遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 227 新宿物語(2) 影のない足音 他 この歌番組を御存知ですか

2019-02-03 10:55:27 | 日記

          この歌番組を御存知ですか(2019.1.30日作)

 

   BS日本 こころの歌

   このテレビ番組を御存知ですか

   毎週月曜日 BS四チャンネル

   午後七時より放送される

   五十分程の歌番組です

   クラシック系の男女十五人程の合唱団の人々が

   シンプルなドレスやダークスーツ姿で 直立不動

   ただ 歌を歌い継いでゆく

   それだけの番組です 余計な司会

   ナレーションも入りません 時折り

   短い解説が入るのみです それでいて

   思わず画面に引き込まれてしまうのは

   正確な日本語の発音 正確な曲の解釈による

   正確な歌唱が 作詞家 作曲家 その人達が

   心を込めて創った作品 その歌 歌の心を

   小細工なし 直に こちら 観る者 聴く者 の心に

   伝えて来るため だと思います

   日本語の美しさ その日本語に付けられた

   曲の美しさーー スポンサーによる

   広告も控え目で 好感が持てます

   かつて NHKが持っていた 当節のNHKには

   見る事の出来ない シンプルなたたずまい 清潔感

   落ち着いた雰囲気 歌 そのものが好きな方は

   魅了されると思います

   むろん こう書いたからといって 

   この番組 この局 このスポンサー この合唱団 とは

   なんの関係もありません 偶然 眼に 耳にした

   この番組に 心を動かされ 魅せられ その感動と共に

   ちょっと 誰かに話してみたかっただけの事です

   

 

 

          影のない足音

 

 

 雨の土曜日だった。午後十一時を過ぎていた。バーの中にはわたしの外に三、四組の客がいるだけだった。少し物憂い空気が二十脚程のスツールが並んだ、馬蹄形をしたカウンターを持つだけの店内に流れていた。すでにひと時の賑わいも失せて、バーテンダーもやや手持ち無沙汰そうにピーナッツを齧ったりなと゛していた。

 いつの間にか女が隣りに来ていた。わたしはまったく気付かなかった。

 女が何かの拍子に、わたしのウイスキーの入ったグラスを倒した。

 小さなグラスがカウンターの上を転がり、下に落ちて割れた。

「ごめんなさいーー。お酒、掛りませんでした?」

 女が狼狽したように腰を浮かせて言った。

 わたしは突然の出来事に、少し気分を害して女を見た。

「本当にごめんなさい。わたし、酔ってしまったみたいだわ」

 女は、スツールに掛けていたわたしの膝の辺りを気にして言った。

 バーテンダーは手早くカウンターの上に流れたウイスキーを拭き取った。

「ごめんなさい。わたし、グラスを弁償します。それからバーテンさん、この方にお酒を注(つ)いであげて下さい」

 ーーそれが切っ掛けだった。

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 女は三十歳前後だった。細面の、上品な顔立ちをした、どこか育ちの良さといったものが感じられる雰囲気を身に付けていた。

 二人でバーを出るとタクシーで十分程の、新宿歌舞伎町裏のホテルに入った。

 女は初めからそのつもりだった。わたしが眼を覚ました時には、午前三時過ぎだったが、女はそばにいなかった。淡いピンクの照明がベッドの上の、女の頭のない枕だけを照らしていた。

 わたちしは慌てて飛び起きた。

 自分の持ち物を点検した。

 何もなくなってはいなかった。腕時計も、ズボンの尻ポケットに押し込んだ数枚の千円札も、そのままにあった。

 わたしは安堵してベッドに坐り込んだ。

 女が枕探しかと思ったのだが、そうではなかった。単に、行きずりの情事に煩わしい関係がからむのを恐れただけにしか過ぎないらしかった。

 それにしても、ちょっと、いい女だった、とわたしは思った。

 わたしは眼を凝らした。

 サイドテーブルの上のスタンドの下に、意味あり気に一枚の紙切れが挟まれていた。

 手に取ってみると、ボールペンの細いきれいな字で走り書きがしてあった。

 

" 素敵な夜をありがとう。お先に失礼します。お勘定は済んでいるので、どうぞ、ごゆっくり・・・・

枕の下を見て下さい。楽しい夜を過ごさせて戴いたお礼です。また、お会い出来る時を楽しみにしています "

 

 わたしはすぐに枕の下を見た。

 二つ折りにされた二枚の一万円札があった。

 わたしは手に取った。

 おれを買ったつもりでいやがるのか・・・・

 そう思うとなんとなく、侮辱されたようで腹が立った。

 わたしは二枚の一万円札をベッドの上に投げ出した。そのまま、ベッドの足元の方に頭を向けてひっくり返った。

 今度会ったら仕返しをそしてやる・・・・

 軽い腹立ちを覚えながら胸の奥で呟いた。

 

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 二度目に女に会った時には、ひと月近くが過ぎていた。その間わたしは、新宿周辺の女の現れそうなバーやスナックを、あちこち探して歩き廻った。

 新宿はわたしに取っては、言わば、地元とも言える街だった。十九歳の頃から二十五歳の今日まで六年間、ほとんど新宿の夜の街で過ごして来た。

 

    続く