今回の公演のタイトルが「リバウンド」と聞いたとき、ダイエットに失敗を繰り返す大阪のおばちゃん達の話かとおもった。
だが、あらためて舞台を見ると「これって、どこかで見たことがある?」。
このことは、後に詳しく書くつもりだけれど、2010年に東京は杉並区の座・高円寺 という小劇場で公演された「富士見町アパート
メント」の中の、一作品が、この鄭義信作「リバウンド」だった。
当時、4人の劇作家が、同じアパートのセットで、それぞれ1時間の枠の中で新作を書き下ろし、そのすべてを鈴木裕美が演出するとい
う画期的な試みだった。
芸達者な平田敦子、池谷のぶえ、星野園美ら女優3人が、揃っての熱演だったのを憶えている。
(神戸公演のコーラスガール達 左端が鄭義信さん)
あれから8年。今回は台詞を関西弁に書きかえ、歌も少々増やした。
さらに地元で活躍している女優さんに合わせて、ホンに手を加えたらしい。しかも作者自身の演出だ。
こうして1時間半の一幕物に『リバウンド』は生まれ変わったのである。
今回、上演時間が増えたせいでもないだろうが、いささか散漫になったことは歪めない。
率直に云って、初演のほうが、ことにラストなどは、三人三様の個性がはっきりと浮彫りされていた。
芝居が”濃い„かった。
しかも泣いて、笑って、歌って、踊って、おばちゃん3人組みの舞台は、観客にはうけてはいたが、いささか関西風のドタバタ
喜劇に終始していた感がつよい。
作者の意図は「アハハ…」と笑ってはいるが、その影にさびしさ、わびしさが観客に伝わらなければいけないのだが……。
鄭さんの妄想は、あの「富士見町アパート」の部屋で、鼻歌を口ずさみながら、去っていった仲間を想いながら
下着を部屋干ししている「コーラスガール」を書きたかったにちがいないのだから。
初演では、平田敦子、池谷のぶえ、星野園美ら太目の女優を集めた。
彼女達はバンドを立ち上げたがなかなか売れない。
でも好きな唄を歌って、楽しい毎日だった。仲間の一人は婚約者もできた。
そして、20年後のクリスマスイブの日……。バンドの解散。つまりはリーダー格の菊子の父が認知症になり介護のために、実家に帰るこ
ことになる。結婚した瑞穂は夫にしじゅう殴られるような不和状態。もう一人の弥生は不倫を重ねている。
登場人物の抱える問題がステレオタイプではあるものの、そこは鄭さんらしく大いに笑わせながら物語を運ぶ。
役者が達者なだけに、孤独を身体(からだ)に染みこませた動きが、セリフに奥行をあたえ、しかも物語が凡庸な印象になるのを食い止
めていた。
(初演の『リバウンド』 東京・座・高円寺で)
「コーラスガール」たちにも、華やかだった過去もある。カウントダウンコンサートのオファー、掛け持ちの日々。
そんなバブル時代を回想しながら、鄭さんオハコのおおいに笑わせ、やがて侘びし過ぎるかなしみ……。「人生ほんまに切ないね」。
それが観客に、すくなくとも東京公演では、鄭義信戯曲の本質がストンと胸に落ちた気がする。
(初演 『リバウンド』 のチラシ)
(左から 蓬莱竜太 赤堀雅秋 鄭義信 マキノノゾミ の 各氏)
さて、2010年に公演された『富士見町アパートメント』(自転車キンクリートSTORE 鈴木裕美演出)は、蓬莱竜太、赤堀雅秋
マキノノゾミ、そして鄭義信の当代人気劇作家が、同じアパートのセットで、それぞれが1時間の劇作を書き下ろすという意欲的な
試みが、杉並区にある座・高円寺という小劇場で展開された訳である。
ちなみに、『リバウンド』は、Bグループの最初で、休憩をはさんでマキノノゾミ作『ポン助先生』が上演された。
このときの『リバウンド』 が、8年ぶりに神戸・新開地の神戸アートビレツジセンターKAVCホールで火の目を見たのである。
(2018・5・19 神戸新開地 神戸アートビレッジセンターKAVCホールで所見)
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