時は還らず(2019,6.20日作)
人が生きる上に於いて
現実ほど 惨酷 非情なものはない
どんな喜び 幸せに満ちた時間でも
やがては過ぎ去り
どんなに後悔 苦悩に彩られた出来事でも
時を巻き戻し
やり直す事は出来ない
時は還らず ただ 刻々 無常に
過ぎ逝くのみ
人生の時(2019.1.13日作)
人の一生
人生に於ける 時 ほど
惨酷 過酷 なものはない
それが
どんなに 幸福な時間であろうとも
それが
どんなに苦渋 苦悩に 彩られた
悲惨 後悔に満ちた時間であろうとも
再び 巻き戻し やり直す事は出来ない
時は ただ 刻々 無慈悲 無常に
過ぎて逝く 人は
流れ逝く時の中に浮かぶ
それだけの存在
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引き金(1)
「奥様からお電話で、お帰りが十一時過ぎになるという事でした」
お手伝いの光枝が三杉の部屋のドアをノックして開け、言った。
三杉は愛用のブローニングの猟銃をケースに収めたところだった。
「そう」
三杉は返事をした。
光枝は十八歳だった。
「ほかに何か御用はありませんか」
光枝は開けたドアを手で押さえたままで言った。
「うん、もう無い。有難う。寝(やす)んでくれていいよ」
明日、三杉は午前四時に起きて房総の館山へ狩猟に行く予定だった。
光枝はつい一時間程前まで、三杉のその支度を手伝ってくれていた。
「奈緒子はもう寝たかね」
八歳になる一人娘が気になって三杉は聞いた。
「はい。お寝みになりました」
光枝がドアを閉めて行くと三杉の表情に苦悩の影が走った。
妻の多美代の帰りが遅くなる理由が三杉には分っていた。
週二回出席している、カルチャーセンターの男性講師と会っているのだ。
二人の関係が実際に何処まで進展しているのかは、三杉には分からなかった。
三杉は多美代を問い詰める事はしなかった。
今年三十九歳の多美代が三十代半ばと思われる男性講師と一緒に居る現場を、三杉は二度までも眼にしていた。
三杉はそれでも多美代を詰(なじ)る事はしなかった。
二年近くも前のある夜の事、三杉は布団の中で多美代が泣いているのを知っていた。
その時、三杉は多美代に背中を向けたままでいて、気付かない振りをしていた。
多美代のすすり泣く声が錐(きり)で揉みこむような痛みを伴って三杉の心に突き刺さって来た。
三杉は好んで多美代を遠ざけていた訳ではなかった。ある恐怖感が、三杉の意識の中には植え付けられてしまっていた。
それを拭い去る事が出来なくなっていた。
三年半程前の事だった。銀座にあるクラブのホステスとホテルへ入り、三杉は心蔵発作を起こしていた。幸い、一命だけは取り留めたが、以来、心臓薬は片時も手離す事が出来なくなっていた。
当時、三杉は都内の十五か所に紳士婦人服専門店を持っていた。その社長業に復帰するまでには、半年程の病院生活と治療を余儀なくされた。
だが、病気は完治した訳ではなかった。医師は「気長に時間を掛けて治療に励むより仕方がありませんね。糖尿の上に心筋梗塞が重なって、ちょっと、厄介な状況です」と言った。
食事に気を配り、睡眠時間は充分取ってくれぐれも無理をして、体に負担を掛ける事のないように、とも念を押された。
「もう、今までのような生活に戻る事は出来ませんかね」
三杉が聞くと医師は
「まあ、ちよっと、これまでのような生活をお勧めする事は出来ませんね」
三杉のスケジュール表に視線を落としたままで苦笑いをしながら言った。
三杉は十二年前にそれまで勤めていたデパートを辞めて、上野に紳士服の一号店を開業した。
幸い事業は当たって、それからは一年に一店舗というような割合で都内繁華街に出店をしていった。四、五年前からは、それまでの格安販売に加えて、ブランド商品の販売にも力を入れるようになっていた。
だが、事はそう簡単に運んだ訳ではなかった。それまでにするには、それなりの苦労も重なった。ただ、まだ若かった三杉には、寝ずの徹夜作業が一日二日続いても、それを苦にしないだけの活力があった。その活力に任せて立ち上げた事業を成功させる事への面白さに取り付かれ、突っ走って来たというのが実情だった。
三杉は退院をした後も、医師の勧めてくれた栄養士の指示に従って食事をし、体に負担の掛かる仕事はなるべく避け、言わば、治療一筋と言うような生活を送って来た。
しかし、半年が過ぎても心臓疾患の回復には思わしい成果は得られなかった。ちょっとした事で息切れがして、激しい動悸が胸を打った。その度に三杉は舌下錠を口に含みながら、強烈な絶望感へと突き落とされた。
もう、昔の自分に戻る事は出来ない
銀座六丁目にあるビル五階の本社の窓から華やかな通りを見下ろしながら、呟かずにはいられなかった。
ただ、虚しさだけが込み上げて来た。
事業への意欲も失われていった。
自分を廃人のように三杉は思った。と同時に、せっかく今日まで築き上げて来た店舗への思いを意識すると愛着も沸いた。このままでは,駄目になってしまう。
判断は冷静に働いた。三杉は社長の座を退く事を決意した。
幸い後任には創業当時から片腕とも言える存在で、何くれとなく力になってくれた、三杉よりは十歳も年上の桂木次男が居て、彼に任せる事が出来た。
会社の事情に詳しい桂木はほとんど三杉と変わらぬ経営手法で事無く事業を継承してくれていた。
今日現在まで、会社経営に於ける三杉の悩みは皆無とも言えた。その点で会長としての三杉が心を煩わす事はなかった。
三杉の生活は規則正しい日々が続いた。多美代との間も剣呑な空気の漲る事はなかった。
多美代は三杉の病の発端とも言えるクラブのホステスとの不貞にも眼をつぶったかのように、入院中にも一言の皮肉を口にする事もなく、甲斐甲斐しく看病を続けてくれた。
退院後にも何くれとなく三杉の身辺に気を配ってくれていて、三杉してみれば多美代に対しては感謝の気持ち以外の何ものもなかった。
三杉はある時、体調の軽快さと共にふと、その気になって多美代を求めた事があった。
しかし、結果は惨めなものに終わっていた。
「大丈夫よ、慌てなくていいから」
多美代は三杉の気持ちを思って優しい慰めの言葉さえ掛けてくれた。
だが、それ以降、三杉には恐怖だけが先に立った。再び、惨めな失敗に終わる事への恐怖、はかばかしい回復を見せない心臓疾患に対する恐怖、三杉の胸の中には、一人、心を閉ざしてゆく、いじましい自分の姿だけが浮かび上がって来て自分を苦しめた。多美代に対しても何処となく素直な気持ちになれない自分を感じていて、不愛想になっていた。
多美代が外へ出るようになったのは、そんな頃からの事だった。自分への卑屈な思いを抱いた三杉は、そんな多美代に気付いても、何も口にする事が出来なかった。
そして、多美代が泣いていたのはもそんな頃の事だった。
二
三杉の生活は朝、六時の起床から始まった。
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桂蓮様
お忙しい日常の中 いつも有難う御座います
新作 お休みとの事 今回 想い出を捨てる作業
拝見致しました
以前にも拝見した記憶がありますが 英文との
合わせ読み 飽きません 想い出 これは多分
人間独特の感情なんでしょうね 動物も記憶は持っている
のでしょうが、想い出の感情となると 多分 無いと思うんですが
でも 以前 テレビで見た事なのですが 象などは仲間が死ぬと
それを悼むかのようにしきりに鼻でいじくりり回したりしていますね
あの時 象の頭の中 心の中ではどんな思いが湧き上がっているのだろう
と思いながら見ていた事があります
嫌な想い出 楽しい想い出 悲しい 嬉しい 様々で
想い出なんか忘れてしまいたいと思う事もありますが やはり
無ければ人が生きるという事も無味乾燥のものになってしまうかも
知れません
タープを一気にひっくり返して想い出も一緒に捨てる
時には必要な作業ですね いろいろ考えさせられる
良い御文章でした
バレー 打ち込めるものがあって いいです
短い言葉の中に何かしら弾んだような響きが感じ取れて
読みながらも楽し気なお姿が想像出来ます
いつか そのお姿を拝見させて下さい
前回 完結の物語 多分 お読み戴く方は いったい
こいつ なに書いてんだよ とお思いになると思います
何しろストーリーが支離滅裂ですから 言わば
絵画に於いての抽象絵画です ですから お読み戴く方の
思いのままに理解して戴ければと思っています
広いお庭の御様子 羨ましい限りです
有難う御座いました
takeziisan様
雉の季節 ケーン ケーン
こんな声が身近に聞こえる環境の良さ 羨ましい限りです
わたくしの家の近く二百メートル足らず行くと
江戸川があり 大きな堤と広大な広場が開けています
休日などにはそこで野球をやったり いろいろ運動などする
姿も見られますが このような自然の豊かさを感じとる事は
出来ません あくまでも都会の河の河川敷といった趣です
ただし 八月には盛大な花火大会が開かれます
江戸川花火大会ですが わが家の屋上に降り掛かってくるような感じで
幾つもの雄大な花火の輪が展開します でもそれも
コロナで中止されています
それにしても御当地の自然の豊かさ 花々の豊富な事 羨望です
ふたりしずか 納得 こういう花もあったのですね
初めてです
豊かな花の数々の御写真 ああ 良い季節になったと
様々な花の色の豊かさ 美しさに見惚れながら季節を
実感しています
小さな花々もこうして仔細に見れば限りない美しさを秘めている事が理解出来ます
毎週 季節の移ろいと共に楽しく 拝見させて戴いております
ニール セダカ 当時は子供っぽいと軽い気持ちで
見たり 聞いたりしていましたが 改めて今聞くと
懐かしさが先に立ちます それにしても お互い
隋分 遠い所へ来てしまいましたね
これからもどうぞ お気を付けて良い記事をお乗せ下さいませ
いつも眼を通し戴き 有難う御座います