2004年の初演から12年。
初演は岩松 了が蜷川幸雄さんのために書き下ろした戯曲である。
物語の鍵を握る青年、ナオヤ役を、初演では嵐の二宮和也が演じたが、今回は『書を捨て街に出よう』で話題を呼んだ村上虹郎がナオ
ヤ役に挑戦。不思議な女マリー役には初演と同じく小泉今日子が続投する。
私、成長してない? そう見える…成長をとめなきゃ。
現実と虚構の狭間を生きる、孤独な人たち。観客の心を揺さぶるミステリアスなストリー。
廃墟になった家に思いを残す青年と、蝕まれはじめたわが身をもてあます女の現前化しない「愛」の物語でもある。
村上虹郎のナオヤは、子供でもなく、大人にもなりきれず、重い過去を抱えつつ揺れる、危うく、脆い感じをストレートに演じた。
ただ発声に難があり、聞き取りにくい台詞も多い。
小泉今日子は、マリーという退廃的な役柄。ナオヤに対する想い、アオヤギに対する想い。あれこれ考えるが、まとまらず。
この妖精的なというか、魔性のおんなというか、ミステリアスな女に存在感があり、ゾッとするようなエロを匂わせたのはさすが。
トシミ役の南乃彩希は平凡。可もなし不可もなし。ケンイチの鈴木勝大は役が持つメッセージに誠実に向き合っている。
橋本じゅん、豊原功補らのベテラン陣がワキを固めた。岩松 了はセリフ無しのご馳走役。
『シブヤ~』は、蜷川幸雄さんが「こんなのどう?」と、岩松了さんに見せた『チェルノブイリの写真集』だった。そもそもその一冊の写真
集が『シブヤ~』の発端である。
蜷川さんのアタマの中に何らかの構想があったのではないか。
初演は半ば廃墟化している邸宅に、それを取り囲むように黑いヒマワリが咲いていたそうだ。
さらに言えば、この作品はヴェルディのオペラ『椿姫』が下敷きになっており、暗い記憶の狭間を浮遊する青年と、すべてから逃れよ
うとする不思議な女マリーの静かではあるが、力強い愛が描かれている。
12年前とはまた別の命をもって生まれたんじゃない、と再演した演出家はいう。
たしかに、難解といえば難解だが、この芝居から、時間とはなにか、人間が成長するとはどういうことか、廃墟のアパートの内部をみ
せないように、なんだかよくわからないが、観客にそんな質問を投げかけているように思えてならない。
皆さん良いお年をお迎えください。
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