人間の評価基準(2020.6.9)
人間が 人間として 人間を尊重
敬意を持って生きる 最も大切
尊い事だ 例え 高い
社会的業績を誇る人間であっても
人間 人への敬意を忘れ 人間の尊厳
尊重をないがしろにする人間は 人間として
軽蔑 否定されても 否 とは言えない
人間を人間として尊重 敬意を持ち
人間の尊厳を持って生きる その人間に
社会的業績が加味された時 その人間は 人間として
最も高い評価を受けるに値する
社会的業績を持たない人間 その人間は 人間として
最も大切なもの 人間への敬意 人間の尊厳 尊重を守り
真摯に生きる その時 その人は 人間として
立派な人間と言える 例え 社会的業績 皆無であったにしても
社会的業績を持った人間 高い社会的業績を持ちながら
人への敬意 人間の尊厳 尊重をないがしろにする人間より
はるかに立派な人間 と 言える
人の命の尊重 尊厳を守る
人がこの世を生きる 基本
総てはそこから始まる
縦軸 人間尊重100 横軸 社会的業績100
その接点0から出る45度線 10 20 と数値を増す線の頂点
縦軸 横軸100の交わる頂点 45度線のその頂点を生きる人間は
人間として 最も 高い評価を受け得る人間
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報復(6)
律子は明代の口から、水野がそう言った、と聞いて悲観的な予感を抱いた。
言質を取られるのを恐れる水野益臣の小ずるい姿が眼に浮かんだ。
律子は気弱になっていた。
「そんなにしてまで恩着せがましく言うんなら、会わなくてもいいわ。会いたくもないし、会ってもなんにもならないと思うの」
明代は、そんな律子を励ますように強い口調で言った。
「弱気になっちゃ駄目よ。とにかく段取りをしたんだから、会うだけは会ってみなさいよ。そこではっきりとあなたの気持ちを言って、駄目なら駄目で心を決めればいいんだから」
律子は明代に押し出されるようにして水野に会った。
水野は律子が勤めている出版社に近い四谷の喫茶店に、丸めた週刊誌を片手に気乗りのしない様子で現れた。
待っていた律子の顔を見ても微笑み一つ見せなかった。不貞腐れたように頷いて律子と向き合った席に腰を下ろした。
律子は、そんな水野を前にして卑屈になっている自分を意識した。
水野の顔には、律子が悩んだ万分の一程の苦悩の跡もなく、健康感に溢れていた。不機嫌にしているのはポーズだけではなかった。律子に会う事自体に気が進まない事の何よりもの証拠だった。
律子は、そんな水野を前にして、やっぱり会わなければ良かった、と思った。不機嫌な水野の心が少しでも自分の方へ傾いてくれる事を願って、ますます、卑屈になってゆく自分を意識して、律子は惨めな気分に落ち込んだ。と同時に、これから先は再び、水野に会う事はもう、ないだろう、と心の内で気持ちを固めていた。責任感も誠実さも全く持ち合わせない様子の男など、今更、非難しても始まらない、という気持ちになっていた。
律子は静かに言った。
「お腹の子供、もう、五か月になるわ。わたしは毎日毎日、その存在を体の中で感じているの。もし、あなたがお金のためだけで、わたしから逃げているのなら、そんな心配はしなくていいからって言いたいの」
「ずいぶん自信に満ちた言い方だね」
水野は唇の片側をゆがめて皮肉っぽく言った。その後、すぐに言葉を続けた。
「だけど、問題はそんな事じゃないんだよ」
微かに怒りを含んだような眼で律子を見て水野は言った。
「じゃあ、妊娠した女が厭になったという事 ?」
「そんな事じゃないよ。ただ、僕は自由でいたいと思うだけなんだよ。縛られるのが厭なんだ。愛にも子供にも家庭にもね。僕はまだ、カメラマンとして、何一つ満足な仕事をしていない。いい仕事をする為にも自由でいたいんだ」
「家庭を持ったら、いい仕事が出来ないって言うの ?」
「気持ちが仕事に集中出来なくなるからね。家庭に気を取られたりしてさ」
「そんな事、言い訳にしか過ぎないわ。家庭を持っても、いい仕事をしている人はいっぱい居るじゃない。M先生だって三人もお子さんがいるわ」
「他人(ひと)の事は言わないでくれよ。僕は僕なんだから。ただ、自由でいたいだけなんだよ」
水野は師の事を言われて色を成した。
「じゃあ、お腹の子供、堕ろしてもいいのね」
「僕の子供だって、はっきりした証拠がある訳でもあるまいしさ」
水野は気持ちを昂らせたまま、挑戦的な口調で嘲笑するように言った。
「まあ、なんて酷(ひど)い事を言うの。失礼よ !」
律子は怒りで体中が震えるような思いで激して言った。
「わたしが、他の誰と付き合っていたって言うの。卑怯だわよ」
「なんで卑怯なんだよ」
水野も食って掛かるような口調になっていた。
「だって、そうじゃない。逃げてばかりいて、何一つ、責任を取ろうとしない」
「逃げてなんかいないよ」
「逃げてるじゃない」
「なんとでも言えばいいさ」
「いいわよ。もう、いいわ。二度と会わないわ。あなたの顔なんか、見たくもないわ」
律子にはそう言った自分の声だけが記憶に残っていた。他の事は一切が記憶になかった。気が付いた時には四ツ谷駅のホームにぼんやりと立っている自分を見い出していた。
律子には、水野益臣がここまで卑劣になれるとは思えなかった。何処か気が弱く、優しかった水野の姿が強い印象を伴って律子の中には刻み込まれていた。あの優しかった水野益臣はなんだったのだろう。何処へいってしまったのだろう ?
律子は心の中で、水野への諦めと共に、そんな気弱な水野に期待していた部分が自分の裡になかっのだろうか、と改めて思い返していた。今日、会った事にもそんな虚しい期待を抱いていた部分はなかったのだろうか。
律子は四ツ谷駅のホームに佇んだまま、自分が何か、現実とは遠い何処かの世界を漂っているような気がしていてならなかった。信じられない夢の中に居るような気がしていた。
律子は思った。もし、自分が妊娠しなかったら、水野は優しいままの水野益臣でいたのだろうか ? 妊娠した事が罪だったのだろうか ?
結婚に就いて、子供を持つ事に就いて、二人が言葉を交わした事は一度もなかった。感情の赴くままに若い二人が、情熱をぶつけ合い、求め合っていた、それだけの事だった。律子の不注意、律子が迂闊だったと言われればそれまでだった。
だが、律子は、初めて自分が肉体を許した男の愛を信じ切っていた。肉体を許し合った男と女の愛情は堅固なものと信じていた。甘さを指摘されても、初心(うぶ)だと笑われても、今となっては始まらない事だったが。
学生時代には律子にも何人かのボーイフレンドがいた。だが、社会の一線で活躍する夢を見ていた律子は、恋人と言える程に深い関係を異性との間に持つ事を良しとはしなかった。高校卒業後、東京の大学を選んだのも、後々の就職に有利な様にとの思いからのみだった。律子は社会の様々な分野で活躍する先輩女性達に憧れていた。
出版社での仕事は、そんな律子の心を満足感で充たしてくれた。
何年かは夢中のうちに過ごしていた。
仕事の面白さも分かりかけて、ようやく周囲を見廻す余裕の持てるようになった頃に現れたのが水野益臣だった。
律子は今、改めて考える。仕事の面で余裕が出来た分だけ、自分の心の内に、緩みと隙間が生じていなかっただろうか ? 自分に甘えを許す心が生まれてはいなかっただろうか ? 浮ついた心でいて、水野益臣の本当の姿を見極めようとする努力をしていなかったのではなかったのか ? その結果が、今日の出来事に繋がっている、そういう事ではないのか ?
律子は思った。
水野益臣との関係を清算するために、お腹の中の子供を闇に葬るのは簡単な事だ。そすれば身軽になって、総てを一から新しくやり直す事が出来る。男性は何も、水野益臣ばかりではないのだ。
そして、そう思った途端、律子はまた別の思いに捉われた。
次々に自分の体の中から信号を送って来る眼には見えない存在が、律子の意識をまた、新たに眼醒めさせた。命という、その存在は苦境の中で苦悩する只今現在の律子に取っても、そんなに軽々しく見過ごす事の出来るものではないように思えて律子を縛った。
三村明代からの電話があったのは、午後九時過ぎだった。
律子は、水野との話し合いの結果を問う明代に、
「駄目よ、あんな人。当てになんて出来ないわ」
と言った。
「そう。それならそれで、あなたの気持ちはどうなの。はっきり決断出来た ?」
「まだ、何も分からないわ。冷静になって少し考えてみるわ」
「そうね。自棄(やけ)を起こしちゃ駄目よ。何もあの人ばかりが男じゃないんだから」
「大丈夫よ。わたしが考えていたのと同じような事を言わないでよ」
「そうか、それならいいんだけど」
受話器の向こうで笑う明代に律子は、力のない笑い声を返した。
「明日にでも会って、詳しい事を聞くわ」
明代はそう言って電話を切った。
律子は絶望していた訳ではなかった。
胎児は闇に葬る事を考えていた。
産んで産めない事はないと思ったが、様々な条件と照らし合わせてみると、自ずと暗い面ばかりが浮き上がって来て気持ちが沈んだ。
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takeziisan様
コメント 有難う御座います その上
ブックマーク登録との事 光栄 嬉しい限りです
本当に有難う御座います
奥様にも見て戴いているとの事 感謝申し上げます
どうぞ 奥様にも御礼の言葉 お伝え下さいませ
相変わらずブログ 楽しく拝見させて戴いております
野菜収穫 見ていて羨ましい限りです
わたくしの自宅の屋上でも少し 鉢植えなどで様々
花や野菜など育てておりますが 自然の中で作るのとは
訳が違います ママゴトのようなものです
「小雨降る径」懐かしいですね 添えられたお写真も
良い写真で何かしら優しい思いに包まれます
わたくしはこの曲は 高 英男 芦野ひろし など
シャンソン歌手のステージでよく耳にしました
今では懐かしい思い出です
(わたくしの文を大変お褒め戴き嬉しく思いますが
どうぞ お使い出来るものがありましたら
御自由にお使い下さいませ 無論 連絡など
お気遣い戴かなくても結構ですので)
奥様共々のコメントに心より感謝申し上げます
桂蓮様
何時も様々な形で 御支援下さいまして
有難う御座います 大変 嬉しく思います事は無論
とても大きな気持の励みになります
新しい御文章拝見致しました
時計のデジタル アナログ 全く御同感です
その上最近は電波時計まで出現 四六時中
針が動いているのを見るのは 楽なものではありません
絶え間なく動き続ける針が刻々と自分の命を
削っているような気分にさせられて 落ち着きが
得られません おっしゃる通り 確かに一秒は長い
時間ですね
意識に就いての御考察
坐って解決 さすがだと存じます
外からの知識は経験ではない 禅ではこう言いますね
人に取っての大切なもの それは経験で
自身の心で得たもの それを理解した時 始めて
分かった と言う事になる いわゆる
「悟った」と言う事ですね 禅では何よりも この
「悟り」を重んじますね 坐って自身で解決する
御文章を拝見致しまして さすがだと感じ入りました
これからもどうぞ 良い御文章をお寄せ下さいませ
余談ですが なんだかこの頃 辞書を片手に
英文に凝ってしまい 読みが捗りません
追い追い いろいろ 過去の御文章を
拝見させて戴くつもりでおります 宜しく
お願い申し上げます