すずりんの日記

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小説「ある男の物語」2、老人の遺書Ⅰ⑤

2005年08月15日 | 小説「ある男の物語」
 私はあの時、シートベルトをしていたおかげで、首と腰を痛めるだけで済んだ。が、年齢的にも、この際、検査入院した方が良い、という医師の言う通りにした。私は、事故の様子を聞くために病室に足を運んだ2人の警官から、息子たちが即死の状態で、あの現場から運ばれて行ったことを聞いた。2週間の入院中に、数回、検査のために病室から離れる時以外の時間で、いやというほどに打ちひしがれ、こうなってしまったことを後悔し、彼らの死に、直面させられた。一面真っ白な病室の中で、これほどまでに彼らの亡霊に悩ませられ、狂っていくさまが、よく、検査の結果にひびかないものだと、呆れ返るほどだった。私は、毎日症状を問診しに来る主治医や、血圧を計りに来る看護婦や、私の見舞いに訪れる全ての人間が、
「この人、一度に3人もの家族を失ってしまって、かわいそうに。・・・でも、それは全て、この人のせいなんだ。」
と、無言で語る視線にさらされながら、ひたすら、和子が私に会いに来てくれるのを待った。
 和子になら、「あなたのせいよ!」と罵られても、それをそのまま受け入れられると思った。「あなたが死ねば良かったのに!」と、私を罵倒しながら流す涙を拭いてやれるのは、私しかいない、と確信していた。しかし、和子は、罵ることも、涙を流すこともしないばかりか、一度も、私の見舞いにやって来なかった。
 私は、和子が、私と同じように、最愛の息子や孫の死に打ちひしがれながらも、それを分かち合ってくれる存在も無いまま、葬儀等をこなしていると信じていた上に、和子1人に、そんな辛い思いをさせて、2週間も、ただ黙って入院をしていた自分を、責めてさえいた。


(つづく)
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