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【映評】ディーパンの闘い [そして家族になる…前に最後だけダイハードやってみよう]

2016-03-18 01:32:36 | 映評 2013~
71点
オープニングはスリランカの郊外、熱帯風の林が奥にあり、そして何かが燃えている
カットが変わりカメラが近づくと燃えているのは死体の山だったことがわかる。
死体を燃やしている兵士、ディーパン。作業の後兵士の服を脱ぎ棄てて出ていく。
どうやら脱走するつもりらしい。
そして場面は変わり一人の女性が親を亡くした見ず知らずの女の子を連れて、難民申請の簡易施設に行き母娘ですと嘘をつく
さらにディーパンが父親役にあてがわれて、三人の偽家族が難民としてフランスに渡る

さてオープニングシーンだが、自分にはただの物語の始まり以上の意味は見いだせなかった。
場所の提示、主人公たちの設定の見せ方はホンとしてはうまいのだけど、「何かが燃えているスリランカ郊外」というだけの始まりでよかったのだろうか。

さらに最終的な、あれれいつの間にこんな映画になったの的な展開を考えればファーストシーンはもっとラストの伏線となるような何かを盛り込むべきだったのでは、と思ってしまう。

ラストの話はおいといて、物語は難民申請をごまかすために偽家族となった三人の物語。
寡黙なディーパンは内戦下のスリランカの兵士として見たくないものをたくさん見てきたのだろう。
感情表現が苦手で、ユーモアのセンスもないディーパン
フランス語が少しわかるようになってきたころ、仕事仲間たちの語るジョークが全然面白くないのは言葉の問題だと偽の妻ヤリニに愚痴をこぼすと、ヤリニはあなたのセンスの問題、たぶんタミル語のジョークでもあなたは笑わない、とそんなことをいう場面は、彼の性格を表し、家族の距離も縮める素晴らしいシーンだった。
この映画は偽の家族が本当の家族になるまでを描いた映画だ。
それについては最初から最後までしっかり筋が通っている。むしろ問題なのはしっかりしすぎていて本筋については意外性はなにもないところだ。
娯楽映画のセオリー通りに、出会い→反発→次第に打ち解けあい→大きな事件で崩壊の危機→もっと大きな事件でクライマックスに突入し大団円を迎えるという、定型すぎる展開になってしまった感がある。

そんないわば平凡なストーリーに、変化を与えるものはあまり映画で取り上げられないスリランカの人たちのこと、ヨーロッパで大きな問題となっている難民問題を絡めたこと、やっとの思いで戦乱の国を出ても現実は貧しい暮らし、差別、やっとつかんだ仕事とも裏社会のにおいぷんぷんという現実を描いたところ。
むしろ、それらを描くに当たりストーリーで奇をてらうことを避けたのかもしれない。
偽家族が、そして家族になる、話というのもまた上辺で、もはやよその国の戦乱が他人事ではなくなってしまったフランスの現実を感じさせたかったのだろうか

…などと考えていると、映画は驚愕の突如として驚愕の展開となる。途中で脚本家が死んで別の人が続きを書いたのかと思うほどに

話もよくできているし、役者たちの演技も素晴らしく、作者の意図も伝わってきてると思っていた。
けど、クライマックス、なんか知らんけど突然ダイ・ハードな展開
強い戦士だという伏線がほとんど無かっただけにクライマックスの突然アクション映画に正直戸惑う
色々あってマンションの最上階で悪いやつに囚われる偽の妻
携帯電話からの「助けて」の声に突如戦士の血が目覚めるディーパン。
なんとなく昔の少年漫画にありがちな「フフフ、君の恋人はこの塔の最上階にいる。助けたければ登ってくるがよい。もっとも各階にいる五人の門番を倒せればの話だがね。フハハハハ…」な展開を思い出す。
そしてディーパンはブルースウィリスやメルギブソンさながらの強さでマンションに巣食う悪党どもを殺しまくって、え、えーと、こんな映画だったっけ?という私の戸惑いなどお構いなしに妻を救出するのである。
だったら、オープニングは戦闘シーンにするとか、それはやりすぎにしても、中版のシーンで強さを彷彿とさせるエピソードを入れるとか、彼が元上官に会うシーンで上官に台詞だけでもいいからディーパンの強さを語らせればよかったのでは。
(スタローン映画だったら、売人どもの巣窟と化したマンションにディーパンが向かったことを知った上官が「何てことだ…死体袋が30や40じゃ足りなくなるぞ!」とでも言うところだ)

こうして三人は本当の家族になりました。メデタシメデタシっておい!
売人組織を全滅させてしまった彼があの後平穏な生活ご待ってる気はしないけれど、あのエンドシーンののどかなこと。
もっとも彼の立場で警察などに助けを求めても相手にされない気もするし、ああするしかなかったというつらい現実を見せたかったのかもしれない。

内戦のスリランカ、ヨーロッパの難民問題、フランスのテロ、家族の物語…と色々考えさせて終わってみたらなんてことない、犯罪映画でアクション映画だったか。
いろんなもんぶち込んで味がわからなくなりかけたところで、アクションというカレー粉のような全てをかき消すスパイス入れて無理やり統一感もたせたような映画。

強引さもチグハグさも深いんだか軽いんだか分からないヘンテコな手触り。

カンヌのパルムドールをとった作品であるが、それほどのもんかな~
でもその時のカンヌの審査員長がコーエン兄弟だと聞くと、あいつらの好きそうな映画という気もする

『ディーパンの闘い』
監督 ジャック・オディアール
出演 アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、
カラウタヤニ・ヴィナシタンビ、ヴァンサン・ロティエ
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