観劇中のアル・カポネはというと、「道化師」のあまりの素晴らしさに感極まって泣いているのです。
すると部下の殺し屋がやってきて、「うまくいきました」みたいな報告をするのですが、今いいところなんだ、わかったわかったと適当にあしらって、また舞台に視線を戻して泣き始めます。
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いま思い出しても素晴らしいシーンであり、素晴らしい演出でした。
「アンタッチャブル」大好きだなあ…
イタリアンマフィアとオペラの組み合わせは鉄板ですね!
ここでかかるオペラはよく知らんのですが、ついでにCDも持ってないので、いつかちゃんと買おうと思います。名盤ありましたら教えてください。
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『トータル・フィアーズ』と『ミッション・インポッシブル ローグネイション』
【プッチーニ トゥーランドットより「誰も寝てはならぬ」】
プッチーニの「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」と言えば、普通の日本人には、「イナバウアーのテーマ」として認知されてるかもしれませんが、私のような映画好きにとってあれは「暗殺のテーマ」です。
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2002年の映画「トータル・フィアーズ」は、武器商人とテロ組織が結託し、イスラエル軍の不発核弾頭を手に入れた組織が、ロシアの仕業に見せかけてアメリカで核テロをおこし、米露は戦争状態になるという映画でした。
しかし頼りなさそうな顔のベン・アフレック演じるCIAアナリストが謎を解いてロシア大統領を説得し世界を救ってしまうのでした。
そしてエピローグで、米露共同の暗殺チームが事件を仕掛けた黒幕の人物を暗殺するシーン。「トゥーランドット」の上演中、「誰も寝てはならぬ」のところで暗殺が行われるのです。
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そしてまた、2015年作品「ミッション・インポッシブル/ローグネイション」でまたもや、「トゥーランドット」上演中に暗殺が、しかも当然のようにクライマックスは「誰も寝てはならぬ」でした。
たしかに寝てる場合じゃないわなあ…
でもなんかハリウッド「誰も寝てはならぬ」に頼りがちじゃない?
そんなわけで皆様もアメリカ映画観ていて「誰も寝てはならぬ」がかかったら、誰か殺されると思ってください(笑
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トゥーランドットのCDは私はカラヤンのを持ってます。(私の投稿カラヤン率高いですね)
なかなかお気に入りです。
「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」(川口マーン惠美著)というベルリフィル団員へのインタビューをまとめた本を読んでいると、元団員でアンチカラヤンの人がこんなことを言ってました。
〜カラヤンの音楽には感情がない。しかしオペラなら歌手の歌声が感情を補完するので良くなるんだ〜
…ひどい言われようですが、面白そうなので初めて買うオペラのCDはカラヤンにしてみたのでした。
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全然余談ですが、いつだかの「タモリ倶楽部」で楽器レンタル屋の滅多にレンタルされないレアな打楽器ランキングという企画があって、4位がマーラー6番のハンマー、3位がベルリオーズ幻想の「教会の鐘」、2位がアルプス交響曲のウィンドマシーンとサンダーシート、
そして堂々1位が10年で一度しか利用実績のないトゥーランドットの銅鑼ってことでした。
それではまた、映画とクラシック音楽で会いましょう!
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次回予告「ウェストサイド物語」