(16)
ネクタイの結び目がしっくりと手に馴染みだしたころ、所属部署が決まっていく。それによって、スーツとネクタイに別れを告げることができた同僚がいた。
ぼくは、経済を学んできたという安易な決め方ではないと思うが、そうしたことを専門にしている部署に入った。その会社の力を入れている部署でもあったので、好運ではなかったかと思う。しかし、さまざまな社外の人に会うため、きちんとした格好は抜け切れないでいた。
もちろん、直ぐにひとりでなんでも出来るわけもなく、名刺をもって方々を回ることからはじまる。その同行する役目を引き受けてくれたのは、6年先輩の女性だった。
入社したときから、駅から会社までの区間で会うことも多かった人だ。会社の途中で、きまってコーヒーを買い込み、さっそうと歩いていた。電車内で読むのであろう新聞と、長い髪と、そのいくつかのセットで印象付けられる人。
最初のうちは、ぼくの存在がどうしたものか分からず、適当に相手をされていた気がするが、真剣な態度で接すると、彼女もその態度に答えてくれる人だった。
仕事上では、尊敬できるお姉さん的なキャラクターだったが、一緒に仕事帰りにお酒でも飲めば、くつろいで誰よりも妹のように人に甘えたがる人だった。同僚たちの間でも、そのギャップに負けてしまい、陰で好意を寄せる人も多かった。
仕事上では、かなりの人数に会って、インタビューしたり、その金銭上の哲学をきいたり、景気の動向を占ってもらったりした。その原稿のあらすじを、先輩に見せるためにワープロに向かったりもした。はじめのうちは、まったく相手にしてもらえない内容らしく、先輩からのチェックが厳しかった。しかし、褒めるのが好きな人らしく、お酒を飲んでいるときには、よくセンスがあるとも言ってもらえた。やはり、普通に血の通った存在でもある自分は、採用されなくても、その言葉に嬉しい感じを抱いた。
経済的なものの見方を大前提にしている人を相手にすることが多かったので、自分も影響されるのかとも考えていた。多くの人は、儲けを生み出さないことには罪がある、と言葉には出さないが表情は、そう語っていた。泡のような経済は破綻し、下り坂を走っていたが、彼らはそれでもいくらか疲弊していたが、大筋はその考えを変える必要もないと信じているようだった。
自分は、いままで行動規範として、そのようなお金を最優先にと考えたこともなければ、今後ずっとそのようなことを持つこともないだろうと知っていた。しかし、ものごとを成功させるという、その過程で頑張った姿、いくらか自慢とアイロニーの入った話をきくことは楽しかったし、とてもためになっていく。
女性のまえで疲れた表情をあまり見せたくもなかったが、ときには週末にみどりの家により、いつもより遅い土曜の朝を迎えることが多くなった。
彼女は、あまり音もたてずに、いろいろなことをすることがうまかった。
「よく寝てたね」
「ごめん、起こしてくれればよかったのに」
「そうだね、今度そうする」
そのような会話が何回か続いた。
彼女の仕事も順調だったらしく、相変わらず忙しそうにしていた。スポーツは週末にすることが多いので、自分も彼女と一緒にサッカー場へ出かけ、彼らのそれぞれの発露である運動する姿を眺めた。急速に人気が芽生えだしていたサッカー。しかし、究極には、アマチュアであり続けることの美しさもあるのではないだろうか、と自分は考えていた。
あまりにも見返りを望みすぎて、日本の経済は傾いていったのではないのだろうか。しかし、誰にも止められない力が働いて、物事が決められ進んでいくこともある。そして、結果としては、これ以外に方法がなかったというように納まるところに、きちんと嵌まっていくこともある。
彼女は何人かの選手に取材をするため出かけている。夕飯までに時間があるので、デパートや本屋や靴屋によった。そうだ、最初に出た給料でみどりに何か買うはずだった、ということを思い出し、デパートに戻ってみたが、こうした時に、急に頭の中は週末のようになり、なにも浮かばなかった。月曜になって、会社の先輩にでも訊くか、と考え数袋を抱えた腕で、一休みしようとビールが飲めるところを探した。
ネクタイの結び目がしっくりと手に馴染みだしたころ、所属部署が決まっていく。それによって、スーツとネクタイに別れを告げることができた同僚がいた。
ぼくは、経済を学んできたという安易な決め方ではないと思うが、そうしたことを専門にしている部署に入った。その会社の力を入れている部署でもあったので、好運ではなかったかと思う。しかし、さまざまな社外の人に会うため、きちんとした格好は抜け切れないでいた。
もちろん、直ぐにひとりでなんでも出来るわけもなく、名刺をもって方々を回ることからはじまる。その同行する役目を引き受けてくれたのは、6年先輩の女性だった。
入社したときから、駅から会社までの区間で会うことも多かった人だ。会社の途中で、きまってコーヒーを買い込み、さっそうと歩いていた。電車内で読むのであろう新聞と、長い髪と、そのいくつかのセットで印象付けられる人。
最初のうちは、ぼくの存在がどうしたものか分からず、適当に相手をされていた気がするが、真剣な態度で接すると、彼女もその態度に答えてくれる人だった。
仕事上では、尊敬できるお姉さん的なキャラクターだったが、一緒に仕事帰りにお酒でも飲めば、くつろいで誰よりも妹のように人に甘えたがる人だった。同僚たちの間でも、そのギャップに負けてしまい、陰で好意を寄せる人も多かった。
仕事上では、かなりの人数に会って、インタビューしたり、その金銭上の哲学をきいたり、景気の動向を占ってもらったりした。その原稿のあらすじを、先輩に見せるためにワープロに向かったりもした。はじめのうちは、まったく相手にしてもらえない内容らしく、先輩からのチェックが厳しかった。しかし、褒めるのが好きな人らしく、お酒を飲んでいるときには、よくセンスがあるとも言ってもらえた。やはり、普通に血の通った存在でもある自分は、採用されなくても、その言葉に嬉しい感じを抱いた。
経済的なものの見方を大前提にしている人を相手にすることが多かったので、自分も影響されるのかとも考えていた。多くの人は、儲けを生み出さないことには罪がある、と言葉には出さないが表情は、そう語っていた。泡のような経済は破綻し、下り坂を走っていたが、彼らはそれでもいくらか疲弊していたが、大筋はその考えを変える必要もないと信じているようだった。
自分は、いままで行動規範として、そのようなお金を最優先にと考えたこともなければ、今後ずっとそのようなことを持つこともないだろうと知っていた。しかし、ものごとを成功させるという、その過程で頑張った姿、いくらか自慢とアイロニーの入った話をきくことは楽しかったし、とてもためになっていく。
女性のまえで疲れた表情をあまり見せたくもなかったが、ときには週末にみどりの家により、いつもより遅い土曜の朝を迎えることが多くなった。
彼女は、あまり音もたてずに、いろいろなことをすることがうまかった。
「よく寝てたね」
「ごめん、起こしてくれればよかったのに」
「そうだね、今度そうする」
そのような会話が何回か続いた。
彼女の仕事も順調だったらしく、相変わらず忙しそうにしていた。スポーツは週末にすることが多いので、自分も彼女と一緒にサッカー場へ出かけ、彼らのそれぞれの発露である運動する姿を眺めた。急速に人気が芽生えだしていたサッカー。しかし、究極には、アマチュアであり続けることの美しさもあるのではないだろうか、と自分は考えていた。
あまりにも見返りを望みすぎて、日本の経済は傾いていったのではないのだろうか。しかし、誰にも止められない力が働いて、物事が決められ進んでいくこともある。そして、結果としては、これ以外に方法がなかったというように納まるところに、きちんと嵌まっていくこともある。
彼女は何人かの選手に取材をするため出かけている。夕飯までに時間があるので、デパートや本屋や靴屋によった。そうだ、最初に出た給料でみどりに何か買うはずだった、ということを思い出し、デパートに戻ってみたが、こうした時に、急に頭の中は週末のようになり、なにも浮かばなかった。月曜になって、会社の先輩にでも訊くか、と考え数袋を抱えた腕で、一休みしようとビールが飲めるところを探した。
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