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映像作品とクラシック音楽 第68回 伊福部昭SF交響ファンタジー第2番

2022-08-28 16:48:00 | 映像作品とクラシック音楽
伊福部昭によるSF交響ファンタジー第1番〜第3番は1983年に初演されました。
このうち第1番は(このシリーズの第40回でも書きましたが)、序盤に有名なゴジラのテーマが流れることもあり、一番人気があり演奏機会も非常に多い作品です。
しかしながら第2番と第3番については、なかなか単品で演奏されることはなく、なんならその存在すら知らない人も多いように思われます。
クラシック音楽ファンで伊福部ファンで映画音楽ファンで怪獣ファンな私としましては、1番に比べてあまり有名でない2番3番を紹介する使命があるように思いましたので、書いてみたいと思います。

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「伊福部昭 SF交響ファンタジー第2番」

演奏時間は初演の演奏タイムをもとにするとSF交響ファンタジー中最も長く16分くらいです。10曲程度の特撮映画の楽曲を組曲風に並べたものですが、演奏会用に様々に編曲されています。

冒頭は静かにゆっくりティンパニがリズムを刻みながら、木管が『奇巌城の冒険』(1966)のメロディを奏でます。静けさのなかに不安を潜ませた曲が1分ほど続きます。第1番がいきなり高らかにゴジラ登場のモチーフを響かせたのと対照的な出だしです。
ちなみに『奇巌城の冒険』のテーマですが、パーカッションを激しめにすると『緯度0大作戦』のテーマに、パーカッションをなくして主旋律をホルンが奏でれば『モスラ対ゴジラ』のモスラが棲むインファント島のテーマになります。
ところで実は私は『奇岩城の冒険』は未見なのですが調べたところによると太宰の「走れメロス」を元にした作品で、主演は三船敏郎、監督は谷口千吉とのことです。谷口千吉監督と言いますと、その監督デビュー作『銀嶺の果て』は、三船敏郎の映画デビュー作でもあり、伊福部昭の映画音楽デビュー作でもありまして、実は日本映画史において非常に重要な作品なのです。谷口と伊福部は『銀嶺の果て』の音楽で大喧嘩し大もめにもめたそうで、2人を仲裁して伊福部昭の意見を通したのが誰あろう黒澤明(『銀嶺の果て』の脚本担当で谷口とは助監督時代からの友人)だったという逸話もあります。

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さて奇巌城の余韻に浸る間も無く、曲は突如として邪悪な宇宙怪獣出現を思わせる迫力ある曲に変わります。
キングギドラのテーマです。巨大、邪悪、強力、破壊破壊破壊といったイメージの曲はゴジラ最大最強のライバルのテーマにふさわしいものです。
そして曲はギドラテーマから間髪いれずに通称「激闘のテーマ」に移ります。『キングコング対ゴジラ』(1962)において、両怪獣が中禅寺湖畔や熱海市内で激闘するシーンに流された、テンポの速い曲です。

この「キングギドラテーマ」→「激闘のテーマ」の繋ぎ方ですが、後年伊福部昭が音楽を担当したいわゆる平成ゴジラVSシリーズの第3作『ゴジラVSキングギドラ』(1991)のBGMに踏襲されます。

特にクライマックス、新宿都庁付近を蹂躙するゴジラの目前に未来から転送されたメカギドラが登場し、キングギドラのテーマが大ボリュームで鳴る中、都庁の周りをゆっくりと飛ぶギドラ。やがて着地し、どういう仕組みかわかりませんがあちこちビカビカ光って、さらにカットはコックピット内に移り、中川安奈演じるエイミーが操縦桿をグイッと握ると激闘のテーマに移行するところは最高テンション上がります。
で、SF交響ファンタジーを聴き込んだ人にとっては、『ゴジラVSキングギドラ』この曲の流れは第2番じゃないか!!って感動の方が勝ってしまうのですね。

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さてSF交響ファンタジー第2番に話を戻します。
激闘のテーマの後は、『モスラ対ゴジラ』(1964)よりザ・ピーナッツ演じる「小美人」が歌っていた「聖なる泉」の優しいメロディに癒されます。当然ながら残念ながらヴォーカルはありません。
モスラーヤ、モスラーじゃないですよ。あれは『モスラ』(1960)音楽担当だった古関裕而によるものです。
ちなみに小美人のおふたりは、『三大怪獣地球最大の決戦』では宮川泰作曲の歌を、『ゴジラ・エビラ・モスラ南海の大決闘』では佐藤勝作曲の歌と、古関、伊福部、宮川、佐藤と錚々たる面々が楽曲提供してくれたわけです。スーパーアイドルかよ。
それにしましても伊福部昭の「聖なる泉」のメロディの美しさは氏の全作品中でも格別のものではないでしょうか。

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モスラで南太平洋のエキゾチックさに癒された後は、日本の東北の山奥の秘境村の民俗音楽となります。『大怪獣バラン』(1958)よりバラダギ山神に捧げる歌のメロディです。
文明から隔絶された東北の山奥で湖の主である恐竜の生き残りをバラダギ山神として称える村人たちの神に捧げる歌です。…って東北をなんだと思ってんだよって設定に突っ込むのはやめてください。
聖なる泉と違って荒々しい祈りです。映画だと「バラダギバラダギ!」とコーラスも入るのですが、交響ファンタジーではコーラスはありません。フルオーケストラ、激しい打楽器、そしてピアノの高音部のメロディとも言えない「音の時雨」のようなピロリロリンという音が敢えての違和感として投げ込まれて強い印象を残します。
ちなみに映画のバランは山奥の湖で暮らしていただけなのに、怪獣だ!って言われて自衛隊の爆雷攻撃を受けて湖を飛び出し、太平洋に逃げます。その後東京上陸コースで日本本土を目指し始めたので自衛隊の総攻撃を受けながらもついに羽田空港に上陸。しかしその空港であっけなく倒されます。現実の出来事なら「大した被害出る前に倒せてよかったね」…なんですが、映画なら「東京ぶっ壊さんかい!!」って思ってしまいます。

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さてバランの熱い曲の後はまたまた伊福部屈指の名曲『三大怪獣地球最大の決戦』(1964)より「黒部谷のテーマ」です。
映画では黒部渓谷に落ちた謎の隕石(実はキングギドラの卵)の調査隊が山道を進むシーンに掛かります。映画での使用時間は30秒もないくらいの短さですが、音楽の美しさは印象に残ります。山々にこだまするようなホルンのメロディをトランペットが追う、そんなシンプルな曲ですが、北アルプスあたりを登山する時にエンドレスで聴いていたい曲です。
土俗的なメロディ、エキゾチックさが得意な伊福部昭ですが、自然描写もシベリウス並みにうまいことがわかります。
伊福部昭も黒部谷のテーマを気に入っていたらしく『三大怪獣〜』の翌年の『怪獣大戦争』ではもっと長い曲にして映画のエンディングで使っていました。
しかし、黒部谷のテーマは切れ目なく続く『キングコングの逆襲』(1967)のキングコングのテーマで突如として恐ろしい大怪獣が出現したかの如き変貌を見せます。(初演版LPの解説ではメカニコング登場の曲と紹介されてましたが、私は『キングコングの逆襲』はDVDも持っていて何度も見てますが、使われ方としてはキングコングの方のテーマとしてだよなあと思ってます)
この曲なんですが第2番の序盤で奏でられたキングギドラのテーマにそっくりなんですね。知らない人が聞いたら違いが全くわからないレベルでそっくりです。
序盤と終盤を同じような曲で挟み込んで楽曲全体に統一感を持たせようという意図があるのだと思います。
そして曲はコングのテーマから締めのマーチに途切れることなく移行します。

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さてこのマーチの冒頭部分ですが、ティンパニとピアノがズンズンとリズムを刻む勇ましい曲ですが、しかしこれだけ怪獣映画を見て怪獣音楽を聴きまくってきた私をもってしてもどの映画の曲だかわかりません。恐らくマーチ後半の名曲「メーサーマーチ」をいきなり始めるのも何だから接続用に新規で書き下ろした部分なのだと思います。(知ってる方おりましたら情報求ム)
で、その何の曲かわからないけどとても勇ましいマーチに続けて伊福部マーチの中でも屈指の名曲「メーサーマーチ」に移行します。
『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』(1966)より自衛隊のメーサー殺獣光線車部隊が出撃・交戦するシーンの曲です。
皆さまは怪獣映画の自衛隊というと、怪獣に全く歯が立たないただのやられ役のイメージをお持ちかもしれませんが、『サンダ対ガイラ』の自衛隊は強かったのです。メーサー殺獣光線は森の木々をなぎ倒しながらガイラに容赦なく撃ち込まれ、ガイラはなすすべなく後一歩で絶命というところまで追い込まれました。見ていて痛々しいくらいでした。兄弟怪獣のサンダが助けに来たために倒し損なってしまうのですが。
このメーサー殺獣光線車マーチがまたとてもカッコいいのです。映画に使用されるのはメーサー殺獣光線の準備と予想逃走経路上の川に感電罠を仕掛けたりする、いわば黙々と作戦準備をするシーンでした。その後もメーサー光線車が出てくるとこのマーチが鳴り響き、ガイラにとっては恐怖のトラウマ曲にも聞こえます。

後年の『ゴジラVSモスラ』(1993 音楽:伊福部昭)においてもゴジラの首都圏侵入を阻止すべく自衛隊のメーサー光線部隊が攻撃を加える場面でこの曲が使われました。この時はゴジラにわけもなく全滅させられるのですが。

もともとカッコよかったこの曲を伊福部昭はさらに編曲し、映画だと場面に合わせてブツリと切られていた曲にきちんとコーダをつけてバキバキに盛り上げて終わります。
家で聞いていても思わず拍手したくなる熱さです。
コーダの部分にさりげなく『空の大怪獣ラドン』でも使われたメロディが入るのもいいですね(ラドン以外でも色んな映画で使われてますが。)

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と、まあそんな感じの伊福部昭SF交響ファンタジー第2番の解説でした。
怪獣映画知らないしって方はあまり興味を持っていただけない曲かもしれませんが、いやいや、これほどドラマチックに緩急がつき、異世界ファンタジーやら自然描写やら熱い戦いやらが入り乱れた第2番は純音楽作品として単純に楽しめる名曲です。
有名な第1番にもまったく引けを取らないですし、1番とセットじゃなくてもこれ単品でも十分に楽しめますので、クラシック音楽好きの皆さまにはぜひ聞いていただきたいです。

YouTubeで探したら、面白い演奏を見つけました

外国の指揮者、オケによる演奏ですが、最後の「メーサーマーチ」がものすごくスネアドラムが強調されていてまるでアメリカ戦争映画のテーマ曲(『大脱走』とか)のような雰囲気になっていました。指揮者の解釈でこうも変わるものか、と興味深い演奏です。

それでは今回はこんなところで!
次回はSF交響ファンタジー第3番について書きたいと思います。
また素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう!

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