遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(423)小説 華やかな噓(4) 歌謡詞 夜汽車の別れ

2022-11-20 11:51:43 | つぶやき
          夜汽車の別れ(2022.11.15日作)                               


 最終列車のベルが鳴る 
 暗い夜空が冷たく冴える
 唇かんで哀しみに 
 涙ぐんでる愛しいあなた
 あなたと生きた二年の月日
 幸せ満ちた日毎に夜毎
 だけどそれさえもう終わる
 あなた残して汽車が出る

 いつかは終わる愛と知り
 燃えたはげしい心とからだ
 重ねた頬の思い出も
 今は虚しく涙ににじむ
 あなた残して出てゆく汽車の
 窓から見ればあなたは遠い
 はるか彼方の明かりのように
 夜のホームに消えてゆく
  




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           華やかな噓(4)




 またしても一つの結婚式が済んだらしく、礼装した人々がエレベーターから吐き出されて来るのが見えた。
 ロビーのガラス越しに見える戸外にはすでに黄昏が気配を見せていた。                                       
 ヘッドライトを点した車が通り過ぎた。                                     
 川野は何本目かの煙草に火を付けた。 
「今日は日柄がいいのかなあ。結婚式が多いみたいだ」 
 ロビーの賑わいに眼を戻すと川野は言った。
「大安なんです」
 明子も川野の言葉に促されたように、ロビーの賑わいに眼を向けて言った。
「ああ。それで」
 川野は納得顔で言った。                                 
「わたくしも今日、結婚式に招かれて来たんです」
「そうだったんですか」
 明子の華やかに見える装いもその為だったのだと、納得がいった。
「主人の遠い親戚の方のお嬢さんで、わたくしは知らない方なんですけど、主人がどうしても都合が付かなくなってしまって、代わりにわたくしが来たような訳なんです」
 川野は煙草を吹かしながら明子の言葉に笑顔で頷いた。
「わたくし、今は浦和に引っ込んだまま、滅多にこちらへは来ないものですから、今日は結婚式が早く終わったので久し振りに銀座へ出てみようかなあ、と思って、少し歩いて来たところなんです」
 最初は堅さばかりが目立った明子のうちに、次第に昔のような柔らかさが戻って来ているのを川野は見ていた。
「どうでした、銀座は ?」
 それで川野も、その明子に対して昔の二人のような親しみを込めて聞いた。
「しばらく来ない間に、随分変わってしまってびっくりしました」
 明子は心底、驚いているように言ってから、思い掛けない偶然を面白がるかのように、
「川野さんにお会いするなんて思ってもみませんでした」
 と言った。
「僕も初めは人違いかと思った」
 思い掛けない場所での偶然の出会いに川野自身、戸惑っていた事を思い浮かべて言った。
「このホテルは、よく御利用なさるんですか」
 明子は聞いた。
「ええ、まあ、時々」
「何処かへお出かけになるのではなかったんですか」
 明子は単純に川野の言葉を受け入れているようだった。
「いえいえ、違います。新しく売り出す歌手の事で、ちょっと打ち合わせに来たものだから」
 川野はなお、有能なプロデューサーを装いながら言った。
 明子は川野の言葉に疑いを抱く事はなかった。一瞬の曇りにも似た影が明子の表情に走るのを川野は目敏く見ていた。
 思い掛けない明子の表情に川野は優越感にも似た感情を抱いて、
「御主人は何をしてるんですか」
 と余裕の気持ちで聞いていた。
 再び、明子の顔に戸惑うような束の間の表情の浮かぶのを川野は見たが、そのすぐ後に明子の口にした言葉が今度は川野の自信を打ち砕いていた。
「建築家です」
 そう言った明子の口調に澱みはなかった。
 その言葉に続けて明子は、
「いろいろな所のビルなどを設計していて、年中、忙しく飛び廻っているんです。それで今日も、急な打ち合わせの仕事が入ってしまって、来られなくなってしまったんです」
 と言った。
 今度は川野が心を搔き乱された。
 先程の優越感も一瞬の間に消えていた。
 明子が身に着けている高価なものと判断出来る服装や装飾品が、明子の言葉を疑わせなかった。それと共に川野は、口とは裏腹の現在の恵まれない自分の境遇と比較して明子に対する妬みにも近い感情を抱いた。        
「建築家の御主人なんて素晴らしいじゃないですか」
 と言った時の口調には、上ずりと共にぎこちなさがあった。
「そうでもないわ。年中、出歩く事ばかりが多くて、半分は未亡人みたいなものです」
 明子は笑顔の中に精一杯の満ち足りた思いを込めて、愚痴めいた口調で言った。 
 川野はそんな明子の口調の中にも、明子の幸福な家庭の姿を垣間見る思いがして気持ちが沈んだ。
 今の明子には、自分の存在など、在っても無きが如しのものに違いない。
 川野は辛うじて心の平静を保つと、精一杯の自信に満ちた態度を装い、
「でも、あなたが幸せな結婚をしてくれていて良かった。僕はあなたに昔の事をなんてお詫びしていいのか分からない。僕が若くて愚かだったという事です」
 と力のない声で言った。
 明子はその言葉を聞いても感情を乱す事はなかった。
「昔の事なんか、もういいんです。それはあの当時、あなたを恨みました。子供なんか自分には関係のない事だって、全く取り合ってくれなかったんですから。あの時、あなたの言った言葉を覚えていて ? たとえ、それが俺の子供であったにしても、俺は子供なんかに係わっていたくはないんだ。俺には俺の人生がある。どうしても子供を産みたいって言うんなら、勝手に産めばいいだろう。俺は子供なんかに係わっていて、自分の人生を台無しにしてしまいたくないんだ。そう、あなたは言ったのよ」
 明子は静かな微笑と共に言葉一つ乱す事もなく言った。
 その明子の落ち着き払った態度と静かな口調は、川野に取っては、乱暴な罵りの言葉を浴びせ掛けられるよりもなお一層の痛みを伴って胸に突き刺さって来るものだった。
 最早明子は、過去の傷痕を何時までも引き摺っているような境遇とは無縁の彼方へ飛び去っているーー。
 今、川野の前にいるのは、昔の愛に心を乱す明子ではなかった。昔の愛の苦しみを、落ち着いた静かな微笑で包み込む事の出来る程に恵まれた環境に生きている。
 川野は、次第に募って来る自分の感情の中の悲哀を意識せずにはいられなかった。



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         takeziisan様


          有難う御座います
         秋の気配濃厚 秋一色という趣
         この 秋のなんとはない寂しさ 好きな風景です
         美しい写真の数々 拝見しました
         公園の手品師 フランク永井ですね 
         ついこの間 何回か前ですが BSにっぽん こころの歌
         でもやっていました
         ぎっしり敷きつめられた銀杏落ち葉 いい風情です
          小さな靴屋さん 忘れていました 思い出しました
         懐かしいですね
          キウイ大豊作 まあなんと大量・・・どうします ?
         以前 田舎にあった柚子を兄妹揃って採りにゆき それこそ
         蜜柑箱何個もの大量の柚子を採って来て 近所に御配りしたことを思い出しました
         それも今では懐かしい思い出 柚子の木は切り取られ 現在跡地には
         太陽光パネルが張られています
         それにしても 葉物野菜のオンパレード 町中に住む人間から見れば
         羨ましい限りの景色です
         食する楽しみ 作る楽しみ 自然に触れる楽しみ
         町中に居る人間には味わえない楽しみ 贅沢です
         どうぞ大切にして下さい
          今回もいろいろ楽しませて戴きました
         と同時に恵まれた環境に少しばかりの羨望も覚えます
          何時も拙文にお眼をお通し戴き 御礼申し上げます
          有難う御座いました