それは朝方だった。夢はレム睡眠の時に現れるというから、ノンレム睡眠、レム睡眠、これを何度か繰り返したのちの一番最後のレム睡眠だったのだろう。
ステージの上だった。客はまずまずの入り。アニキ、タロー、ケント、そして僕。それぞれのパートについていて、一番左端、見る側からすれば右端に僕はいる。今何時? 時計を探した。しかし視野にそれはなかった。演奏中は時計をしないのが僕の習慣。時間の管理は、曲の進行を司るアニキ。ライブハウスにもよりけりだが、大抵1ステージ30分。8時に始まれば、エンディングは8時23~4分頃。
腕時計に目を落とし、アニキが言った。
「ジ・エンド」
その瞬間、僕の頭の中は真っ白に。ジ・エンド? キーは何だっけ? コード進行は……? ケントがスティックを四つ鳴らせば音を出さなければならない。すっかり忘れている。焦る。カッ、カッ、…。うわっ! ホールの照明が徐々に落ちていく。
硬い音質はバレる。だから、ヘフナー特有の超柔らかいトーンを選んだ。さらに必要最小限の音量にし一弦をGからCあたりまでスライドさせ鳴らした。テキトウだった。メンバーのみんなが振り向く。理由はわかっている。僕はタローのギターを見た。押さえる場所で、コードを解読するためだ。だが、暗くて判読が難しい。この曲のイントロ部分はそれほど長くない。コードが変わる。次はランニング奏法で、弦を舐めるようにして弾いた。キーを耳で探した。異変に気づいたタローが近づいてくる。指をCからD#にスライドさせた。
♪ Oh yeah , all right. Are you going to be in my dreams Tonight. ♪
合ってるのか合ってないのか判らない。とりあえず曲は進んでいる。タローのおかげで、キーとコード進行を思い出した。メンバーらと久しぶりの演奏だ。チューニングが、リズムが、音程がそれぞれ違っていようが、一応サマになっている気がする。皆が出す音で曲になっている。すごい。感動だ。
だが、自分が今ここで感動していることに、どこか変だと訝った。何かチグハグなのだ。そうだ、今何時だ?
睡眠がさらに浅くなっていく。ああ……? ステージが消えていく。あ! ……これは夢だ。懸命に、今の状況を記憶に残そうと思った。
目が覚めた。長針と短針が縦一直線だった。反芻してみた。ふむふむ、残っている。
しかし、アルファードが夢に出てくるなんて、まず記憶にない。もしかしてあったのかもしれないが、記憶として残っていない。実に久しぶりだ、バンドメンバーと会ったのは。でも、イチとヨシノリがいなかった。ま、いいっか!^^
まてよ、ビートルズの「ジエンド」などやったことないぞ。