最終幕を生きる(2021.10.20日作)
人生の最終幕を生きる人間には
現実の世界の遠い未来に思いを馳せ
そこに 夢を描く事は出来ない
もはや 自身に取っては現実ではない
自身のいない後の世界に 今この時点で
どのように係わってゆけるのか
そこに思いを致し 残り少ない
最終幕の時間の中で
最善 最良の努力をする事こそが
賢明 最良の道だ
人生の最終幕を生きる人間には
過ぎ去った時間の中にこそ
真の人生が宿る
過去の人生を耕し 育み
その中で育てた芽を
世の中 社会に植え付ける
人生の最終幕を生きる意義も
安らぎも そこに生まれる
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十三枚の絵(5)
初めて見る結城さんの八畳の部屋は、無数の絵で埋もれていた。
立てられた画架には、筆の跡のない白い画布が張り付けられたままになっていて、それが、奇妙に鮮烈にわたしの眼を射た。
「通夜は今夜という事か ?」
わたしは森本に聞いた。
「うん。さっきまで、妹さんの御主人がいたんだけど、車で帰って、御両親や家族を連れて来るって言ってた」
辰っあんが地元の慣習に馴れた者らしく、近所の二、三の主婦と一緒に、てきぱきと動き廻っていた。
通夜は内輪で、ごく簡素に行われた。
結城さんの御両親も妹さん夫婦も、結城さんを深く心に掛けていた事がそれぞれ、一つ一つの動作からはっきりと読み取れた。
わたしは、そんな人達の姿を見ていて、なんという事もなく、救われるような安堵にも似た気持ちを覚えていた。
三
結城さんの肉体は、肝硬変と胃潰瘍によって激しく蝕まれていた。直接の死因は窒息死ではあったが、放って置けば遠からず死に至った、と解剖に当った医師は言った。
結城さんは、森本の再三の勧めにも係わらず、医師の診断を受ける事がなかった。
「何度も勧めたんだけどなあ」
森本は如何にも心残りな様子で言った。
「結城さん自身、自覚していたのかも知れないよ」
わたしは言った。
「うん」
森本は言葉少なに呟くだけだった。
結城さんの亡くなった後の身辺は妹さんが整理をし、遺品を持ち帰った。
おびただしい絵のうちから何点かが森本の所に残された。
年が明けた二月の初め、森本から電話があった。
結城さんが残した絵を見に来い、と言うのだった。
「実に不思議な絵なんだ。結城さんが絵の中で何か言ってるような気がする」
わたしは時間を遣り繰りして一週間後に行った。
辰っあんも来ていた。
森本の所に残された絵は二十点あった。
七点が風景や花を描いた絵だったが、あとの十三点はまるで異なる奇妙な絵だった。
「結城さんが死の間際に描いた絵だよ」
森本は絵の具の跡も生々しい絵を示して言った。
「妹さんが好きな絵を取ってくれって言うので、貰っておいたんだが」
森本が座敷に並べた十三枚の絵は、思わず見る者の心を引き摺り込まずにはおかないような、暗く重い色調の絵だった。
「何が描いてあるんだ ?」
わたしはその絵に描かれている情景がよく分からずに森本に聞いた。
「分からない」
森本も憮然とした様子で言った。
風景や花を描いた絵は、素人目にもきれいに正確に描かれていた。
辰っあんなどは、此処はあそこだ、これは此処だ、と、いちいち指摘出来るほど精密、詳細に描かれていた。
「よぐ、まあ、こうやって一本一本、そっくりそのままに描げるもんだなあ」
辰っあんは感心して言った。
「それに比べてこっちの絵は、まるで違う。絵に付いては素人でよく分からないけど、それでも、こっちの絵には結城さんが込た気迫のようなものが見た瞬間に伝わって来る」
森本は座敷に並べられた十三枚の絵を見渡して言った。
「おい、見てみろよ ! これはキジだよ。キジが撃たれて血を流しながら飛んでゆくところだよ !」
わたしは、灰色の渦巻きが描かれた一枚の絵を見て初めて気付き、指差して言った。
絵の左上には暗緑色と赤の入り混じった塊りのようなものが、鳥状に描かれていた。
森本がわたしの指差した画面を覗き込んだ。
「ああ、そうだ。で、これが銃を持った結城さんっていう事か ?」
画面の右下、人の上半身とも見えれるような黒い陰を指して森本は言った。
「うん、そうじゃないかなあ」
「あんだが、よぐ分がんねえけっど、そう言われれば、そうみでえだなあ」
辰っあんも覗き込んで言った。
「そうだよ。そうに間違いないよ」
森本は確信に満ちた声で力強く言った。
「ほら、ここに "キジを撃つ" って書いてあるよ。" 63 11 13。これは絵を書き上げた時の日付だ」
わたしは手に取った絵の裏を見てその数字を発見した。
わたしが差し出した絵を手にした森本も、
「本当だ」
と言った。
わたし達は次々と一枚一枚の絵を裏返し、数字を確かめていった。
絵には数字と一緒に題名も添えられていた。
「 "沼 " これは沼の近ぐに家がある絵だなあ。" 63 11 16」
辰っあんが言った。
わたし達はそれぞれが手にした絵の題名を読み上げていった。
「美しい女」「二人」 「小舟」「魚を獲る」「闇」「迷う」「追跡」 「灯」 「生活」 「途方にくれる」
そのあと、改めて三人で一枚一枚の絵を仔細に眺めていった。
するとそこには、自ずと一つの筋道が見えて来るように思えて来た。そして、わたし達三人が導き出した筋道は次のようなものだった。
結城さんは夕暮れの草原でキジを撃ち、そのキジを追っているうちに山の中で方角を見失い、道に迷ってしまった。
途方にくれて歩いているうちに、明かりを見付け、近付いてみると家があった。
その家には女が住んでいた。
女はどうやら、一人で住んでいるらしかった。
何故なら、絵には結城さんと女の他には描かれていないからだ。
その女の家は沼のほとりにあった。
女はそこで漁をしながら生活している。
結城さんはその家で一夜を過ごし、翌日には沼の上に小舟を浮かべて漁をした。
「大体、こんな所じゃないのかなあ」
わたし達は結論に達した。
そしてわたしは、そう結論を下しながらも、ふと、一つの事が気になって、思わず言っていた。
「だけど、この " 小舟 "っていう最後に描かれた絵は何を表わしているんだろう。沼の上に空っぽの白い小舟がポツンと浮かんでいるだけだ。他の絵とはまるで雰囲気が違うし、それに筋道からもはみ出ている」
「うん、そうだな。言われてみればそうだ。女の姿も描かれていないしな」
森本も言った。
「女が死んだっつうこっではねえのが ?」
辰っあんが言った。
「結城さんが殺したのかい ?」
わたしは賛成しかねる口調で言った。
「いや、そんな事はないよ。この" 二人 "っていう絵を見てみろよ。暗い絵肌のの中で、この二人はだけはバラ色に描かれている」
森本が即座に否定した。
「感情の行き違えっつう事もあっべえ」
辰っあんが言った。
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takeziisan様
有難う御座います
今回も楽しませて戴きました
セイタカアワダチソウ 昭和四十年
現在地に家を建てた時には周囲は丈高い
アワダチソウで一杯でした 今は何処にも
見られません 今更ながらに時の経過と
世の中の移り変わりが実感されます
サギですか 寒そう
季節の移り変わりの速さ 慌しさ
随分 難しい字の並んだ校歌ですね それにしても
何から何まで わたくしの居た学校とは格段の差が
あります 無論 良い意味での差です 進んでいます
わたくしの居た学校などは ほとんど 野放しの状態
でした それだけに生徒達ものびのびしていた記憶は
ありますが
十三夜 わたくしも見ました 見事でした
十三夜というと自然に榎本美佐江を思い出します
「十三夜」を唄っていますね 元々は戦前の唄で
リバイバル曲ですが 小笠原美都子としいう歌手が
唄っていました
山の写真 じっくり拝見させて戴きました
このような美しい自然に包まれる
至福の時ですね 豊富な体験 羨ましい限りです
わたくしなどは当時 街中をほっつき歩くのが
せいぜいでした
弥彦神社の事故 覚えています 無論
映像を見るのは初めてですが 当時 大事件として
報道されましたね
お若い頃 随分 ロマンテックだったのですね
勿論 今もお気持ちにお変わりはない事と思いますが
それにしても数多くの詩 詩集が編めるのでは
このコーナーでも是非 一つに御纏めに
なって下さい
何時もお眼お通し戴き 感謝しております
有難う御座います
桂蓮様
有難う御座います
桂蓮様のブログを拝見していて
論理的に組み立てられた御文章
安易に書いているとは思えません
御謙遜とは思いますが どうぞ自信を持って
これからも良い文章をお書き下さい
一人だけのレッスン ちよっと淋しいですね
仲間が居て ワイワイやりながらの練習なら
楽しいでしょうがーープロを目差すのでないなら
やはり 楽しさに包まれたレッスンの方がいいですよね
写真付き記事 期待しています 百八十度 ちょっと
無理 と門外漢は思います でも実際 バレリーナーは
行っていますものね
またかよおー 思わず笑いました
どうぞ うっぷん晴らし 存分にやって下さい
悪意の無い悪口 うっぷん晴らし 歓迎です
楽しいです
ブログでも何でも 必ず 中だるみ と
いう状態が訪れます でも その時期を乗り切れば
大した苦労も無く 自然のままに物事が進む時期が
来るのではないでしょうか どうぞ 焦らず
これからも良い文章を書き続けて下さい 桂蓮様の
ブログが消えてしまいますと寂しくなりますのでーー
アメリカ便りが楽しいです
言語の無意識化 分かり易く 明快な御文章
いちいち 頷けます 良い御文章です
英語 やっぱり御苦労がお有りだったのでしょうか
アメリカで生活なさる程ですから そんな御苦労は
ないものとばかり思っていました
習うより馴れろ という事でしょうか
何時も 有難う御座います これからも どうぞ
辛口の御批評 宜しくお願い致します