雪のなかで、ひそやかに咲いた紅花の小花に逢う。はっとする。侘助である。小輪の紅花をつけている。
( 自署『 すわやま余情 』 暮しの手帖社刊 より)
20年前に書いた拙文には「紅」と書いている。
神戸淡路大震災後に増築して、庭も少しだけ広くなった。
およそ7~8年も花をつけなかった侘助が今年は咲いたのである。
「白玉」とよばれる侘助である。
侘助は「椿」の一種だという。
たしかに椿に似ているが「椿」ではない。
そのひかえめな風情が、枯淡を尊ぶ茶人の間に、切り花として愛好されてきた。
松本清張に『五瓣の椿』という小説があるが、茶花としていけるときは,蕾のほころびかけたもの、葉は清めて奇数に使うという。
庭に咲き誇ったわびすけ『白玉』。
渡辺淳一さんの小説『ひとひらの雪』の中で、主人公が侘助を見てこう語っている。
「白い花から、茂みの手前につくばいがあり、奥に灯籠が見える。その影にでも咲いたのか、いずれにしても侘助
が咲く庭なら、静かな趣きのある庭に違いない」
趣きのある庭といえば、鎌倉の尼寺・栄勝寺の山門のすぐ脇にある「侘助」に感動したことがある。
それは、「枯淡」というにふさわしいお庭だが、控えめで、慎ましく、紅色の花をつけた「わびすけ」だった。
なんでも後に市の天然記念物に指定されたらしいが、 この古木の風雅な姿を今も忘れることが出来ない。
年が明けると、新年会で上京しますが、時間があればまた鎌倉まで足をのばしてあの「侘助」に再会したい、
そう思っています。