むかしむかし、ある貧しい家にツヨシという少年がおった。たくさんの兄弟の末っ子じゃったツヨシは、ある時から、親類の家に「口減らし」に出されたのじゃ。かといって、親類のおじさんもおばさんも決して裕福だった訳ではなく、ツヨシは朝から晩まで働かされたが、ろくろく飯も食ってはおらなんだ。
どうにも空腹に耐えかねたツヨシは、ねえやんの家に向かった。ねえやんはツヨシの一番上の姉さんで、近くの家にお嫁に来ていたのじゃ。
しかし、「お腹がすいた」と言えば、ねえやんに心配をかける。じゃから、ツヨシはどうしても、「食わせてくれ」とは言えなんだのじゃ。
ねえやんの家までくると、軒にたくさんの干し芋や干し柿が吊してあった。それをすばやくもぎ取ると、わざと大きな声で、
「おおい!ねえやん!取ってやったぞ!」
と、いたずら坊主を演じたのじゃった。
「こら!」
怒って出てくるねえやんに、あっかんべーをしながら、ツヨシは精一杯走った。あんまり顔を見ていると、涙が出そうだったのじゃ。
ねえやんの家が見えないところまでくると、ツヨシは泣きながら夢中でそれらをむさぼり食った。
「ごめんよ、ねえやん」
と繰り返しながら。
それからも、どうにも腹が減った日は、同じようにいたずら盗人を決め込んだ。しかし、ツヨシは知らなんだのじゃ。ねえやんがとっくに気づいていることを。
ある日、いつものように家に近づくと、ねえやんとねえやんの婿さんの話が聞こえてきた。
「おい、そろそろツヨシが来る頃やろ。」
「ごめんなさい・・・。」
「かまうか。それより、早うツヨシ来る前に、下げてやらんか。」
そうなのじゃ。ねえやんとねえやんの婿さんは、ツヨシが取りやすいように、低いところに芋や柿を下げてくれとったのじゃ。
ツヨシはその日、袖口をかみしめて、声を出さずに泣いたのじゃった。
以上、貧しかった時代の実話である。2006/8/17の記事
どうにも空腹に耐えかねたツヨシは、ねえやんの家に向かった。ねえやんはツヨシの一番上の姉さんで、近くの家にお嫁に来ていたのじゃ。
しかし、「お腹がすいた」と言えば、ねえやんに心配をかける。じゃから、ツヨシはどうしても、「食わせてくれ」とは言えなんだのじゃ。
ねえやんの家までくると、軒にたくさんの干し芋や干し柿が吊してあった。それをすばやくもぎ取ると、わざと大きな声で、
「おおい!ねえやん!取ってやったぞ!」
と、いたずら坊主を演じたのじゃった。
「こら!」
怒って出てくるねえやんに、あっかんべーをしながら、ツヨシは精一杯走った。あんまり顔を見ていると、涙が出そうだったのじゃ。
ねえやんの家が見えないところまでくると、ツヨシは泣きながら夢中でそれらをむさぼり食った。
「ごめんよ、ねえやん」
と繰り返しながら。
それからも、どうにも腹が減った日は、同じようにいたずら盗人を決め込んだ。しかし、ツヨシは知らなんだのじゃ。ねえやんがとっくに気づいていることを。
ある日、いつものように家に近づくと、ねえやんとねえやんの婿さんの話が聞こえてきた。
「おい、そろそろツヨシが来る頃やろ。」
「ごめんなさい・・・。」
「かまうか。それより、早うツヨシ来る前に、下げてやらんか。」
そうなのじゃ。ねえやんとねえやんの婿さんは、ツヨシが取りやすいように、低いところに芋や柿を下げてくれとったのじゃ。
ツヨシはその日、袖口をかみしめて、声を出さずに泣いたのじゃった。
以上、貧しかった時代の実話である。2006/8/17の記事