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映像作品とクラシック音楽 第56回『ある日どこかで』~時空を超えた愛を結びつけるラフマニノフの狂詩曲

2022-03-06 11:43:37 | 映像作品とクラシック音楽
さて久しぶりの投稿となります
オリンピック期間中は、ヤップヤップウォーとカーリングの応援に忙しく、オリンピックが終われば戦争でこの種の投稿を書く気になれなかったのでした。
プーチンが戦争をやめてウクライナに平和がくることを願いつつ、書いています。

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『ある日どこかで』ですが、実は最近ブルーレイを購入して初めて鑑賞しました。
たしかジョン・バリーについて書いた際に、どなたかがコメントでこの映画のことをおススメされていたと思います。
その時は私は『ある日どこかで』は未見だったのですが、カルト的人気を誇る作品だ・・・ということは知識として知っていました。
それで観てみようと思ったはいいのですが、主要な配信サービス(アマプラ、ネトフリ、Unext、Appple)では本作は配信されていなかったのです。
それで、結局ブルーレイを買ってしまったのでした。

監督はヤノット・シュワルツだったと記憶してました。ヤノット・シュワルツといえば『ジョーズ2』の監督ですよ。今でこそ1作目ほどには評価できない映画なのですが、初めて見た中学生のときは景気よく人がバクバク食われる展開が楽しくて中学生的には1より面白かったくらいです。
ところが、タワレコオンラインで買おうとしたこの作品は「監督:ジュノー・シュウォーク」と書かれています。むむ、シュワルツじゃない? 似たタイトルの別の映画か? と少し不安を抱きながら買いました。
で、監督表記の違いの謎は解けました。
監督はフランス出身でして、Jeannot Szwarcを英語読みすると「ヤノット・シュワルツ」、フランス語読みすると
「ジュノー・シュウォーク」となるわけです。

前述のように『ジョーズ2』でも有名ですが、『ある日どこかで』の後では『スーパーガール』も監督しています。
『ある日どこかで』→クリストファー・リーヴ→スーパーマン→その姪っこ…というつながりでしょうか。映画作品は少ないですがなかなか面白いフィルモグラフィの監督です。90年代以降は主にテレビで活躍していたようです。まだ存命ですね。DC系の映画でまた監督してくれないかな…

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ともかく『ある日どこかで』を見たわけですが、とっても面白かったです。1980年の映画です。超簡単に紹介すると最近流行のタイムリープものです。
1980年を生きる青年が、1912年にタイムリープし、その時代を生きていたある女性に会いに行く…というものです。
タイムリープものの先駆けと言われる『時をかける少女』の大林亘彦監督による実写映画化は1983年ですから『ある日どこかで』に影響をうけて制作された可能性はあります。もっとも『時をかける少女』の原作(筒井康隆)は1967年刊行で、『ある日どこかで』の原作(リチャード・マシスン"Bid Time Return")は1976年ということで、原作においては『時かけ』に影響されて『ある日どこかで』が生まれた可能性もあります。

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映画が始まると、1972年という字幕とともにある大学の演劇公演が行われています。
舞台がはねて出演者たちが劇作家の青年を囲んで楽しく打ち上げをしているのですが、その劇作家はというと、髪を伸ばしたスーパーマン=クラーク・ケントじゃないか!?と思うのですが、クリストファー・リーヴが演じているというだけでクラーク・ケントとは別人です。それにしましてもこの薄らデカくてやたらハンサムというルックスは強いですよね。
するとそのクラークじゃなくてリーヴ演じるリチャード・コリアーに、一人の老婦人が近づいてくるのです。気品あふれる老婦人はリチャードの手を握ると懐中時計を手渡し「戻ってきて」と言って、そして去っていきます。
リチャードはその老婦人には会ったこともないし、誰なのか知りません。彼はクラークケントではないので地球を逆回しして時を戻すこともできませんし、いったい何のことやらポカーンって顔して老婦人の後ろ姿を見つめます。
その夜。老婦人は帰宅します。一人で寝室に入り、レコードをかけます。レコードはラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」が流れます。老婦人は狂詩曲の一番有名な部分のメロディを聴きながら満ち足りた表情を浮かべます。後でわかることなのですが彼女はこの日に亡くなるのです。
そして映像はフェードアウトしますがラフマニノフの狂詩曲は流れ続けます。映像はフェードインして「8年後」の字幕とともに、高層マンションの一室と思しき部屋に場面が変わります。カメラは狂詩曲の美しいメロディのリズムにあわせるように、ゆーっくりとパンしていき、いくつかの賞状やトロフィーが映ります。その中にはリチャードが老婦人に会った日の公演と同じ題の演目に対する賞状も見えます。そしてカメラはあれから8年たったリチャードを写し、リチャードは自分の部屋でかけていた「パガニーニの主題による狂詩曲」のレコードから針をあげます。

このシーンの演出は極めて秀逸です。
一言の台詞もなく、カメラがパンするだけの1カットという映画演出的には最も労力の少ない演出でありながら、非常に多くのことを伝えています。
リチャードが8年の間に、学生演劇でぶいぶい言わしていただけの奴から、プロの劇作家となりまあまあ成功してきたこと。リチャードと老婦人が同じ音楽を聴いていたこと。そこから二人には何らかのつながりがあることなどが感じ取れます。

さてリチャードはというと、ただいま大スランプ中で、新しい劇を書かなきゃならないのに全然アイデアがわいてこないのです。こういう時は気分転換だと一人旅に出かけます。(こういう時の気分転換って結局何の役にもたたないことが多いのですが、気持ちはわかります)

彼は何気に通りかかった湖畔のグランドホテルに、何かを感じ取ったのか、あるいは単に景色が良かったからなのか、そのホテルに宿泊します。予約はとってなかったのですがシーズンでもないし部屋は開いてました。
100年くらいの歴史のあるホテルなのですが、そこでリチャードはホテルの歴史資料展示室で一人の女優の写真を見つけます。68年前に撮られた写真でしたが、リチャードにはわかったのです。あの日の老婦人だと。
調べてみるとこの女優はエリーズ・マッケナという人で、当時売り出し中の新進女優だったのですが、68年前の1912年にこのホテルでの行われた公演を最後に、なぜか突然引退したことが分かります。
また、亡くなったのが1972年の、あのリチャードに懐中時計を渡した日の夜だったこともわかります。
亡くなったエリーズの家を訪れたリチャードは彼女の蔵書に、リチャードの大学時代の哲学の担当教授が書いた時間旅行についての本を発見します。
大学の恩師に会いに行くと、教授は言うのです。自分の行きたい時代の持ち物を身に着けて自己暗示をかけることでその時代に行くことができるのだ!!と。ただし気をつけろ。もし現代の持ち物を身に着けていてそれを一目でも見たら直ちに現代に引き戻されるからな・・・とも。
そんなバカな!とは思わない良い人なところはクラーク・ケントと変わらないリチャードは、教授に教わった方法で1912年に行ってみようと、試すのです。そして苦心の末、なんとなんと、行っちゃったのです。1912年のグランドホテルに!

そこで美しい女優のエリーズに出会い、まあ色々あって二人はやっぱ恋に落ちるのです。
ある時、二人で湖に手漕ぎボートのデートをしていると、リチャードはボートを漕ぎながら鼻歌を歌うのです。ジョン・ウィリアムズ作曲のスーパーマンマーチではありません。「パガニーニの主題による狂詩曲」のあの一番有名なメロディのところです。
素敵な曲と思ったエリーズは何という曲か?と聞くと、リチャードはラフマニノフの狂詩曲だよと教えます。するとエリーズは、ラフマニノフは好きな作曲家だけどその曲は知らないわ、と言います。
それはそうなのです。1912年というこの時期ラフマニノフは西ヨーロッパで活動していましたが、「パガニーニの主題による狂詩曲」は1934年の発表です。

ここの何気ない会話について、映画ではこれ以上の言及はないのですが、恐らく後にエリーズがリチャードは未来から来たのだと確信させる根拠になったのだと思います。

ちなみにネットで調べたところによると、原作ではラフマニノフの狂詩曲ではなく、マーラーの10番が二人を引き合わせる楽曲とのこと。マーラー10番もまた1924年に公表されたとのことで、1912年には存在しなかった楽曲で物語のアイテムとしては有りですね。
原作とは変えてラフマニノフを使おうと提案したのはこれもネット情報ですが、本作の音楽担当のジョン・バリーだったということです。
ジョン・バリーの劇伴曲もまた、恋愛映画モードのジョン・バリー節全開な、ロマンティックなストリングスとピアノの音が美しくて魅了します。

ラフマニノフの狂詩曲のあのメロディを聴くと、一緒に過ごしたのは数日だったかもしれないけれど、二人にとっての永遠と言える深い愛の時間を思い出して、胸が熱くなってしまいます。
映画で使われた音源ではないのですが、本作を見てラフマニノフの狂詩曲を聴きたくなってハイティンク指揮、アシュケナージのピアノのアルバムを買いました。ラフマニノフのピアノ協奏曲1~4番も聴けてお得で、濃いアルバムです。昨年亡くなったハイティンクのことも思いつつ聞いています。

早くウクライナに平和と自由が戻ることを願いつつ、人道的にできる手助けは何だろうと考えながら、それでもラフマニノフの美しいメロディは心に沁みてきます

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