Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

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華麗なる船場の四姉妹 舞台『細雪』

2011-11-10 | 演劇

 
『細雪』の舞台を見たのは今回で5回目である。
詳しいことは後に触れるが、今回のような巡業公演(←神戸文化ホール)で見るのは初めてのことだった。
初演を見たのは、菊田一夫の脚本・演出によって日比谷の「芸術座」であった。 昭和41年のことである。
正直なところ、「芸術座」での初演当時はそんなに話題にならなかった。
むしろ後の森 光子の『放浪記」』が爆発的に大ヒットしたことは周知の通りである。

芸術座での初演から18年後のこと。
こんどは堀越 真潤色、水谷幹夫演出で大劇場向きにやり直した舞台だったが、これが大ヒットしたのである。
再演、再々演を繰り返し、これまでに1300回を超える上演を記録している。

『細雪』のなにがそれほどヒットしたのか、その理由にふれてみたい。
まず、いずれ劣らぬ美しい四姉妹が、次々に着物を替えて登場するという華やかさ、豪華さが観客の目を大いに楽しませる舞台になっていることである。
東京初演は、長女の淡島千景をはじめ、新珠三千代、多岐川裕美、桜田淳子らが、それ以来多くの女優が演じてきた。
つまりキャストが変わるたびに新鮮な印象になり、何度見ても飽きないのである。

しかし『細雪』は単なるコスチュームプレイにとどまらない。
四姉妹の現実生活にしっかり目を据えていることである。
しかも船場の木綿問屋の老舗「蒔岡家」の没落をドラマの中心に置いたこと、谷崎の小説では背後に隠されていた時代の流れをはっきり見せたことが成功している。
さらにいえば、菊田脚本では原作通り三女の妙子に重点が置かれていた。
しかし今回は、四姉妹の生活がほぼ等分に描かれており、細かいことは端折るが、それどれに”見せどころ”をつくった舞台になっている。
それだけに、どう演じるかが各女優の演技力にかかっているのである。 

 



大劇場バージョンになってから大阪の国立文楽劇場で見ている。昭和60年2月と当時のチケットに書かれていた。
この時のキャストは長女から順に淡島千景、新珠三千代、遥くらら、桜田淳子であった。
ご承知のように桜田淳子以外は、揃って宝塚の出身。
この芝居の骨格ともいえる”船場ことば”に役者が堪能していた。
大阪弁にすんなりついていけた。
揃って関西なまり特有のイントネーションがうまかった。

今回は長女高橋恵子をはじめ賀来千香子、水野真紀、中越典子の女優陣は、言葉にかなり気を配ってはいるが、関西人から見ると、どうもおかしい。
「ヘタな関西弁使うな!!」と云いたくなるくらいである。

長女の高橋恵子(←画像/上段右)はこれまでに蜷川幸雄の「近松心中物語」の梅川など舞台経験の豊富な女優だが、徳川から続いた「蒔岡家」の長女として、常日頃から体面ばかりに捕らわれている一面はよく見せている。
口を開けば「徳川から続いた蒔岡家の為どす」と一家を取り仕切る鶴子の重みと風格にはいささか乏しい。

次女幸子の賀来千香子(←画像/上段左)は、映像では多彩な役を演じてきたベテラン女優。
雪子の見合い話、妙子の行動監視など、本家との”つなぎ役”で難儀な役だが、しどころも多い。
旧家を離れていかにも芦屋で暮らしているモダンな人柄はよく出ているが、いまひとつ幸子という人物の掘り下げが足りない。

三女の雪子は今回が初参加になる水野真紀(←画像/下段左)である。
四姉妹の中でいちばんすんなり役にとけ込んでいた。
物静かな人柄でありながら、芯が強く、心の奥深く情熱を秘めた女性を見事に演じた。
ただし、劇中に何回と言う「ふーん」だが、ほとんど同じにきこえた。もうすこし工風があってもよいのではないか。

四女の中越典子(←画像/下段右)は、三人の姉たちとは違い、自分で人生を拓いていく活発なアプレガール。
持ち味を生かして、これまでの妙子役と一味違った”妙子像”をつくり出していた。 

 

     


このあたりで男性陣についても触れなければいけない。
画像左から、長女鶴子の夫・辰雄に磯野勉をはじめ、次女幸子の夫・貞之助に篠田三郎、太川陽介、新藤栄作、橋爪淳の面々である。

なかでも船場の貴金属店奥畑の啓ボン役の太川陽介(←画像/左から3人目)が抜群にうまい。
持ち味は芸名通り” 陽 ”の人で、、コミカルな風味が観客をわかせていた。
聞けば、実際に古都の老舗の御曹司だとか。

 

                                  ←今回公演のパンフレット
                                  ←昭和60年 国立文楽劇場上演当時のパンフレット


冒頭に巡業公演をみるのは初めてだと記した。

舞台転換に時間がかかり、暗転幕の暗い客席でやたら音楽だけが鳴り響き、うんざりした。

おまけに装置に飾られていた額が開演中にばたりと落ちるというアクシデント。

予定の終演時刻より50分も伸びる始末である。

装置も巡業用のセットで、移動しやすいように簡略化。由緒ある大阪上本町の「蒔岡家」本家が安っぽい。

「巡業は二番手の芝居をする!!」

話にきいていたが、これほどひどいとは思わなかった。

                                 ( 2011年11月8日 神戸文化ホールで所見  

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