昨日は夜から新宿へ。
COJはカードランキング更新前夜とのことでしたが、
いつも通りのまったり進行でした。
そんな訳で久々のショートショート更新です。
「リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド」の最新話をお送りします。
◎過去作品
○連載もの
・クエスト・フォー・ザ・ムーン(全7話)
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7(エピローグ)
・ロボトミー・ソルジャー(全4話)
その1
その2
その3
その4
・メリー・クリスマス・フロム・アルカナ(全2話)
その1
その2
・リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド(連載中)
その1
その2
その3
○その他エピソード
・バトルトーナメント:あなたが決める禁止カード(連載再開未定)
その1
その2
・
切札戦士 ジョーカー13(ワン・スリー) 第14話
・
エージェント・イン・スイムスーツ
・
イーリスの物語
<<<リターン・フロム・ザ・ドラゴンズ・ヘッド その4>>>
作:Nissa(;-;)IKU
(前回までのあらすじ:「星 光平」と「鈴森 まりね」――ナイトシェードとの戦闘は、『天鳥 烏兎』を名乗る謎の乱入者によって中断された。データによると普通の人間ではない様であったが、その正体は未だ謎に包まれている。)
(一方、現実世界にも小さくない変化が起きていた。愛美の通う小学校の図書室から、『烏兎』関係の本が全て撤去されていたのである。PTA役員からクレームがあったとのことだが、その得も言えぬ不気味さに、愛美は不安に駆られるのであった。)
――
読者の中には何故「天鳥 烏兎」が名指しで糾弾されていたのか疑問に思った者も多いであろう。その経緯を語るには少し行数を要する。
「烏兎」の原作者は、登場人物やストーリーの扱いにある程度の自由度を持たせていた。別の作家による作品も、然るべきガイドラインに添って作られている限り、「公認」のシリーズ作品として出版されることを許しているのだ。
それは原作者がこの世を去り、シリーズのファンによって結成された「ギルド」が認定を行う今でも変わらず続いており、それ故に今でも「公認の最新作」が出版され続けているのである。
ファンの間では有名であることだが、原作では「烏兎」の性別を特定する描写は存在しない。それ故烏兎が少年なのか、それとも少女なのかは読者の想像に任されている。またその曖昧さを活かして、しばしば「女装」、あるいは「男装」の描写が原作や公認作品でも行われているのである。
突如現れた市民団体「子どもたちを性犯罪から守る会」は、そこに噛み付いて来た。曰くシリーズの曖昧な性別描写や異性装描写は、本来あるべき「少年らしさ」「少女らしさ」から大きく逸脱しており、それに感化された児童が倒錯的な性嗜好を得、ひいては性犯罪に走る危険があるというのだ。
全く根拠の無い言いがかりに過ぎないと感じる者が大半だろう。だがその主張に影響を受け、不安に陥る層は一定量はいるものである。特に年頃の息子・娘を持つ親達は――。
「PTAの偉い方からもクレームが来たの、他の学校でも廃棄処分してるのに何でうちではやらないんだって」司書の女教師は、愛美をなだめる様に言った。「それで先生たちとも相談して、今は『烏兎』を片付けて、暫く様子を見ようってことになったのよ」
「私、すごい不安なんです」問いかける愛美の表情は不安や悲しみが混ざり合った、複雑な様相を示していた。「何かこう、世の中がどんどん悪くなっていく気がして――」
「これから世の中がどうなるかは、私にも分からないわ、でもね――」女教師は言葉を選ぶように、慎重に話を続けた。「物語を上から押さえつけて潰そうってやり方はいつの時代でも失敗しているわ、『ちびくろサンボ』も、『とりかえばや物語』も、最近だと『不思議の国のアリス』もそうね」
「うっ――」愛美は心の昂ぶりを堪えるかのように、俯きのまま黙って聴いていた。「物語はそれを愛する人々の心がある限り、決して消えることはない。少なくとも私はそう思っているわ。だから――」女教師は愛美の体を軽く抱きしめた。
「たとえどんなことがあっても『烏兎』のことを愛し続けていてね、私もあなたの力になれるように頑張るから」「先生――!」愛美は思わず教師に抱きついた。知らぬ間に彼女の目からは涙があふれていた。
――
授業が終わり、愛美は昨日と同じ様に駅へと向かっていた。この日はあの冒涜的な演説は聞こえなかったが、駅前に出たところで理由が判明した。彼女らは丁度撤収作業を行う最中だったのだ。
女達は一様につばの広い帽子とサングラスを身につけており、その表情は窺い知れない。黙々とスピーカーやチラシを片付けている姿は、いつかの工場見学で見た作業用ロボットを思わせた。
いつも通り自宅への電話――勿論留守番電話だ――を済ませた愛美は、そのまま改札をくぐらず、出口へと戻った。かの女達は鞄やキャリーバッグを引いて撤収を開始するところであった。
(あの恐い女の人達――いったいどんな人達なんだろう――?)愛美の頭上に、ふとそんな疑問が浮かび上がった。(そうだ、ちょっと後を追ってみよう。せめて行き先だけでも分かれば――)
こうして、愛美の危険な尾行作戦が始まった。
――
歩くこと10分、女達は公園を覆う人工森林の中を歩いていた。その後ろを木々から木々へと隠れるように、愛美は追跡を続けていた。(ここを通り抜けるのかしら、それとも公園の中で打ち合わせか何かをするのかしら――)愛美の頭上では様々な疑問や臆測が渦巻いていた。
樹の幹に隠れながら、愛美はふと自分の服を見やった。セーラー襟のパーカーに濃紺色のタイツは昨日のままだが、この日はスカートの代わりに一分丈の半ズボンを履いている。まさに挿絵に出てくる、そして女達が敵視しているであろう「烏兎」そのものの姿だ。
女達が小山の頂上に差し掛かろうとした、その時であった。突如彼女らの前に青緑色の光の壁が現れたのである。丁度玄関のドアぐらいの、人の通れる程度の大きさである。
(えっ、何これ――)愛美はその奇妙な光景に思わず息を呑んだ。よく見ると壁の上では鉤鼻の付いた仮面の女がホログラムで浮かび上がり、女達に話しかけている様子である。暫くのやり取りの後、女達は1人1人、「壁」を通り抜け――そして、姿を消していった。
(ど、どうしよう――!)見てはいけないものを見てしまった、これ以上関わるのは危険だ――そんな考えが愛美の中を駆け巡った。そして「壁」に背を向けて走りだそうとした愛美の目の前に現れたのは、まさにそれと同じ青緑色の「壁」であった。
足を止めるには加速が付きすぎていた。愛美は悲鳴と共に、そのまま頭から「壁」に飛び込んでいった。
――
暫くの浮遊感の後、愛美は地面に背中から叩きつけられた。細かな砂粒の感触が、パーカーやタイツ越しにも伝わってくる。時間的にはまだ昼間のはずなのに空は暗い雲で覆われ、夜空の様にも思えた。
愛美は仰向けのまま手足は動かしてみた。骨折などはしていない様だが、先ほどの衝撃のせいか、体全体がどんよりと重い。
何とか上体を起こしてみると、そこには見たこともない光景が広がっていた。あちこちがひび割れ、砂粒で覆われたアスファルト、廃工場を思わせる、ぼろぼろの建物達。遠くには色あせて赤色が朱色になった縞模様の煙突も見える。
「何処――ここは」その場で座り込んだまま、愛美はその不気味な光景に呆然となっていた。だが通りの反対側に視線を向けた時、彼女の背筋は凍りついた――視線の先には例の女達、しかも既にこちらに気づいていて、一斉に駆け出しはじめているのである。
(まずい、逃げ出さないと――)何とか立ち上がった愛美だったが、足が動かない――正確には足は動いているのだが、まるで向かい風が吹き付けるかのように足が空回りし、前に進むことが出来ないのである。遠くから見たら、その場で足踏みしている様にも見えるだろう。
必死で「向かい風」を破ろうと抵抗する愛美が思わず後ろを振り向いた時には、サングラスにマスクの女の顔が目の前まで迫り、愛美の肩を掴むべく両手を伸ばすところであった。
<<<その4おわり その5へつづく>>>
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転生の宴は
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