すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

ねえやんの干し芋

2006-08-17 23:31:50 | むかしむかし
 むかしむかし、ある貧しい家にツヨシという少年がおった。たくさんの兄弟の末っ子じゃったツヨシは、ある時から、親類の家に「口減らし」に出されたのじゃ。かといって、親類のおじさんもおばさんも決して裕福だった訳ではなく、ツヨシは朝から晩まで働かされたが、ろくろく飯も食ってはおらなんだ。
 どうにも空腹に耐えかねたツヨシは、ねえやんの家に向かった。ねえやんはツヨシの一番上の姉さんで、近くの家にお嫁に来ていたのじゃ。
しかし、「お腹がすいた」と言えば、ねえやんに心配をかける。じゃから、ツヨシはどうしても、「食わせてくれ」とは言えなんだのじゃ。
 ねえやんの家までくると、軒にたくさんの干し芋や干し柿が吊してあった。それをすばやくもぎ取ると、わざと大きな声で、
 「おおい!ねえやん!取ってやったぞ!」
と、いたずら坊主を演じたのじゃった。
 「こら!」
怒って出てくるねえやんに、あっかんべーをしながら、ツヨシは精一杯走った。あんまり顔を見ていると、涙が出そうだったのじゃ。
 ねえやんの家が見えないところまでくると、ツヨシは泣きながら夢中でそれらをむさぼり食った。
 「ごめんよ、ねえやん」
と繰り返しながら。
 それからも、どうにも腹が減った日は、同じようにいたずら盗人を決め込んだ。しかし、ツヨシは知らなんだのじゃ。ねえやんがとっくに気づいていることを。
 ある日、いつものように家に近づくと、ねえやんとねえやんの婿さんの話が聞こえてきた。
 「おい、そろそろツヨシが来る頃やろ。」
 「ごめんなさい・・・。」
 「かまうか。それより、早うツヨシ来る前に、下げてやらんか。」
 そうなのじゃ。ねえやんとねえやんの婿さんは、ツヨシが取りやすいように、低いところに芋や柿を下げてくれとったのじゃ。
 ツヨシはその日、袖口をかみしめて、声を出さずに泣いたのじゃった。


以上、貧しかった時代の実話である。2006/8/17の記事
コメント (2)
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