竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

手袋を脱いで握りし別れかな  川口松太郎

2020-01-30 | 今日の季語


手袋を脱いで握りし別れかな  川口松太郎

手袋を脱いでの握手は素手の握手だ
友愛の深さを感じる
おそらくは互いに力をこめて握りあい
握ったままの手を何度も振ることだろう
別離の悲しみ
再会の念を約束する
(小林たけし)

男同士の別れだ。いろいろな場面が思い浮かぶが、たとえば遠くに赴任地が決まり旅立っていく親友との駅頭の別れなどである。日頃は「手袋の手を振る軽き別れあり」(池内友次郎)程度の挨拶であったのが、もうこれからは気軽に会うこともできないとなると、お互いがごく自然に手袋を脱いで固い握手をかわすことになる。力をこめて相手の手を握り、そのことで変わらぬ友情を誓いあい、伝えあう。このような場合に手袋を脱ぐのはごく自然なふるまいだし、礼節の初歩みたいなものだけれど、脱ぐべきか脱がざるべきか、判断に迷うことが日常には多い。とくに、女性の場合は迷うのではなかろうか。映画で見る貴婦人などは、まず手袋を脱がない。それは貴婦人だからであって、貴婦人でない現代女性は、いったい着脱の基準をどのあたりに定めているのだろう。山口波津女に「花を買ふ手袋のままそれを指し」という句がある。こんな場面を句にしたということは、この行為が自分の価値基準に照らしてノーマルではないからである。本来ならば、手袋を脱いで店の人に指示すべきであったのだ。おタカくとまっているように思われたかもしれないという危惧の念と、急いで花を求めなければならなかった事情との間で、作者の心はいつまでも揺れ動いている。(清水哲男)

【手袋】 てぶくろ
◇「手套」(しゅとう) ◇「マッフ」 ◇「マフ」
手や指を寒さから守るもの。毛糸で編んだものが主流だが、皮革も好まれる。「マッフ」は両側から手を入れて暖める円筒形のもので、小物入れを兼ねたものもあるが、現在ではほとんど使用されない。

例句 作者

手袋を脱ぐとき何か忘れをり 辺見じゅん
仲直りできぬ手袋脱ぎにけり 藤田弥生
月光が革手袋に来て触るる 山口青邨
手袋の十本の指を深く組めり 山口誓子
怒も寒もわが手袋の中なりけり 橘川まもる
玻璃くもり壁炉の上に古マッフ 栗原とみ子
手袋に十指をおさめ耐えるのみ 高橋たかえ
手袋をはめ終りたる指動く 高浜虚子
手袋の手を置く車窓山深み 宇佐美魚目
手袋の手をたゞひろげゐる子かな 松根東洋城
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