遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉299 小説 報復(7) 他 柳に風 ほか

2020-06-21 12:35:49 | つぶやき
          柳に風(2020.6.10ー15日作)


          ほどほどの

   草は丈が高ければ 高いほど
   風に なぎ倒され易くなる
   地面に這いつくばれば 這いつくばるほど
   踏み付けられ易くなる
   中庸の丈の草 その強みは
   風には強く 踏み付けられ 易くもない
   人が生きる その世界では ?

          風に柳

   柳の木は 右に 左に
   前 後ろ 風の吹くまま そのままに
   揺れて 動いて それでもなお
   自身はしっかり 大地を掴み 離さない
   大地に根を張り 動かない
   人もまた 同じ事
   右に 左に 前 後ろ
   自在 自由に 心を配り
   眼を配る それでも根本 自身の腹
   胸の思いは 動かない 動かさない
   動いて 動かず 動かず 動いて
   凝り固まる事がない
   凝り固まれば 動けない
   囚われ身では 動けない

          水辺の葦

   風に揺れる水辺の葦は
   右に左に揺らいでも 水の中
   しつかり大地に根を下ろし
   陸の岸辺を守ってる



         ----------------



          報復(7)

「身軽になって、もう一度、最初からやり直すのよ。早い時期なら、気持ちの整理を付けるのにもいいと思うから」
 必ずしも堕胎を正当化していない明代の口から、そんな言葉を聞くのはおかしかったが、自分を思う明代の友情に律子は感謝した。
 睡眠薬を口にしたのは、死にたいと思ったからではなかった。ただ、眠っていたいと思っただけだった。
 少しばかりの量ではすぐに眼が覚めてしまいそうで不安だった。昏々と眠って、いつか眼が覚めた時には別の世界が開けている・・・・・そんな願望が心の底の何処かにあって、その上、それが、水野益臣を驚かせ、狼狽させてやりたいという、水野への仕返しの気持とも重なり、律子は自分の眠りが死の寸前にまでいく事を願っていた。
「あなたのせいで、この人は自殺しようとしたのよ」
 恐らく、昏睡状態の律子を発見した時、明代は旨く取り計らってくれるだろう。
 明代の性格からして、彼女が水野に連絡し、水野を問い詰めるだろう事は律子にも想像出来た。
 気の小さい水野は明代の前では多分、手も足も出ないだろう。  
 それを思うと律子は、何かしら爽快感にも近いような感情を抱いた。
 分量を少しでも間違えれば、正真正銘、死の世界へ陥る事は分かっていた。
 それでも律子は少しの恐怖も感じなかった。自分がこの世界からいなくなってしまうなどとは考えられなかった。
 入り口のドアに鍵は掛けなかった。死ぬ積りはないのだから、その必要はなかた。
 用心のために寝室の部屋のドアにだけ、内側から鎖状の掛け鍵を掛けた。
 それが幸いした。
 発見が遅れれば死ぬところだった、と医師は言った。
 明代が最初に発見した。
 勤務先に電話をしても、自宅に掛けても、返事のない事を不審に思った明代が駆け付け、ベッドに横たわる律子を発見した。
 胎児はショックで流産した。
 思い描いた筋書き通りには運ばなかったその出来事は、律子の心に深い痛手を残した。
 律子はやむなく函館の実家に戻り、しばらくの静養を余儀なくされた。
 明代との友情はその後も続いた。
 東京で著名な女性評論家の三村明代は、講演会などでもしばしば来道した。
 体調を回復し、立ち直ってからの律子も、自分が関係する団体の講演会などには明代を招請した。
 明代は律子の回復と現在の律子の活躍を誰よりも喜んでくれた。
 律子はだが、今度の東京行きでは明代には会わない積りだった。水野益臣への拘りを明代に知られるのが怖かった。律子の心の内にある、この水野への報復の思いを知った時、明代はなんと思うだろう ?
 律子を思いの外、情の強(こわ)い女だと思うだろうか ?
 それとも、まだ、水野への思いを断ち切れないでいると見て、女々しく思うだろうか ?
 いずれにしても律子には、現在の自分のこの幸福を壊したくないという思いだけが強かった。
 水野は、律子が睡眠薬を飲んだあと、流産して入院している間も見舞いには来なかった。事の一部始終は律子が思い描いた通り、明代が水野に一切を知らせていた。
 だが、水野は明代からの知らせを受けるとそのまま、何処かへ姿をくらましていた。
 水野が明代と律子の前に姿を見せる事はそれ以来、一切、なかった。
 律子がテレビで最初に見た水野が、あれ以来の水野益臣の姿だった。


          三

 
 A デパートの祝賀パーティーは、国内の代表的なデパートの催し物だけに華やかだった。経済界からは無論のこと、政界、芸能界、スポーツ界、マスコミ界、それに芸術各分野の著名人も数多く主席していて、Tホテルの大きなホールは一杯だった。
 川辺義人はしばしば東京へ来ている関係もあって、思いの外、東京の人々の間でも顔が広かった。
「わたしの妻です」
 律子は義人から、名前だけは普段から馴染みの著名人に紹介されるたびに、丁寧に頭を下げて挨拶した。テレビ、新聞、雑誌などで名前を知られた著名人と対等の立場で挨拶出来る気分は悪くはなかった。
 東京にいた頃の律子は、雑誌記者として、自分一人だけでそんな人々の元へ押しかけていたが、それとこれとでは立場が違った。現在の自分が、一段、高い場所に足を掛けている気がして、それが律子の虚栄心を満足させた。
 律子はパーティーの会場を出るまで、上気したように頬を紅潮させていた。
 義人はAデパートとの関係の親密さもあて、途中で会場を抜け出す訳にもゆかなかった。中締めが入るまで残っていた。明日、明後日と仕事の予定がない分だけ、寛いでいる風でもあった。
 明日は午前十一時半にAデパートの美術部へ行き、二、三点の絵を見る予定になっていた。その足で銀座の街へ出て、画廊に足を運ぶ積りでいた。
 水野益臣とは、夕方五時半に律子たちが滞在しているホテルのロビーで会う約束を、夫の義人が取り付けていた。
 水野は午後十時からのテレビの生番組が入っていて、それまでの僅かな時間を利用して会うのだった。
 律子は一週間前に、義人からそう聞かされた時、
「水野さんにお逢い出来るのね」
 と言った。
「うん、女房がサインを欲しがってるんだ、って言って、むりやり時間を割いて貰ったんだ。もう何年も会ってないんで、奴もびっくりして戸惑ってたよ」
「気持ちよく承知してくれたのかしら ?」
「昔のよしみでなんとかなったよ。奴もなかなか忙しいらしいよ。売れっ子になってお目出度うって言ったら、素直に喜んでたよ」
「そう」
 律子は何気なく言って、義人に感謝の眼差しを向けた。
 夫の義人の前で水野に会う事に律子は危険を覚えない訳ではなかった。
 水野が二人の過去を口にすれば、現在の幸福な生活に翳が射さないという保証はなかった。
 律子はそれでもなお、水野益臣と会う道を選んでいた。現在の、義人との仲睦まじい夫婦姿を水野の眼の前で見せてやりたかった。水野の思い掛けない展開に周章狼狽する姿を見て嘲笑(わら)ってやりたかった。
 律子はその上、水野益臣が義人の前で、二人の過去を口にするだけの勇気は持ち合わせてはいない、と睨んでいた。あの男に、そんな気概がある筈がない。
 義人はAデパートのパーティーに出席するという口実の下、律子が取って置きのアクセサリーや衣装を選択する事を怪しまなかった。 
 水野と会う時は勿論、それを身に付ける積りでいた。
 あなたが捨てた女はそのお蔭で今、こんなにも恵まれた生活環境の中で生きていますよ、と無言のうちに誇示してやりたかった。

 その日、律子と義人は午前中にAデパートへ行き、フランスの現代画家二人の作品を一点ずつ購入した。



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          桂蓮様

          コメント 有難う御座いました
          桂蓮様は大変 御慎重なお方でいらっしゃる御様子が  
          御伺い出来ますが かえって その方が良いのでは
          ないでしょうか 十人の一般的友達を持つより
          本当に親しい 心の分かり合える 二人か 三人の
          友達の方が はるかに豊かな友情を得る事が出来ます
          そしてそれは 十人の心の薄い友達の友情より はるかに
          貴重な財産なのではないでしょうか いざという時
          究極の時点では 日頃の友情も省みず
          逃げ出す人間は多いものです その時点で頼れる
          真の友情を持ち得る二人か三人の友人の方が 真実
          貴重な財産と言えるのではないでしょうか 
          斯くいうわたくしも友達は多くはありません 最も
          既に亡くなった人も多く居ますので
          それにわたくし自身 根本的には人間嫌いの性格を
          多分に持ち合わせています
          お時間をかけて わたくしを観察なさるとの事
          どうぞ お手柔らかにお願い致します
          ブログのお写真 拝見しました 御主人様でしょうか
          仲睦まじい御様子 お羨ましい限りです
          何時も応援戴き 心より感謝申し上げます


          takeziisan様

          いつも有難う御座います
          先ず最初にお詫び申し上げます
          前回 わたくしが作家か というお言葉が御座いましたが
          ブックマークへの御登録の御礼を申し上げる事にのみ
          気を奪われ お答えする事を失念してしまいました
          わたくしは作家ではありません 人生の集大成を
          急いでいるところの人間です せめてもう少し
          九十歳まではと そこを目標にしている人間です
          その間にどの位 人生の整理が出来ます事やら
          
          落花生をお植えとの事 わたくしの所でも毎年 屋上の
          プランターで落花生を作っています
          わたくしが住む千葉県は落花生の産地ですが
          取れたての落花生を殻着きのまま茹でて食べのは
          何よりの楽しみとなっています
          良い御収穫を期待しております
          腰痛 困ったものですね 年齢と共の
          筋肉の衰えのせいか 年々 痛みが執拗になって
          来るような気がします どうぞ(自戒を込めて)
          お大切にしてください