1948年のアカデミー受賞作。DVDで観賞。
個人的評価:■■■■□□ (最高:■■■■■■、最悪:■□□□□□)
オリビエが制作・監督・主演を兼ねた作品。監督主演作品で作品賞と主演男優賞をW受賞したケースはアカデミーの歴史でもこれだけのハズだ。監督賞まで獲ればものすごい快挙だったのだが、この年の監督賞はジョン・ヒューストンが獲っている(「黄金」で)。
「ハムレット」は個人的にはシェイクスピアで一番好きで、かつ、文学作品の中でもトップ5に入るくらい好きな作品だ。
原作戯曲のページをめくりながら夢想した雰囲気がそのまま映像になっているようで、感動ものであった。
持って回ったくどすぎて面白い言い回しも健在。なにしろオリビエの演技が素晴らしい。何百回も舞台で喋ったであろう台詞なだけに、長い台詞を流れるように喋り、しかも台詞を頑張って喋っていると言う感じではなく、ハムレットその人が喋っているような本物っぽさがある。オリビエがハムレットを演じることが何より重要な本作なだけに、カットもいたずらに割ったりせず、聴かせるべき台詞は長回しでじっくり聴かせる。歴史上もっともハムレットっぽい役者ではないかと思うくらいハムレットっぽい 。
カメラも城の中を動き回る様が見事で、しかもミニチュアとセットの継ぎ目がわからない。
城の中でのお家騒動に限定した物語であるだけに、城はミニチュアで全景が映される。ミニチュアの城は、狭い世界で淀み腐っていく王族の悲哀を強調するためだったのかもしれない。
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オリジナルからの改変箇所はいくつかある。思いつくだけ列挙してみる。
(1)ポローニアスが、フランスに行った息子のレイアティーズの様子を探るべく送り込む間者に、様子の探り方を説明するシーンが丸々カットされている。
が、この場面は原作でもストーリーと全く無関係であり当然カットの対象となる場面だが、ポローニアスのくどい言い回しが面白くて無駄だが好きな場面だった。
(2)いくつかのエピソードの順序が入れ替わっている。
物語を2時間30分程度に収めるため、多少のカットと分割再結合は致し方ない。
「行け、尼寺へ」が「生か、死か、それが問題だ」の前に来たり、その「生か、死か」が城内でなく海を見渡す城壁で語っていたりする。それは問題でもないが、本を読みながら登場したハムレットとポローニアスの問答のすぐ次ぎに、ポローニアスたちが隠れてオフィーリアが「行け、尼寺へ」と言われるのを聞くシーンが続くなど、同じような場面ばかりが繰り返され、変な感じがする。(原作では本の問答の後、旅一座の登場となり、その後「生か死か」から「行け尼寺へ」への一続きの場面につづく)
(3)お芝居シーンが大幅に短縮。
ハムレットが王の様子を伺うため、旅一座に、現王が前王を殺した時と同じような芝居をさせる。原作では物語概要を説明する黙劇に続いて、一座の台詞付きの劇中劇が行われるのだが、オリビエ版では黙劇だけで現王が取り乱し、芝居は中止となる。
まあ、ここも話は伝わるので許容範囲。
(4)イギリスに送られたハムレットが王の親書を書き換え、王の使いが英国王に殺される・・・というくだりもない。が、これも許容範囲。
(5)最大の改変は、ノルウェー王子、フォーティンブラスの登場場面が全て削除されたところである。
イギリスに送られるハムレットがフォーティンブラスの軍勢に会うシーンが無いばかりか、ラスト、フォーティンブラスが惨劇の後の城を訪れ、ハムレットの遺言に従いデンマークの王位に就くくだりがない。つまりラストが全く変わっているのだ。
原作では支配者層がことごとく死に崩壊したような国に、新たなる支配者が就いて新秩序の構築が示唆される。新しい時代の到来により、ハムレットが死によってついに安らぎを得たことが強調される。4大悲劇の一つというには妙に壮快さを感じさせる物語なのだ。
しかしオリビエ版には新支配者は出てこない。ハムレットの遺体は支配者を失った国とともに朽ち果てて行くのだ。
悲劇性をより強調する作りとなっているが、それゆえ城内での家族間のもめ事のみに終始し、スケールが小さくなった感は否めない。
ヒーローのかっこよさのみを追求した作りは、80年代以降のアクション映画に通じるものがあるような気がする。
------
99年か98年のケネス・ブラナー監督・主演の「ハムレット」はほぼ原作通りに展開。無駄エピソードも全部再現されている。ただし時代設定が18世紀ごろに変更されている。「ハムレット」ファン的にはブラナー版の方が満足度が高いが、なにぶん5時間近い長さなので、人に薦めにくい。
オリビエ版のほうが2時間30分とコンパクトにまとまっているのと、時代設定が原作のままであることから、他人に薦めやすい仕上がりにはなっている。
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オリビエが制作・監督・主演を兼ねた作品。監督主演作品で作品賞と主演男優賞をW受賞したケースはアカデミーの歴史でもこれだけのハズだ。監督賞まで獲ればものすごい快挙だったのだが、この年の監督賞はジョン・ヒューストンが獲っている(「黄金」で)。
「ハムレット」は個人的にはシェイクスピアで一番好きで、かつ、文学作品の中でもトップ5に入るくらい好きな作品だ。
原作戯曲のページをめくりながら夢想した雰囲気がそのまま映像になっているようで、感動ものであった。
持って回ったくどすぎて面白い言い回しも健在。なにしろオリビエの演技が素晴らしい。何百回も舞台で喋ったであろう台詞なだけに、長い台詞を流れるように喋り、しかも台詞を頑張って喋っていると言う感じではなく、ハムレットその人が喋っているような本物っぽさがある。オリビエがハムレットを演じることが何より重要な本作なだけに、カットもいたずらに割ったりせず、聴かせるべき台詞は長回しでじっくり聴かせる。歴史上もっともハムレットっぽい役者ではないかと思うくらいハムレットっぽい 。
カメラも城の中を動き回る様が見事で、しかもミニチュアとセットの継ぎ目がわからない。
城の中でのお家騒動に限定した物語であるだけに、城はミニチュアで全景が映される。ミニチュアの城は、狭い世界で淀み腐っていく王族の悲哀を強調するためだったのかもしれない。
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オリジナルからの改変箇所はいくつかある。思いつくだけ列挙してみる。
(1)ポローニアスが、フランスに行った息子のレイアティーズの様子を探るべく送り込む間者に、様子の探り方を説明するシーンが丸々カットされている。
が、この場面は原作でもストーリーと全く無関係であり当然カットの対象となる場面だが、ポローニアスのくどい言い回しが面白くて無駄だが好きな場面だった。
(2)いくつかのエピソードの順序が入れ替わっている。
物語を2時間30分程度に収めるため、多少のカットと分割再結合は致し方ない。
「行け、尼寺へ」が「生か、死か、それが問題だ」の前に来たり、その「生か、死か」が城内でなく海を見渡す城壁で語っていたりする。それは問題でもないが、本を読みながら登場したハムレットとポローニアスの問答のすぐ次ぎに、ポローニアスたちが隠れてオフィーリアが「行け、尼寺へ」と言われるのを聞くシーンが続くなど、同じような場面ばかりが繰り返され、変な感じがする。(原作では本の問答の後、旅一座の登場となり、その後「生か死か」から「行け尼寺へ」への一続きの場面につづく)
(3)お芝居シーンが大幅に短縮。
ハムレットが王の様子を伺うため、旅一座に、現王が前王を殺した時と同じような芝居をさせる。原作では物語概要を説明する黙劇に続いて、一座の台詞付きの劇中劇が行われるのだが、オリビエ版では黙劇だけで現王が取り乱し、芝居は中止となる。
まあ、ここも話は伝わるので許容範囲。
(4)イギリスに送られたハムレットが王の親書を書き換え、王の使いが英国王に殺される・・・というくだりもない。が、これも許容範囲。
(5)最大の改変は、ノルウェー王子、フォーティンブラスの登場場面が全て削除されたところである。
イギリスに送られるハムレットがフォーティンブラスの軍勢に会うシーンが無いばかりか、ラスト、フォーティンブラスが惨劇の後の城を訪れ、ハムレットの遺言に従いデンマークの王位に就くくだりがない。つまりラストが全く変わっているのだ。
原作では支配者層がことごとく死に崩壊したような国に、新たなる支配者が就いて新秩序の構築が示唆される。新しい時代の到来により、ハムレットが死によってついに安らぎを得たことが強調される。4大悲劇の一つというには妙に壮快さを感じさせる物語なのだ。
しかしオリビエ版には新支配者は出てこない。ハムレットの遺体は支配者を失った国とともに朽ち果てて行くのだ。
悲劇性をより強調する作りとなっているが、それゆえ城内での家族間のもめ事のみに終始し、スケールが小さくなった感は否めない。
ヒーローのかっこよさのみを追求した作りは、80年代以降のアクション映画に通じるものがあるような気がする。
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99年か98年のケネス・ブラナー監督・主演の「ハムレット」はほぼ原作通りに展開。無駄エピソードも全部再現されている。ただし時代設定が18世紀ごろに変更されている。「ハムレット」ファン的にはブラナー版の方が満足度が高いが、なにぶん5時間近い長さなので、人に薦めにくい。
オリビエ版のほうが2時間30分とコンパクトにまとまっているのと、時代設定が原作のままであることから、他人に薦めやすい仕上がりにはなっている。
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