竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

わが天使なりやをののく寒雀 西東三鬼

2020-01-29 | 今日の季語


わが天使なりやをののく寒雀 西東三鬼

破調の調べに違和感がない
下5のどっしりとした語調の力だろう
句意は読み手に任せきった作者の意図が少し憎い
この句をモチーフにした寺山修司の短歌がある
(小林たけし)

寺山修司の短歌に、「わが天使なるやも知れぬ小雀を撃ちて硝煙嗅ぎつつ帰る」がある。明らかに、この句の引き伸ばしだ。きつく言えば、剽窃である。若かった寺山さんは、この他にもいくつもこういうことを企てては顰蹙をかいもしたが、どちらが私の心に残っているかというと、これまた明らかに寺山さんの歌のほうなのである。なぜなのだろうか。一つの解答を、同じ俳壇内部から上田五千石が、著書の『俳句塾』(邑書林・1992)で吐き捨てるように書いている。「三鬼句の『叙べる』弱さが流用されたのだ」と……。私は二十代の頃から三鬼が好きで、角川文庫版の句集を愛読した。絶版になってからは、同じく三鬼ファンだった若き日の車谷長吉君との間を、何度この一冊の文庫本が往復したかわからないほどだ。でも、年令を重ねるにつれて、三鬼のアマさが目につくようになってきた。あれほど読んだ文庫も、いまではなかなか開く気になれないでいる。五千石の言うことは、まことに正しいと思う。他方、読者が年令を重ねるということは、こういうことに否応なく立ち合わされるということなのでもあって、この気持ちにはひどく切ないものがある。読者の天使もまた「をののく」寒雀……なのか。(清水哲男)

【寒雀】 かんすずめ
◇「凍雀」(こごえすずめ) ◇「ふくら雀」 ◇「冬雀」
寒中の雀。食物が少なくなると、雀らはますます人家付近に来て餌をあさるようになる。羽毛を膨らませて、いわゆる「ふくら雀」となり餌を漁る。

例句 作者

雪天の暮るゝゆとりや寒雀 西山泊雲
寒雀ひともひとりの顔を出す 加藤楸邨
倉庫の扉打ち開きあり寒雀 高浜虚子
寒雀汝も砂町に煤けしや 石田波郷
寒雀雲にぎやかに浮びたる 飯田龍太
しんがりにつかばや寒の雀とぶ 北崎珍漢
筬の音三つ目は間のび寒雀 殿村莵絲子
来迎図の雲よりこぼれ寒雀 神蔵 器
寒雀身を細うして闘へり 前田普羅
天の国いよいよ遠し寒雀 西東三鬼