役者がうまいと俄然芝居が面白くなる。
当たり前のことかもしれないが、二月博多座花形歌舞伎で夜の部『瞼の母』を見て実感した。
歌舞伎座で金町の半次郎を演じた獅童が、こんどは初役で番場の忠太郎に挑んでいる。
獅童の忠太郎はことさらサラサラとして淡白。
力まず、衒わず、嫌味なく、余裕のある出来である。
それでいて、するところは丁寧に突っ込んでいる。
忠太郎は言葉では説明しきれない、やり場のない感情をたくさん抱えている。
会えない母への想い、孤独さ、渡世人になってしまった自分自身へのつらい思い、ホンに書かれていない部分を役者がどう埋めて表現していくかだ。
苦言を2つ。
大詰「水熊の座敷」ではもっと屈折がほしい。
やっと捜し当てた母親を目の前にして、母親への想いがいかにも淡白でサラリリとして、こってりとした情感に乏しい。
これでは長谷川伸独自のトーンが希薄になってしまう。
時代のせいというよりも演出、演技の課題であろう。
次に細かいことだが、「この百両は永えこと、抱いてぬくめて・・・・」のセリフで胴巻から小判を出す場面。
それを、まるで笊をひっくり返すようにやるのはお粗末。
『封印切』の忠兵衛までいかなくとも、パラパラと落とすべきだ。
そうすれば小道具が芝居をしてくれる。
これに対する水熊のおはまの英 太郎が上出来である。
師匠喜多村緑郎を思わせる濁った口跡、ポッテリとした持ち味、忠太郎との二人芝居にしっとりとした情緒。
いかにも水熊の屋台骨を背負ってきた女将らしい生活感がよく出ていた。風情もある。
忠太郎が咽び泣くところで、それをみつめて体を乗り出す1つの”型”がある。
それが意外にアッサリしている。
あまりやるとドサ芝居になってしまうから控え目にしたのか、それが新派の芸風なのか。
それと、終幕で「駕籠はまだかい。板前さん・・・駕籠はまだかい」と怒鳴り立てる。これは演技過剰。
この2点が惜しまれる。
話が前後するが、序幕二場はわたしの好きな場面である。
忠太郎の出のイキ、老婆をなじっている酔漢に、胸倉をグイと摑んで「銭をやらねえのか!」とつめよるところなど、叔父さんである初代錦之助を思わせるあざやかさで、そのイキもよく受け継いで自分のものにしている。
夜鷹おとらは松也一門の徳松である。
今回の座組みの中でもいちばん注目していた。
この狂言の中では難役の1つで、達者には演じていたが、もう少し猥雑な感性がほしかった。
それと、いまひとつ忠太郎とのイキが合っていない。芸風の違いなのか。
忠太郎に小判をもらってからの花道の引っ込みがよくない。
何度も振り返って礼をいうのはおかしい。揚幕まで頭をさげる。これでは「一本刀」の茂兵衛である。
花道七三で、「見たこともない小判」を今一度見てから、二タッと笑って、ソソクサと引っ込んだ方が夜鷹らしい。
それとこうゆう芝居になると端役が目立つ。
喜昇と澤路の二人芸者がよくない。
通行人であっても、褄をとって、辰巳芸者の粋を見せてほしい。そうすれば芝居に奥行きが出る。
町娘と変らないのは困る。
大詰「荒川堤」で、母妹を見送ってからグッとなるところがうまい。
自然でありながらおのずから絵になっている。
さて、「待ってました!!」と大詰のセリフで名調子を聞かせてほしいところなのに、どうしたわけか説明的で味わいに乏しい。
リアルだといえばカッコよくきこえるが、やはりこのセリフは謳い上げてほしかった。
今回の座頭格の亀治郎が半次郎で序幕だけに付き合っている。
「ヤンちゃなお兄さん」の役は亀治郎のニンではない。
追われ者の悲愴感がみじんもない。「付き合っている」だけの芝居になってしまっている。
半次郎の母親になる竹三郎は実にうまい。人間国宝級である。
ほかに、おぬいの壱太郎、お登世の梅枝は年齢もほぼ同じだが、共に瑞瑞しい。
(2010年 2月22日 夜の部所見)
博多座は市街中心部の中洲川端にあり、ホテルのようなピカピカの劇場。
博多の人は親切で温かい。食べ物もおいしい。博多大好き!!とは市川亀治郎丈。
博多座はチャンスをいただざける劇場です!と松本染五郎丈(←カッコつけ過ぎ)。
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