押し買いという言葉を知ったのも、つい最近のこと。それがうちにやってきていたとはお釈迦様でも知るまい!!
二か月ほど前だった。その日仕事が終わって帰ると、相方が今日○○というところから電話があって……、と言ってきた。何、それ?と訊き返した。不要な服とかCDとか何でも買い取ってくれるという。そんなうまい話があるのか!「そういうのは怪しいに決まってるでしょ、止めといた方がいい!」すると、「僕の着ない洋服来週の水曜日までに整理しておいて」「それはそうと、そんなに困ってるのか?」「そうじゃなくて、いらないものが処分出来て、さらにお金をくれるというんだから一石二鳥じゃない」
ま、いくら言っても僕の忠告など素直に利き入れる人じゃない。勝手にシンドバットしかないか。とりあえず一言だけ言った。
「知人だったら別だけど、どんな人がやって来るのか判らない。女が一人の家に知らない人を入れるのは、この都会じゃありえない」ああ言えばこう言う人。すると、「大丈夫、玄関のところまでしか入れない。家の中には入れないし。それに電話かけてきた人、おばちゃんだったから大丈夫よ」
だーめだ、こりゃ。痛い目に遭わなければ解からないのか?!^ ^;;
「世の中、何が起こるかわからない。居直り強盗だってありえる。せめて水曜日でなくて、日曜日にしたら? 僕もいるから」そう言ったら、黙ってしまった。どうせ折れないのだろうから、その日はそれ以上触れなかった。
翌日、家に帰ると日曜日にしたと言ってきた。珍しい!!!
そして日曜日がやってきた。時間より前にやってきた。玄関ロビーのインターフォンに現れたのは男性だった。やっぱり! おばさんが来るわけないよ!
一度腕を通しただけの皮ジャン、もう聴くことのなくなったCD多数、スラックス数本、妻も何点かの服。それらを出した。すると、それには目もくれず、「奥さん、眠っていて使わないようなネックレスとか、ピアスなどないですか?それと旦那さん、タイピンとかカフスはないですか」と訊いてきた。すると、見栄張って何点かを持ってきた。僕も、大昔の全く使ってないタイピンやカフスを出した。……? 相手の術中にはまっているのか?
小さな顕微鏡のようなものを男は取り出し片方の目に当てた。
結局、金のピアスとネックレスで8,000-。お金貰った奥さんは喜んでいる。僕が出したのは、すいませんちょっとこちらは買い取れません。タイピンやカフスを置いてった。
洋服類もCDもそのまま残った。うむ。どこか釈然としない。