小山薫堂さんの『サービスの「正体」』は、webで価格1円で購入しました。これホントなんです。
著者は「日光金谷ホテル」のアドバイザーであり、1年半ほど長期滞在したホテルニューオー
タニを舞台に、サービスの「正体」を探ろうとした好著。
ホテル関係者でなくても、結構楽しめる一冊です。
それに著者の文章の軽やかさにも一読して驚かされます。
どのホテルにも「サービスマニュアル」があります。
ニューオータニのマニュアルはわずか40ページしかないそうです。
でも驚きと同時に、”成る程”と納得したようです。
マニュアルで縛っていては、出すことのできない距離感、心地良さが
そこにあったように思うのです。
それこそが、サービスの「正体」なのだろう、と著者は結んでいます。
ところで、5項目ほど私見を交えてお喋りさせていただきます。
まあ、読んでやってください!!
お急ぎの方は、☆印だけでもねっ。
☆頭にくるマニュアルの棒読み
ホテルニューオータニのマニュアルをめくると、まず接客用語がいくつか記されています。
「いらっしゃいまませ」「ありがとうございました」「かしこまりました」「少々お待ちくださいませ」
「申し訳ございません」といった言葉です。
「ありがとうございます」という言葉一つをとっても、その場に応じて
使い方が異なります。
宿泊客なのか?食事に来られたお客様なのか?
また、現在の時間帯にふさわしい言い方はどちらか。
こうしたことを考えて臨機応変に判断しなければいけません。
最近、「ご注文は以上でよろしゅございますか?」「千円札からお預かりいたします」
「お持ち帰りのお時間はどれくらいでございましょうか?」
言葉に飾りをつけているのだろうが、いかにもマニュアルの棒読みで、
そこから”心”が伝わってこない。逆に、お客様に不快感を与えてしまうのです。
マニュアルがすべてではない。マニュアルを正しく応用して、その場、その場で正しい言葉を
選択すべきでしょう。
わずか一言であっても、その重みは大きい。
状況を考えない物言い、心の込もらない言い方は慎むべきです。
☆ゴミ箱に入った物以外は、すべて忘れ物
もし、あなたがニューオータニの部屋に泊まることがあれば、ぜひ確認してほしいことがあります。
「お客様の一手間を省く」感覚に注目した小さな工夫が満ちあふれております。
たとえば、客室に備えつけてある”ペンの向き”です。
注意しなければわかりませんが、ペン先はお客様の視点から向って斜め右下に置かれています。
これはなぜか?右手でペンを手にしてメモを取るとき、ワンアクションで済むからです。
これが反対の方向にあると、最低でもツーアクションを要します。
急いでペンを走らせたいとき、一つでも軽減するように工夫されているのです。
もう一つ。
実際ニューオータニはゴミ箱の中には入った物以外、お客様が残したメモの走り書きまで、
ゴミとして扱いません。保管するのです。
どんな物でも、その本当の価値は所有する本人しかわからないものです。
メモ帳の紙切れをゴミとして扱うか、価値のあるものかもしれないから保管しておくか!!
一流と超一流の違いは、こういうところに出るものなんですね。
☆笑顔が浮かばないなら、ホテルマンをやめなさい
ある有名な女形の歌舞伎役者さんに質問したことがあります。
「愚問ですが、”色気”はどうやってつくるのですか?」
「あーたねぇ ”色気”はつくるものじゃないわよ。自然に浮かんでくるものなの!ほんとに愚問ね」
歌舞伎『先代萩』の「政岡」よろしく扇をパッとひらいて、色っぽく笑った。
笑顔だって、つくるものではなく、自然に浮かぶものです。
この言葉の意味がわからないホテルマンは、お辞めなさい。いえ、辞めるべきです。
つくり笑顔は、必ずお客様に見抜かれます。
「笑顔が大切」という教訓は、「生半可な笑顔では心が通じない」という意味に通じます。
3年ほど前でしたか、ベルマンのKくんが「これ、これ見てくださいよ!!」
抱きつかんばかりに私に近寄ってきた。
「スマイルリーダー」のバッチがKくんの胸元で光っていた。
ホテルニューオータニには「スマイルリーダー」という取り組みがあるそうです。
各部署のスッフ間でお互いの接客態度を評価しあい、ホテルをもっと
笑顔で埋め尽くそうという狙いがあるようです。
そういえば、「スマイルリーダー」のバッチは最近とんと見かけない。
☆「もういいよ・・・・」と激怒して帰ってしまった外国人客
実際ホテルニューオータニではこんなことがあった。
ある若いスタッフがベルからフロントに変わって2年目の頃だった。
ホテルのメンバーカードを持つ1人の外国人男性が予約もなしに「今晩、泊まりたい」と
訪ねたことがあった。
会員は、前日までに予約をすれば優先的に部屋が取れる特典があったのだが、
その日は満室だった。
とはいうものの、フロントの裁量で、一部屋ぐらいは融通がつかなくもなかったので、
若いフロントマンは奥にいる上司に相談してみることにした。
「どうしましょう?」
「それなら、あげれば?」(←宿泊させてあげたらの意味)
「じゃあ、説教してからあげます!!」(←今後は事前予約がなければ泊まれないの意味)
当時はバブル絶頂で、お客様がどんどんやってくる時代。そのため、フロントマンもついつい
傲慢になってしまい、それが言葉に表れてしまった。
すると若いフロントマンがカウンターに戻るやいなや、突然その外国人客は上司を呼びつけ、
流暢な日本語でこう喋り始めた。
「この若いスタッフは、客に説教して部屋を”あげる”と言っていた。どういうことですか?」
その外国人は日本語が堪能で、しかも裏の会話までしっかりと聞いていたのだった。
客のあまりの激怒に、若いフロントマンは凍りついたのは言うまでもない。
しかも、その外国人客は「もういいよ・・・」と吐き捨てるように云って帰って行った。
上司に「追いかけてもいいですか?」と確認したところ、「お前に任せる」という言葉が返ってきた。
無我夢中で追いかけたが、外国人客の姿は見付からなかった。
あくる日は夜勤明け。家に帰って、妻が作ってくれた好物の”野菜ギョウザ”も、一口すら喉を
通らなかった。
若いフロントマンは、それからというもの、あの時の「もういいよ・・」というセリフが
今も忘れることができないという。
「ホテルマンにとって傲慢さは禁物」と自分に言いきかせ、いかなるときも謙虚に
振る舞うようになったそうだ。
☆ホテルニューオータニの最大のライバルは?
「御社にとって最大のライバルはどこですか?」
ホテルニューオータニでは、こういう質問を受けることがたびたびあるそうです。
通常なら「ホテルオークラです」とか外資系のホテルの名前が出るだろうと誰もが思う。
ところが意外だった。
「それはお客様です」
とスタッフは答えたという。
奇をてらって答えたわけではない。
「どこのホテルが素晴らしいか、どこのサービスがイマイチか」
お客様はよく知り尽くしていらっしゃいますから・・・。
そんな答えが返ってきました。
サービスに正解はない。
でも、はっきりと云えることは
すべての方に満足していただくために
それぞれのお客様が抱く期待に応え
ときに、それを超えられるのは
マニュアルではなく
目に見えない「人を大切にする心」に
重きを置いているから・・・・・ではないでしょうか。
【画像 追加アップしました】
ホテルニューオータニに泊まった翌朝。
目覚めて、窓のカーテンを開けると
彼方に富士山が・・・そこでパチリ
■ ホテルの朝食 ■
ホテルの朝食はもっぱら和食。
それも、タワーロビー階の「なだ万」の”雅”(←”芙蓉”もあるが、こちらは並コース)。
”雅”はサケが”芙蓉”より6㎜ほど大きい。
顔なじみの有田さん公休
それでも、はじめに、焙じ茶、食事半ばにお煎茶。
いつもと変わらないサービスでした。
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