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怪談 [監督:小林正樹]

2008-08-12 00:09:59 | ビデオ・DVD・テレビ放映での鑑賞
BSで鑑賞。
個人的にみた中では傑作率の非常に高い、巨匠小林正樹の大作映画である。

ちなみに小林作品の個人的評価
---------
■■■■■■ →生涯ベストクラス
■■■■■□ →大好き
■■■■□□ →結構好き
■■■□□□ →まあまあ
■■□□□□ →つまんない
■□□□□□ →最悪
---------

■■■■□□ 泉
■■■■■□ 人間の条件 第一・二部
■■■■■□ 人間の条件 第三・四部
■■■■■□ 人間の条件 完結篇
■■■■■■ 切腹
■■■■■□ 上意討ち 拝領妻始末
■■■■■□ 東京裁判

「人間の条件」六部作を徹夜で一気見して睡眠不足ハイ効果も手伝って陶酔しまくって以来、この監督はとても好きなのだ。
さて怪談は小泉八雲ことラフカディオ・ハーンによって編纂された怖い話という不気味話の中から4話を抜き取って映画化したもの。
第一話「黒髪」
第二話「雪女」
第三話「耳なし芳一の話」
第四話「茶碗の中」
となる。第二話、三話などはあまりに有名な話をそのまま映像化しただけで、驚きはないが懐かしさはある。
第一話・・・家がボロボロに朽ち果てていく様とシンクロするように、主人公(三国連太郎)が急速に老け込んでいくのが素晴らしかった。
第二話・・・さわやか青年を演じる仲代達矢が面白いのだが、岸恵子の雪女が完璧にはまっていた。いかにもスタジオで撮ったような寒さがつたわってこない吹雪シーンはどうかと思うが、背景に描かれた目玉の不気味さは印象深い
第三話はとばして、第四話・・・茶碗の中に写る人影に怯える武士の昔話を編纂する作家。未完の話をなんとか完結させようとするが妙案は浮かばず悩んでいると女中(杉村春子!)がギャーッと叫んで、見に行くと
・・・前話通じてホラーというより不気味譚。幻想的とよんでもいい芸術世界。

さて第三話。一番有名で本作の中でも一番おもしろく一番ボリュームのある章だが、単純にあの物語を映像化しただけであるがゆえに、却ってあの物語のよさを損ねてしまった気がしなくもない。
物語前半部を有名だがあえて書く。
メクラの琵琶法師、芳一が寺で留守番していると「じゃりん、じゃりん」と重いよろいが揺れるような音がしてお武家さまと思しき人物がやってくる。ぜひともご主人様に琵琶で平家物語を吟じてほしいと頼まれる。
そこは大きなお屋敷のようだと芳一は感じる。琵琶を聴き入る大勢の人たちは悲しみに耐えかねたのかすすり泣いているように聞こえる。
それから毎夜毎夜、お武家様らしき人に連れられてお屋敷に行っては琵琶を奏でる。
お寺では芳一は毎晩どこにいっているのか心配した住職さまが、門下たちに後をつけさせてみれば、なんと芳一は人魂ただよう墓場で、1人琵琶奏でていた。

小説では芳一がお武家様に連れられていくところは芳一主観で語られる。盲人であるだけに音から判断した「らしい」「みたい」「のような」といった芳一の想像で物語が動き、目明きの寺男たちに語り部がきりかわる尾行シーンで恐怖の種明かしとなる。
しかし映画は終始客観視点で描かれる。鎧を身をまとった亡霊も丹波哲郎の顔とともにはっきり映し出され、芳一が赴くお屋敷も、立派なお屋敷として映像で表現されてしまう。亡霊はスーッとフェードインして現れるところも描写され、人間ではないことが提示されてしまう。
誰でも知っている話ゆえ、あえてもったいぶった描き方をする必要は無いのかもしれないが、盲人である芳一への感情移入ができず、はっきり見せられることで恐怖感も半減する。
そう思うと、「耳なし芳一」という話は文学かもしくはラジオでこそ表現すべき話だったのかもしれない。
映画は亡霊たちの悲哀を強調するため、物語の前に壇ノ浦の決戦の様子を琵琶の音とともに長く時間を割いて見せることでエピソードに厚みを持たせてはいるが、映像では盲人の恐怖は表現しきれない。

でも方法はあったと思う。
チェコのブジェチスヤル・ポヤルという人形アニメ作家の手法だ。
視覚を奪われた青年を表現するため、映像は主人公の周辺を除いて真っ黒に塗り潰される。
主人公がよろよろ歩いて壁にぶつかると初めて壁部分のマスクが外れるのだ。
それを俳優を使った実写映画でやるのはとてもリスキーだろうが。

物語の後半部
住職さま(志村喬!!)は芳一が平家の亡霊に呪われていると見抜き、亡霊の苦手なお経を体中に書かせ、次に亡霊が迎えに来ても、喋ったり、動いたりしてはならぬ、そうすれば亡霊は諦める、と言い聞かせる。
住職さまが書き漏らした箇所はないな、と念を押すのだが、その時、芳一の斜め顔アップで写るため、何も書かれていない耳がめちゃくちゃ目立つ!「住職さま、気付いて!、耳!、耳!」と私は叫ぶがもちろん住職には届かず、哀れ、芳一の耳だけが亡霊の目に入るところとなり、彼の耳は引きちぎられてしまう。
耳ちぎりシーンは相当バイオレントに描かれており、芳一は体ごと壁や柱にばんばんぶん投げられる。動いたら駄目なんじゃなかったっけ・・・と疑問もあるがともかく芳一は耳を奪われ代わりに命は助かる。
噂を聞きつけた大名たちが是非聞かせてくれと芳一のところに押しかけ、おかげさまで芳一は大金持ちになったとさ・・・と実は唯一のハッピーエンドを迎えるエピソードであった。
よかったよかった・・・のかな。

そんなこんなで無難すぎる名作の映画化であり、もう少し冒険心が欲しかったのだが、豪華スター競演効果もあり、3時間の長尺にもかかわらずなかなか楽しめる。武満徹の音楽も素晴らしい。
でも小林正樹という監督を楽しむならまずは「切腹」か「上意討ち」から入るのがよい。

本作の個人的評価は
■■■■□□
くらいかな・・・

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