画像 上段左より 風間杜夫 大倉孝二 早乙女太一 広瀬アリス 青木さやか
下段左より 和田正人 福田転球 赤堀雅秋 梅沢昌代 鈴木砂羽
誰が云ったか知らないが、今いちばん油がのっている赤堀雅秋の芝居のことを「赤堀ワールド」という。
赤堀は劇作家、演出家、俳優、そして映画監督として、暗く澱んだ人間の深淵を見据えながら、どちらかというとシニカルなユーモア
をまじえた作品が多く、独自の世界を築き上げる。
今回の『世界』について、赤堀は「原点に立ち帰り”市井の人々とその暮らしを描くことだ”」。そんな新たな心境のもとに取り組んだコク
―ン第3弾だ。
繊細で丁寧な人間描写、陰影のあるキャラクター、そして溢れだす生々しい人間関係…。
赤堀が描き出す”やるせない喜劇”を観ていて本来なら笑うはずだが、笑えない自分がいることに気ずく。
ともあれ3弾目にして「赤堀ワールド」の真骨頂をみせる舞台に仕上がった。
ストーリーらしいストーリーはない。
どこにでもありそうな、地方都市で小さな工場を営む家族を中心に描き出される、街、安アパート、それに寂れたカラオケスナック、そし
て家族…。
逃れられない”普通の人々”のミニマムな人間関係、様々な波紋が広がるなかで、日々の営みが続いて行く…
けれど彼らの日常は、細い糸で結び合い絡まっていくのである。
『世界』は、自身の回り3メートルほどのの世界でもある。何気ない日常の風景を描きながら、気がつけば結構な毒気をはらんだ言葉と思
いが錯綜しているのに気づくのは私だけか。
『世界』には事件が起こらない。だから加害者も被害者もいない。
あがく人、また状況を変えようとする人がいるが、いずれも不発、末遂に終わる。
この芝居には、どことなく”空気感”というか”呼吸感”がある。そこがまた面白い。いままでの赤堀作品なら、ひとりの人間の内面に、
ピンポイントにとらえることに執心していたけれど、今回は俯瞰の位置から人間なり人生を捉えようとした。
つまり「距離感」である。その距離感が作品に厚味ができ、成果をあげたのだと思う。
風間杜夫が赤堀作品に初参加をはじめ、常連組の大倉孝二、鈴木砂羽などベテラン勢が顔をそろえているが、特に印象深かった2人
がいる。
まず、和田正人演じる諸星というバイトさんが切ない。年下にバカにされ、年寄リに罵倒される気の毒な役だが、諸星の抱える孤独
、焦燥感をみごとに表現した。、
特に、故郷の親元から送ってきた蜜柑箱に入っていた茶封筒の手紙の中に、1万円札がカオをみせたのには、ホロッとした。
もう1人は、足立家の息子の嫁を演じる青木さやか。口うるさい老夫婦(風間杜夫、梅沢昌代)の世話から、家事、おまけに近くのコンビ
ニのパートと忙しい。そのコンビニで義父が万引きをする。同じ夜のこと、万引きのことを口にせず、ことさら明るく振る舞い、ラストにい
たたまれず後ろ向きになって肩だけをふるわすシーンは印象にのこった。
回り舞台に4つのセット。
むきだしの換気扇のある足立家の台所をメインに、ありがちな町工場、ありきたりなスナック、どこにでもあるコンビニの事務室。風呂も
便所もない安アパート。登場するのは”普通”を煮詰めた人々。舞台上半分を真横に陸橋が貫く。
新国立劇場で上演された『負傷者16人』の土岐研一の美術。リフォーム寸前のセットをこさえるのは大変な仕事だと察するに余りある。
(2017・2・4 森ノ宮ピロティホールにて所見)
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