そんな訳で久々のSS投稿です。
COJの世界を舞台とした作品です。
尚本作は原作をベースとしたオリジナル設定で作られているので、
原作と設定が異なるなどの点についてはご容赦願います。
それではお楽しみ下さい。
――
◎現在の連載作品
・エスケープ・フロム・ゲイン・グランド
その1
◎過去作品
○連載もの
・クエスト・フォー・ザ・ムーン(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7(エピローグ)
・ロボトミー・ソルジャー(全4話)
その1
その2
その3
その4
・メリー・クリスマス・フロム・アルカナ(全2話)
その1
その2
・リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
・タイガース・ダウンフォール(全4話)
その1
その2
その3
その4
・デイズ・イン・サマースクール(全5話)
その1
その2
その3
その4
その5
○その他エピソード
・バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード(連載再開未定)
その1
その2
・切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話
・エージェント・イン・スイムスーツ
・イーリスの物語
・シャドウメイジ・ジ・アサシン
○特別企画
・COJゲームブック:幻のアニメ(2016年エイプリルフール企画)
<<<エスケープ・フロム・ゲイン・グランド その2>>>
作:Nissa(;-;)IKU
生徒会室に現れたホログラムの男――読者の中には見覚えのあるという者もいるかも知れない。そう、犯罪率の低さで定評のある南目黒一帯を管轄する地元警察署長、田栗大七郎である。何故彼がここに現れたのか、それを説明するには少し時間を遡る必要がある――。
――
事の発端は半年程前に南目黒で起きた、奇妙きまわりない死体遺棄事件であった。南目黒の早朝の通学路上に、約100メートルに亘って男子高校生と思われる頭や手足、内臓などがばらまかれていたのが発見されたのである。
地元警察が捜査の為に動き出したのは言うまでもない。だが田栗の一声で、捜査は1週間と経たずに打ち切られた。余りにも不条理かつ手がかりの無い犯行で捜査が困難というのが表向きの理由であったが、その背後には彼の、とある思惑があったのだった。
田栗は地域の高所得者層への便宜の為、彼らや彼らの子息の犯罪行為――窃盗や器物破損などの軽微なものから、ドラッグ利用、自殺に発展した暴力行為などの重大なものまで様々である――のもみ消しを行い、その見返りとして多額の謝礼を受けていたのである。
南目黒での犯罪率の低さは田栗率いる邪悪なる地元警察と、地域の傲慢なる高所得住民との「共犯」に裏付けられたものであったのだ。かの事件がきっかけで外部からの介入を受け、事実が発覚することを恐れた彼は住民の協力を得、「迷宮入り」の形で事件を終結させたのだった。
だが彼らに恨みを持つ低所得住民や、事実を知らない外部からの反発を受ける可能性が残っていた。そこにとある「組織」が接触を図ったのである。
「組織」の提案は奇妙で、にわかには信じられないものであった――量子コンピュータ技術の再現によって行き来可能となった異次元空間に、事実発覚の原因となる「危険分子」を閉じ込めてしまうというものである。
当然田栗はこれを疑った。だが「ロボット兵」と呼ばれる人型の無人機の、遠隔操作による実演を見せられたことで、彼は「毒を食らわば皿まで」ということわざを思い出したのである。
――
かくして彼は「共犯者」の協力を得て、一帯の「危険分子」の拘束に取り掛かった。最初は一帯に迷い込んだホームレスが、続いて「共犯者」からの通報で発見された低所得住民や報道関係者が次々と拘束され、警察署の地下に作られた「ゲート」を通して、異次元空間へと送られていった。
異次元空間へ送られた「危険分子」の多くは、直後に「拒絶反応」を起こし、内臓破裂を起こして即死する。一方幸運にも――あるいは不幸にも――これを生き延びた者はショッピングモールを改造したと思われる巨大な「施設」に収容されるのである。
この恐るべき隠匿行為を語る上で、一人外せない人物がいる。田栗の息子であり、南目黒の中心部に建つ中高一貫型の私立学園「大パラゴン学園」高等部の生徒会長、七太郎である。
そもそも南目黒は旧世紀に開校された「大パラゴン学園」と共に発展してきた街である。その高等部の生徒会長を務める彼が、「校内及び校外の風紀の改善」の名目で「危険分子」の拘束に積極的に関わったのは必然であった。それは彼が恵まれた環境で育ったが故の「選民意識」の現れでもあろう。
――
「施設」の空きが埋まりかけた頃、その七太郎が父に提案を行った――彼らに殺し合いを行わせ、それを「カジノ」で見世物にして賭博収入を得ようというものである。施設の空きを増やせ、住民への報奨の支払いや施設の管理などで失われた費用も回収できるという、一石二鳥な計画である。
「健全な学園都市」を建前としている南目黒は、そもそも娯楽施設の皆無な街であった。骨董ゲームコーナーはもとより、パチンコ屋や雀荘、将棋ルームすら今まで建てられたことが無かったのだ。「この街にふさわしくない」――ここの住民なら口をそろえてそういった施設に反対するであろう。
勿論それも建前上の話であり、実際のところ住民は娯楽に――それも出来るだけ刺激の強いものに――飢えていたのだ。かの親子がカジノの設立という発想に至ったのも、住民の潜在的な欲求に応える為という意味合いもあったのだ。
問題はそのカジノをどこに建てるかであったが――答えは「大パラゴン学園」の地下にあった。校舎の裏口と最上階の生徒会室に隠されていた2つのエレベータが、長らく放置されていた地下講堂にに繋がっていることが偶然にも発見されたのだ。
核戦争に備えてのシェルターとして作られたとも言われたが、今となってはその目的は不明である。ともあれこの地下講堂とエレベータは改修され、地元民限定の会員制カジノ「ゲイン・グランド」へと生まれ変わった。
勿論そこへの入口は普段は閉鎖されており、その場所は巧妙に隠匿されている。そして深夜になると選ばれた住民だけが専用パスポートを利用して敷地内に入り、かのエレベータからカジノに入ることが出来るという仕組みである。
かくして「ゲイン・グランド」は「マック」の名でステージMCを兼任する七太郎の下で、「ビジネス」を開始した。初日は立ち見が出る程の人入りとなり、その後も入場者は寧ろ増加の傾向となった。余りにも順調な為、その売上は最早「組織」への報告が必要な程にまで膨れ上がっていたのだ――。
――
「――何しろあれだけの売上だ、彼らが放っておく筈がないだろう」大七郎はホログラムの横にポップアップ表示された折れ線グラフに目をやった。既に「組織」との人身売買で得た金額の10倍以上の利益である。「そろそろ潮時かも知れん」
「つまり――『ゲイン・グランド』は閉鎖と?」「『改装のため一時閉店』といったところだな」七太郎の問いかけに、大七郎は小さく頷いた。「それに、お前も来年は受験だろう。再開は大学に入ってからでも出来る筈だ」
「そうか…」七太郎の脳裏に「ゲイン・グランド」での思い出が蘇る。ドラッグ入りのドリンクで老夫婦を寝たきり老人に変えたこと、自宅に「ゲイン・グランド・ガール」達を呼びつけて一晩を明かしたこと、ロボット兵を操縦して気に入らない収容者共を射殺して回ったこと――。
「――楽しかったんだけどなあ…」七太郎は感慨深げに椅子にもたれかかり、天井を見上げた。発光水晶をモザイクめいて並べて模られた、西洋鎧に身に纏った戦国大名の姿が目に入った。「なら最後に一儲けしようじゃないか、あの施設を吹き飛ばすついでにさ」
「それを見世物にするのか?」息子の大胆だが理に適った提案に、大七郎は感嘆の声を上げた。「だが口封じや証拠隠滅は大事だ。爆発は反乱者の自爆テロということにすれば『組織』との交渉の時にも辻褄合わせが利くし、それで利益が上がるなら言うことなしだ」
一般の住民は異次元空間の存在を知らない。「ゲイン・グランド」で映し出されている戦闘シーンもリアルなCG映像だと思っているのだ。仮に戦士達が全員爆死しても衝撃を受けることこそあれ、それで真実が発覚することはないという算段である。何という悪魔的発想であろうか。
「――そろそろ時間だな、僕はもう戻るよ」ホログラムの脇に映る時計に目を向けた後、七太郎は立ち上がった。「パパもゆっくり休んで、明日も早いんでしょ?」「ああ、そろそろ寝るさ。最後の日はパパも遊びに行くよ」「ありがとう、じゃ、おやすみ」
通信を切断した後、七太郎は机の上のベネチア風仮面を被り、部屋の奥の本棚に向かった。その奥に「ゲイン・グランド」への直通エレベータが隠されているのだ。
「――それにしても、馬鹿な奴らよ」急降下してゆくエレベータの中で、七太郎――「マック」は呟いた。「勝ち続ければ自由になれるとでも思っているのか?闘牛場の牛は勝敗に関わらず殺される運命なんだ。そんなことも知らずに――」彼の高笑いがエレベータ内に響いた。
――
地下回廊から戻った静馬を、いつも通りスーツ姿の係員が廊下で出迎えに来ていた。「99連勝おめでとうございます」銀色に輝く長い髪と白い肌を持つ、若い女である。「今日は所長からの計らいで、特別室をご用意いたしました。これから案内いたします」
静馬は係員の斜め後ろに付き、その様子を観察していた。ジャケットとタイトスカートに包まれた華奢な体、肌の白さと脚の細さを際立たせる薄手の黒いタイツと白いパンプス――(初めて見る顔だな、まるで少女だ)静馬は心の中で小さく呟いた。
暫くして2人は廊下の端にある両開きの扉の前に辿り着いた。係員が扉を開くと「特別室」が姿を現した。回転する天蓋つきベッド、ジャグジー付きのバスルーム、天井を飾るミラーボール――(豪華だが、どこか悪趣味な感じがするな)静馬は光り輝く室内に思わず目を細めた。
「さて――と」扉を閉めた係員暫く部屋の様子を見回した後、静馬に向き直った。「5分だけ時間をよろしいか?お主は――この施設から抜け出したいと思ったことは?」
静馬の受けた衝撃は甚大であった。話の唐突さもさることながら、彼女が突然別人の様に口調が変わったからであった。
<<<その2おわり、その3につづく>>>
――
◎おまけ:M・o・Aちゃんが何か言う
――
◎宣伝
転生の宴はセガ・インタラクティブサポーターズサイトに登録されています。興味を持たれましたら投票してみるのも良いでしょう。
COJの世界を舞台とした作品です。
尚本作は原作をベースとしたオリジナル設定で作られているので、
原作と設定が異なるなどの点についてはご容赦願います。
それではお楽しみ下さい。
――
◎現在の連載作品
・エスケープ・フロム・ゲイン・グランド
その1
◎過去作品
○連載もの
・クエスト・フォー・ザ・ムーン(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7(エピローグ)
・ロボトミー・ソルジャー(全4話)
その1
その2
その3
その4
・メリー・クリスマス・フロム・アルカナ(全2話)
その1
その2
・リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
・タイガース・ダウンフォール(全4話)
その1
その2
その3
その4
・デイズ・イン・サマースクール(全5話)
その1
その2
その3
その4
その5
○その他エピソード
・バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード(連載再開未定)
その1
その2
・切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話
・エージェント・イン・スイムスーツ
・イーリスの物語
・シャドウメイジ・ジ・アサシン
○特別企画
・COJゲームブック:幻のアニメ(2016年エイプリルフール企画)
<<<エスケープ・フロム・ゲイン・グランド その2>>>
作:Nissa(;-;)IKU
生徒会室に現れたホログラムの男――読者の中には見覚えのあるという者もいるかも知れない。そう、犯罪率の低さで定評のある南目黒一帯を管轄する地元警察署長、田栗大七郎である。何故彼がここに現れたのか、それを説明するには少し時間を遡る必要がある――。
――
事の発端は半年程前に南目黒で起きた、奇妙きまわりない死体遺棄事件であった。南目黒の早朝の通学路上に、約100メートルに亘って男子高校生と思われる頭や手足、内臓などがばらまかれていたのが発見されたのである。
地元警察が捜査の為に動き出したのは言うまでもない。だが田栗の一声で、捜査は1週間と経たずに打ち切られた。余りにも不条理かつ手がかりの無い犯行で捜査が困難というのが表向きの理由であったが、その背後には彼の、とある思惑があったのだった。
田栗は地域の高所得者層への便宜の為、彼らや彼らの子息の犯罪行為――窃盗や器物破損などの軽微なものから、ドラッグ利用、自殺に発展した暴力行為などの重大なものまで様々である――のもみ消しを行い、その見返りとして多額の謝礼を受けていたのである。
南目黒での犯罪率の低さは田栗率いる邪悪なる地元警察と、地域の傲慢なる高所得住民との「共犯」に裏付けられたものであったのだ。かの事件がきっかけで外部からの介入を受け、事実が発覚することを恐れた彼は住民の協力を得、「迷宮入り」の形で事件を終結させたのだった。
だが彼らに恨みを持つ低所得住民や、事実を知らない外部からの反発を受ける可能性が残っていた。そこにとある「組織」が接触を図ったのである。
「組織」の提案は奇妙で、にわかには信じられないものであった――量子コンピュータ技術の再現によって行き来可能となった異次元空間に、事実発覚の原因となる「危険分子」を閉じ込めてしまうというものである。
当然田栗はこれを疑った。だが「ロボット兵」と呼ばれる人型の無人機の、遠隔操作による実演を見せられたことで、彼は「毒を食らわば皿まで」ということわざを思い出したのである。
――
かくして彼は「共犯者」の協力を得て、一帯の「危険分子」の拘束に取り掛かった。最初は一帯に迷い込んだホームレスが、続いて「共犯者」からの通報で発見された低所得住民や報道関係者が次々と拘束され、警察署の地下に作られた「ゲート」を通して、異次元空間へと送られていった。
異次元空間へ送られた「危険分子」の多くは、直後に「拒絶反応」を起こし、内臓破裂を起こして即死する。一方幸運にも――あるいは不幸にも――これを生き延びた者はショッピングモールを改造したと思われる巨大な「施設」に収容されるのである。
この恐るべき隠匿行為を語る上で、一人外せない人物がいる。田栗の息子であり、南目黒の中心部に建つ中高一貫型の私立学園「大パラゴン学園」高等部の生徒会長、七太郎である。
そもそも南目黒は旧世紀に開校された「大パラゴン学園」と共に発展してきた街である。その高等部の生徒会長を務める彼が、「校内及び校外の風紀の改善」の名目で「危険分子」の拘束に積極的に関わったのは必然であった。それは彼が恵まれた環境で育ったが故の「選民意識」の現れでもあろう。
――
「施設」の空きが埋まりかけた頃、その七太郎が父に提案を行った――彼らに殺し合いを行わせ、それを「カジノ」で見世物にして賭博収入を得ようというものである。施設の空きを増やせ、住民への報奨の支払いや施設の管理などで失われた費用も回収できるという、一石二鳥な計画である。
「健全な学園都市」を建前としている南目黒は、そもそも娯楽施設の皆無な街であった。骨董ゲームコーナーはもとより、パチンコ屋や雀荘、将棋ルームすら今まで建てられたことが無かったのだ。「この街にふさわしくない」――ここの住民なら口をそろえてそういった施設に反対するであろう。
勿論それも建前上の話であり、実際のところ住民は娯楽に――それも出来るだけ刺激の強いものに――飢えていたのだ。かの親子がカジノの設立という発想に至ったのも、住民の潜在的な欲求に応える為という意味合いもあったのだ。
問題はそのカジノをどこに建てるかであったが――答えは「大パラゴン学園」の地下にあった。校舎の裏口と最上階の生徒会室に隠されていた2つのエレベータが、長らく放置されていた地下講堂にに繋がっていることが偶然にも発見されたのだ。
核戦争に備えてのシェルターとして作られたとも言われたが、今となってはその目的は不明である。ともあれこの地下講堂とエレベータは改修され、地元民限定の会員制カジノ「ゲイン・グランド」へと生まれ変わった。
勿論そこへの入口は普段は閉鎖されており、その場所は巧妙に隠匿されている。そして深夜になると選ばれた住民だけが専用パスポートを利用して敷地内に入り、かのエレベータからカジノに入ることが出来るという仕組みである。
かくして「ゲイン・グランド」は「マック」の名でステージMCを兼任する七太郎の下で、「ビジネス」を開始した。初日は立ち見が出る程の人入りとなり、その後も入場者は寧ろ増加の傾向となった。余りにも順調な為、その売上は最早「組織」への報告が必要な程にまで膨れ上がっていたのだ――。
――
「――何しろあれだけの売上だ、彼らが放っておく筈がないだろう」大七郎はホログラムの横にポップアップ表示された折れ線グラフに目をやった。既に「組織」との人身売買で得た金額の10倍以上の利益である。「そろそろ潮時かも知れん」
「つまり――『ゲイン・グランド』は閉鎖と?」「『改装のため一時閉店』といったところだな」七太郎の問いかけに、大七郎は小さく頷いた。「それに、お前も来年は受験だろう。再開は大学に入ってからでも出来る筈だ」
「そうか…」七太郎の脳裏に「ゲイン・グランド」での思い出が蘇る。ドラッグ入りのドリンクで老夫婦を寝たきり老人に変えたこと、自宅に「ゲイン・グランド・ガール」達を呼びつけて一晩を明かしたこと、ロボット兵を操縦して気に入らない収容者共を射殺して回ったこと――。
「――楽しかったんだけどなあ…」七太郎は感慨深げに椅子にもたれかかり、天井を見上げた。発光水晶をモザイクめいて並べて模られた、西洋鎧に身に纏った戦国大名の姿が目に入った。「なら最後に一儲けしようじゃないか、あの施設を吹き飛ばすついでにさ」
「それを見世物にするのか?」息子の大胆だが理に適った提案に、大七郎は感嘆の声を上げた。「だが口封じや証拠隠滅は大事だ。爆発は反乱者の自爆テロということにすれば『組織』との交渉の時にも辻褄合わせが利くし、それで利益が上がるなら言うことなしだ」
一般の住民は異次元空間の存在を知らない。「ゲイン・グランド」で映し出されている戦闘シーンもリアルなCG映像だと思っているのだ。仮に戦士達が全員爆死しても衝撃を受けることこそあれ、それで真実が発覚することはないという算段である。何という悪魔的発想であろうか。
「――そろそろ時間だな、僕はもう戻るよ」ホログラムの脇に映る時計に目を向けた後、七太郎は立ち上がった。「パパもゆっくり休んで、明日も早いんでしょ?」「ああ、そろそろ寝るさ。最後の日はパパも遊びに行くよ」「ありがとう、じゃ、おやすみ」
通信を切断した後、七太郎は机の上のベネチア風仮面を被り、部屋の奥の本棚に向かった。その奥に「ゲイン・グランド」への直通エレベータが隠されているのだ。
「――それにしても、馬鹿な奴らよ」急降下してゆくエレベータの中で、七太郎――「マック」は呟いた。「勝ち続ければ自由になれるとでも思っているのか?闘牛場の牛は勝敗に関わらず殺される運命なんだ。そんなことも知らずに――」彼の高笑いがエレベータ内に響いた。
――
地下回廊から戻った静馬を、いつも通りスーツ姿の係員が廊下で出迎えに来ていた。「99連勝おめでとうございます」銀色に輝く長い髪と白い肌を持つ、若い女である。「今日は所長からの計らいで、特別室をご用意いたしました。これから案内いたします」
静馬は係員の斜め後ろに付き、その様子を観察していた。ジャケットとタイトスカートに包まれた華奢な体、肌の白さと脚の細さを際立たせる薄手の黒いタイツと白いパンプス――(初めて見る顔だな、まるで少女だ)静馬は心の中で小さく呟いた。
暫くして2人は廊下の端にある両開きの扉の前に辿り着いた。係員が扉を開くと「特別室」が姿を現した。回転する天蓋つきベッド、ジャグジー付きのバスルーム、天井を飾るミラーボール――(豪華だが、どこか悪趣味な感じがするな)静馬は光り輝く室内に思わず目を細めた。
「さて――と」扉を閉めた係員暫く部屋の様子を見回した後、静馬に向き直った。「5分だけ時間をよろしいか?お主は――この施設から抜け出したいと思ったことは?」
静馬の受けた衝撃は甚大であった。話の唐突さもさることながら、彼女が突然別人の様に口調が変わったからであった。
<<<その2おわり、その3につづく>>>
――
◎おまけ:M・o・Aちゃんが何か言う
――
◎宣伝
転生の宴はセガ・インタラクティブサポーターズサイトに登録されています。興味を持たれましたら投票してみるのも良いでしょう。