ごくごく平凡な一般男性がテレビの画面に現れスキップしながら舗道を走っている。すると時々コケティッシュな動きのスキップに変わる。それを遠くのカメラが追っている。
そして、そこにスーパーで上田一という名前が出る。音楽は聴いたことのない素朴な感じの曲。誰が歌っているか知らない。最後に住友生命の名前が出て終わる。30秒バージョンか?
初めは、あまりにもCMっぽくなかったからか印象に残らなかった。だけど、時々見るようになって、どこか味があって面白いなと思うようになった。今度は、このCMが流れると注視するようになった。上田一の名前も覚えた。
特別イケメンでもないこの若者。CMのオーディションで監督に気に入れられたのだ。
改まって、「ふーん上田一」。この青年。純朴でいいかも。好感度、グーーだね!!!!!
ただ、あまりに、普通っぽい。でもそれがいいから使われるのか?
素人がこういうCMで認められスターダムにのし上がることだってある。
先刻妻に、「この青年、中々いいと思わない」と尋ねた。
「ああ、何だっけな。何とかという人でしょう?」
ちょっと得意げに「上田はじめっていうんだよ。覚えちゃった」ヘヘ、と鼻を膨らませた。
「だからー、たしか、えーっと」
「だーかーら、言ったでしょ、上田一。素人だけどなかなかいい味出してると思わない?」
「はー? バカじゃん。これ役者だよ」
「え! トーシローだよこの人。上田一という人」
お返しなのか、今度は鼻で笑われた。
「えおっと、なんだっけな名前」
驚いた。マジで言ってるのか。
「ウソー。じゃこの人、上田一という役者なの?」
「名前忘れちゃった。だけど、ほんとにそう思ってたの?」
「もち……の、ろん!」
しまいには、半ば憐れみ半ば蔑んだ視線が返ってきて、ふーっという深いため息が聞こえた。
ずっと素人だと信じてたんだけど。でも、見たことない。一体、何て役者なんだ。上田一は……? 上田吉二郎じゃないし。