船を漕ぎ始めそうになった。
はっとして時計に目を移した。
さて、そろそろ寝支度を始めるか、と、奥の部屋に行った。
物置代わりになった二つの部屋の一つ。主のいないベッドに乗り、出窓のカーテンを閉めカギをかけた。
その降り際、隅っこが定位置になったオブジェに目がいった。それは、ずっとスルーしていたギターだった。
ふと懐かしく想い、その一つ、アコースティックギターの弦に親指を、一弦から六弦へとすべらせた。
♫ぼろ〜ん♪
透き通った音を奏でる、はずだった。
音は出た、確かに。
しかし、どこか錆びついた、くすんだ音だった。
そりゃそうだ。何年も使わず放置されていたギター。明瞭で澄んだ音を期待する方がおかしいか、と自虐的に心の中で苦笑した。