まだ、私が幼く記憶にない頃の話である。
うちの父は土木建築関係の仕事をしており、家族揃って所謂「飯場暮らし」であった。(今飯場って差別用語らしいのね。昔、そういう現場は務所から出たような方が多かったからかな?)キヨちゃんはそこで「飯炊き(炊事)」(これも今は差別用語らしい)をしていて、職場恋愛の末の結婚である。まあ、ふたりの恋の話は後日として、今回は私が幼かった頃の話である。
ある日、何が原因か炊事場で爆音とともに、大きな火柱が上がった。生憎男たちは現場に出て留守。たまたま父がデスクワークに戻っていて事件に遭遇した。
炊事場では同僚の女性たちが、大きな火柱を前に立ちすくみ、声すら出せない状態である。音に気づいて駆けつけた父に、キヨちゃんは叫んだ。
「父ちゃん!子供をお願い!!」
そして私を父に預けた彼女は一目散にどこかへ走り去ったのだ。私を受け取った父は、実に冷静に火を収め、事なきを得た。その場にいた女たちも腰砕けながら、無事を確認しあって喜んでいた。
騒ぎが収まってから、ふと父はキヨちゃんが何処に行ったのか心配になった。そこで長屋に戻ってみると、自室の窓から家財道具一式投げ出しているキヨちゃんを発見したのだ。図太いというか逞しいというか・・・。昔から、やはりキヨちゃんはキヨちゃんである。
うちの父は土木建築関係の仕事をしており、家族揃って所謂「飯場暮らし」であった。(今飯場って差別用語らしいのね。昔、そういう現場は務所から出たような方が多かったからかな?)キヨちゃんはそこで「飯炊き(炊事)」(これも今は差別用語らしい)をしていて、職場恋愛の末の結婚である。まあ、ふたりの恋の話は後日として、今回は私が幼かった頃の話である。
ある日、何が原因か炊事場で爆音とともに、大きな火柱が上がった。生憎男たちは現場に出て留守。たまたま父がデスクワークに戻っていて事件に遭遇した。
炊事場では同僚の女性たちが、大きな火柱を前に立ちすくみ、声すら出せない状態である。音に気づいて駆けつけた父に、キヨちゃんは叫んだ。
「父ちゃん!子供をお願い!!」
そして私を父に預けた彼女は一目散にどこかへ走り去ったのだ。私を受け取った父は、実に冷静に火を収め、事なきを得た。その場にいた女たちも腰砕けながら、無事を確認しあって喜んでいた。
騒ぎが収まってから、ふと父はキヨちゃんが何処に行ったのか心配になった。そこで長屋に戻ってみると、自室の窓から家財道具一式投げ出しているキヨちゃんを発見したのだ。図太いというか逞しいというか・・・。昔から、やはりキヨちゃんはキヨちゃんである。