忘れてならないもの(2024.12.16日作)
命の終わり 死は
常に身近 傍にある
其処にも 此処にも
一寸 一歩先は 誰にも分からない
今 この時は 永遠ではない
常に変わりゆく 今 この時
人に出来る事は只今現在
今を生きる 生きる事
それでも人の命は日々 時々刻々
失われて 逝く
失われ逝く 人の命
朝に生まれて 夕には沈む太陽
沈む太陽 夕陽が今日も
遠く彼方 山の端 海の向こう
ビルの谷間に消えて行く
沈む太陽 夕陽を見詰める
日々の幸せ
人が人としての命を全うする
この尊さ 貴重さ
忘れてならないもの
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<青い館>の女(20)
片側二車線を持つ大通りに行き交う車の影は無かった。
漁港に関連した仕事を持つ家が多いのだろうか、通りに面してそれらしい看板を掲げた二階建て、三階建ての家々も悉く鎧戸を降ろして静まり返っていた。
公園は漁港に隣接して海に臨んだ場所にあった。
加奈子が立っている辺りには大きな樹木が歩道の上にまで枝を延ばしていて、黒々とした影を作っていた。
公園を囲んで作られた石垣の上には歩道に沿って整然とした連なりの柵が見られた。
石畳みの歩道に早くも散り敷いた落ち葉が見えるのは此処が北国の故にか ?
タクシーは加奈子の立っている前を通過して、なお進んだ。
加奈子の姿を確認していながらわたしは、その前で車を停めさせる事を躊躇した。
運転手に悟られるのを怖れた為だった。
この狭い街では何処から噂が広がるか分からない。
加奈子は暗闇に立ったまま不審気な様子で自分の前を走り去るタクシーを見詰めていたが、中の乗客がわたしだと認識していたのだろうか。
加奈子の姿が小さくなった辺りで車を止めさせた。
二枚の千円札を渡して釣りは受け取らなかった。
タクシーはそのまま走り去った。
その影が小さくなると加奈子の居る方へ戻って歩き始めた。
暗闇の中で不審気に走り去るタクシーを見詰めていた加奈子もそれでわたしだと気付いて歩み寄って来た。
「タクシーがそのまま行っちゃったんでぇ、分からなかったのかってぇ心配したんですよぉ」
加奈子は何故かホッとした様な笑顔と共に親し気に言った。
「運転手に知られると拙いと思ったんだ」
わたしは言った。
「ホテルの前から乗ったんですかぁ」
「そう」
加奈子はわたしの返事を聞くとそのまま先に立って歩き始めた。
「これから何処へ行くの ?」
加奈子の背中に聞いた。
「歩いてもぉ七、八分の所ですからぁ、すぐ近くですよぉ」
加奈子はなんの翳りも見せない声で言った。
「ホテル ?」
「はい」
公園を囲む作が切れて漁港の入り口に出た。
幾つか並ぶ建物の間から暗い海が鈍い光りのうねりを見せているのが見えた。
桟橋に繋がれた小型漁船の一群が微かな波に小さく揺れて黒い影を作っていた。
加奈子はその漁港を背にして四車線の通りを青信号で渡った。
「寒くないですかぁ」
海から吹いて来る風が路上の枯れ葉を転がして過ぎて行った。
「うん、東京から比べたらずっと寒い。コートが欲しいぐらいだ」
思わずそう言ったが、その寒さが改めてわたしの体調不良を意識さた。
寒さの訪れ時期は何時も胸の圧迫感に怯えるのだ。
呼吸と共に吸い込む寒気が直接心臓に触れて、その筋肉を収縮させるかの様に息の詰まる感覚に捉われる。
その不安を隠してわたしは、加奈子が腕を絡ませて来るのに任せたまま歩いて行く。
通りはやがてゆっくりと右に曲がって夜の中にポツンと明かりを点した<ホテル みなと>の白い看板が見えて来た。
「あそこ ?」
わたしは聞いた。
「はい」
加奈子は言った。
ラブホテルと言うよりは連れ込み宿と言った趣の建物だった。
誰とも顔を合わせずに部屋へ入れた事に安堵した。
畳の部屋には低いベッドが置かれていた。
傍の障子を開けると大きな鏡があった。
突然映し出された自分の姿に狼狽した。
慌てて視線を反らした先には浮世絵風に男女の絡みを描いた絵が掛けてあった。
テレビがあった。
点ければAVビデオの映像が流れるだろう事は想像出来た。
浴室とトイレが次の間に在るのは部屋へ入るのと同時に眼に入った。
「こういう所へはよく来るの ?」
自分の部屋へ帰ったかの様に落ち着き払っている加奈子を見て聞いた。
「あんまりは来ないけどぉ、時々はお客さんと来る事がありますよぉ」
加奈子は悪びれる様子もなく言った。
極めて自然なその態度が彼女達にはこんな行為も当たり前なのだろうか、と思わせた。
その夜、わたしと加奈子は朝までの時間を過ごした。
加奈子は店に居る時そのままに、疲れては眠り、また目覚めては愛撫を交わして揺蕩(たゆた)う様に眠りに入っていった。
自分が不可能でいながらもなお執拗なわたしに加奈子は嫌な顔一つ見せなかった。
わたし自身は少しずつ高まる昂揚感の中でも依然として、実際の行為は不可能だった。
昂揚感と共に増して来る、胸元の締め付けられる様な感覚が過去にわたしを襲った発作の記憶を蘇らせて、わたしの意志の総てを奪って行く。
意識を失い、自分が自分でいられなくなる事の恐怖。
わたしの脳裡には病院の医師や看護師の白い衣服に囲まれて目醒めた時の記憶が今でも鮮明に焼き付いている。
何故、俺はこんな所に居るんだ ?
記憶が途切れていた。
人工呼吸の器具を付けられ、ベッドに横たわっている自分が自分である事の感覚が掴めなかった。
ついさっきまで社長室で電話の受話器を握っていた自分の姿しか思い浮かんで来なかった。
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桂蓮様
コメント 有難う御座います
このところ記事も余り拝見出来ませんでしたので
やはり体調不良か と思っていました
お元気な御様子 何よりです
相変わらず仲睦まじいパートナーの方との日々
拝見する方も心暖かくなります
御文章 久し振りに拝見しました
英語は不案内なのでよく分かりませんが 日本の学校で習う英語は
全く役にたたないと言われます やはり現地で実際に体験する
その貴重さが和文の中に良く表れています
面白く拝見しました
御自身もそうして少しずつアメリカ人としての色彩を纏ってゆくのでしょうね
どうぞ これからもお幸せな日々をお二人で紡いでいって下さい
お忙しい中 コメント 有難う御座いました
takeziisan様
今年は何か弱気な姿勢がほの見える気がして
ちょっと寂しい気がします
どうぞ 弱気にならずに頑張って下さい
人間 気力を失くしたら終わりだと思います
疾患などを抱える身とか いろいろ拝見してやはり
不安は拭えないだろうなとは御推察出来ます
お互い 老齢の身 日々の生活にお気を付け
これからも楽しいブログ続けて下さい
-四℃ この辺りではちよっと想像出来ません
それだけこの地方は気候的に恵まれ 温暖なのかなあ などと思っています
白菜の黄色くなった写真 農家の方々の苦労が偲ばれます
やれやれ 実感出来ます
それにしてもこの頃の野菜の高い事 家計的には大痛手です
お写真を拝見して改めて羨ましく なんと贅沢なと思います
ウルフムーン 「碧空」 楽しませて戴きました
若い時代の一時期流行ったタンゴ 懐かしく聴きました
コピー つまらない文章ですが何かお役にた立てる事があるとすれば
嬉しい限りです
何時もわたくしの実感を素直に記しています
これからも楽しく拝見させて戴きます
忙しい日常を過ごす中での束の間の安らぎです
有難う御座いました