遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(510) 小説 希望(34) 他 忘れてならぬもの

2024-08-11 12:39:18 | 小説
             忘れてならぬもの(2024.8.2日作)



 
 わたしは見た
 山の麓の 小さな里に生きる二人 
 畑を耕し 田圃を耕し 自然の恵みの中
 長い歳月(としつき)生きて来て 今二人
 子等も旅立ち 出会いの頃の
 二人だけの静かな日常 静かな日々
 今も変わらず畑を耕し 田圃を耕し
 自然の恵みの中に生きている 
 名も無く 誰に知られる事も無い
 それでも誠実 真摯に日々 日常
 生きて来て 静かに暮れる今日一日
 その終わり 遠く彼方の山の端  
 夕陽の沈む彼方に向かい 二人揃って
 両手を合わせ 頭(こうべ)を垂れる
 眼には見えない 名には知れない何かに向って
 感謝の心 明日の無事を願う心で 祈りを捧げ
 暮れく陽の中 家路を急ぐ
 人の暮らし 人の日常 静かな日々
 これに勝る幸せ無く これに優る人の
 生きる姿は無い 生きるという事
 人が生きるという事
 静かな日常 静かな日々 その中で 人は
 人の命を繋いで 人の心を伝えて生きて来た
 生きるという事 何も無い静かな日常 
 静かな日々 その尊さ 美しさ 
 忘れてならぬもの




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              希望(34)



 

 老婆を片腕に抱えたまま、その体にローブを巻き付け始めた。
 老婆はそんな北川の腕から逃れ様として白髪(しらが)を乱し、必死な様子で抵抗した。
 それでも屈強な若者の力に老婆の力が及ぶはずも無かった。怯えながら身体を振るわせて泣く老婆の身体にはたちまち白いロープが巻き付けられた。
 修二は目隠しをされた老人のローブを握ったまま、逃げられない様に用心してそんな様子の一部始終を見ていたが、その時だった。ふと、寝間着姿の胸元を乱して白髪頭を振って泣きながら必死にもがく老婆の姿に、突然、折り重なる様にして浮かんで来る一つの姿を見ていた。
 修二はハッとした思いで息を呑んでいた。
 今、眼の前に居るのは一介の見知らぬ老婆の姿では無かった。死んだ婆ちゃんの姿がそこにあった。
 修二の父親で、婆ちゃんに取っては息子、その息子の介護をしながら日々の貧しい暮らしの中で必死に生きて、最後には自身がボロ屑の様になって死んでいった婆ちゃんの姿だった。
 今、眼の前で泣きながら必死に抵抗する老婆の苦痛に歪んだ顔と姿は、紛れもなく死んだ婆ちゃんの姿そのものだった。見知らぬ老婆の姿ではなかった。
 修二は我知らず叫んでいた。
「やめろッ ! オイ、止めろよッ !」
  身体の底から沸き上がる激しい怒りと共に、握っていた老人のロープも離してい た。
 北川はそんな修二の突然の怒号に呆気に取られた様子で修二を見た。
 修二の眼と北川の眼が合った。
 それでも北川は事態が呑み込めない様だった。
 修二はなおも怒りに燃える厳しい眼で北川を見詰めたまま、
「そのお婆さんを離してやれよッ !」
 と叫んでいた。
「なんでだよお、バカ野郎 !」
 北川は事態が呑み込めないままの様子で怒りに満ちた声で言った。
「なんでもいいから、離してやれッ !」
 なお、厳しい命令口調で修二は言った。
 その手には刃を開いたままのナイフが握られていた。
 北川はそれで初めて事態を理解したらしかった。
「テメエ、裏切るのかよお」
 思わず、と言った様に叫ぶとそのまま、憎悪と怒りに満ちた眼で睨み付け、老婆を押さえた手を離して修二に向き直った。
 修二は、そんな北川に恐怖を覚えて思わず一足退くと、一層強くナイフを握り締めた。
 北川の手から放された老婆はその間に廊下の奥の方へと走り去った。
 目隠しをされたままの老人は修二の手から逃れて、手探り状態でショーケースの方へ身を寄せた。
 思い掛けない緊張感が修二と北川の間に漂った。
 鳥越はその間、呆気に取られ、二人の遣り取りを見ていたが、思い掛けなく生まれた緊張感に気付くと慌てた様に二人の間に入ってナイフを握った修二の手を押さえた。
「バカ ! 止めろ」
 鳥越は怒鳴った。
 修二は鳥越から逃れる様に一足退き、その手を振り払おうとした時、隙を見た北川が咄嗟に襲い掛かって来た。
 鳥越に腕を押さえられままの修二は、襲い掛かって来る北川から逃れようとして藻掻いたが、その瞬間、握った手の中からナイフがこぼれ落ちていた。
 北川は目敏くそれを眼にした。
 鳥越に押さえられたままの修二が拾おうとする暇もなく、落ちたナイフを手にしていた。
 鳥越はそれに気付いて修二の腕を離した。
 修二の動きが自由になった時にはナイフは既に、北川の手に握られていた。
 修二はそれでも委細かまわず北川に向って組み付いて行った。
 北川はそんな修二から身を守る様にして刃の開かれたナイフをかざした。
 ーーその後の状況は修二にもよく理解出来なかった。
 北川の手に握られた、刃が開かれたままのナイフは修二の肉体を切り裂いていた。
 アッと思う間もなかった。気が付いた時には鎖骨の下、左肩甲骨辺りに肉をえぐられる様な激しい痛みを感じてそのまま蹲っていた。
 ジャンパーの上から痛む箇所を抑えた時には、指の間から流れ落ちる血の気配を感じ取っていた。
 焼かれる様な激しい痛みの為、それでも身体を動かす事は出来かった。薄れてゆく様な意識の中で蹲ったままでいた。
「おいッ、拙いよ。警察が来ると拙いよ !」 
 廊下の奥へ逃げて行った老婆を見ていた鳥越が、緊迫感に満ちた声で言うのが分かった。
 後は痛みで気を失っていた。



             九



 桂木病院、二階十四号室は四人の相部屋だった。





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               takeziisan様

            
                この猛暑の中 散歩 充分 お気を付け下さい
               気違いじみた暑さ 熱災害です これまでの感覚では通用しません
               それこそ 昔は夏が楽しみの一つだったものが今は苦痛の種です
               もうすぐ人生百年 変われば変わったものです                   
                この暑さの中の ハワイアン 何時聴いてもいいですね
               良き時代の夏を思い出します ムード音楽全盛の頃
               まだ自分も若かった
               それにしても 何時も言うようですが 現代の音楽の詰まらなさ
               ただ喚き散らすだけ ムードも詩情もありません
               五月蠅いだけです ギターを抱えて頭を振って喚き散らす           
               見ていてむしろ滑稽です
               それにしても冒頭の写真 面白いですね
               奇妙な風景 なんだこりゃ という思い
               計らぬ自然の造形は時には傑作を生み出します
                夏の夜の昆虫 豊かだった自然の中に居た昔を思い出します
               様々な虫の合唱 地方へ行けば今でも聞かれるのでしょうが
               都会の屋根ばかりを見て過ごす環境ではとてもとても無理な事です
               ブログを拝見しながら二度と帰らぬ過去への郷愁に浸っています
                楽しいブログ 何時も有難う御座います
               それにしても猛暑の中の散歩 取材 充分 お気御付け下さい