結局半日の留守をすることになった。
帰りの電車の中、猫の名前を考えようと思った。タマ? ……ありきたりだな。トラ猫だからタイガー。浮かんだとたん心の中で笑っていた。とりあえずネコちゃんで……。
駅を降りてアパートに着いたのは朝五時を回っていた。それでも昨日より一時間以上も早い。子猫ちゃんが帰りを待ってる。そう思うと胸が熱くなった。
ドアノブを回し開ける。ツーンという名状しがたい臭いが部屋に立ち込めていた。恐る恐る部屋に入っていく。……ネコちゃん…………は? い・な・い。……いない。顔をしかめ目を凝らす。隠れるところはそれほど多くない。
ん? 本棚の陰からまん丸の目がこちらを見つめていた。ドキン。可愛いい。
にゃーん、と鳴きながら近寄ってきた。足にすりすりしてきた。うわあ、たまらない。
「ごめんね。寂しかった? ごめんね」ぎゅっと抱きしめた。
それにしても臭いが気になる。ベッドに視線がいった。
え? 一瞬無言。……まさか、ウンチ? 汚物……。これか~、臭いの原因は。
猫が悪いわけじゃない。猫の生理現象など考えてもみなかった。習性も知らない無知な僕が悪かったというしかない。窓を全開にした。息を止め丁寧に汚物の処理を。雑巾を絞り布団の表面を何度も何度も拭いて拭いてまた拭いた。途中、ウっと何度ももどしそうになった。水で濡らしてまた拭いた。布団がびしょびしょになった。運よく外は晴れていた.。手すりに掛け天日干しをした。だけど布団内部まで染みこんだ臭いはおいそれと消えてくれない。何日か後にここの住人が戻ってくる。焦った。
そういえば、以前女の子からシャネルの19番の香水を貰った。それを思い出した。一番臭う部分に振り掛けた。部屋はまるでデパートの香水売り場。派手な匂いに包まれた。
ネコちゃんを見た。こんなに愛くるしい目をしている。離したくない。
でも、、、、まだ二日目。だけど……。考えた末、外にまた解放することにした。
身を切られる思いだが、仕方ない。きっと里親は見つかる。拾われることを祈った。後ろ髪が引かれる。
the end