はじめ、一つだったアジサイの鉢もいつのまにか四つに増えた。
その傍にくちなしの花がある。
季節になるとウットリする良い香りをもたらしてくれる。
しかし一昨年は咲いたのに去年は咲かなかった。今年こそはと期待しながら毎日十分な水を与えていた。だが意に反し葉っぱだけはどんどん成長し増えていくのに、花が一向に咲く気配がない。今年もダメかとちょっと落胆し始めていた。
日々は過ぎていく。そんなある日。欠けた葉っぱを見つけた。一枚だけだった。その時はそれほど気にしなかった。
それから二、三日が過ぎた。今度は数枚の欠けた葉を見つけた。その中の一枚は更に進んで茎だけになっていた。
翌日、翌々日。日に日にそれが増えていく。
やばい? これは幼虫だ。目を皿にすると、あ……! いた。二頭も。葉の裏側にアオムシ。ほとんど同色。これじゃ見つからないわけだ。
よし今度の土日に退治するぞ。が==、いざその日になってみると色々と野暮用ができたり、雨が降っていたりと、中々行動を起こせない。
悠長なことしている間に、遂に見るも無残、剥げ剥げ状態に……。
今さらという感が否めないが、意を決し植物用のはさみを持った。すでにまともな葉っぱなど残っていない。あれだけ生命力に溢れたくちなしの花は今じゃ痩せ細り頼りなげに見える。アオムシもここまで食い尽くしたのだから途轍もなくデカくなってるはずだ。……だが、結局見つからなかった。
その時、自分の目線より少し高いところで異な動きを感じた。ふと見上げるとそこに蝶々が花に止まり羽をひらひらさせていた。
……アゲハだ。そっと近づいた。それでも逃げない。束の間、見ていた。
そうだ。写真。部屋の中からカメラを持ちだしそれを撮った。
うん? もしや……。
この蝶は。もしかしてくちなしの葉を食べていたアオムシ。成長し羽化した蝶々だったのでは? では、もう一頭は? 探したがいなかった。既に飛び去ってしまったのだろうか。どこか、感傷的になった。蝶を見る目に温もりがにじんだ。※蝶々の数え方が、一頭、二頭ということを初めて知った!^ ^;;
その時、妻の呼ぶ声に振り向いた。大した用じゃなかったので、「それより、ちょっとこっち来て。あのアオムシがかえったみたい。蝶々がいる。早く」手招きすると、妻は手を拭きながらやってきた。
……。あれ? アゲハがいない。すでにいなくなっていた。
きっと蝶々が、お礼とお別れの挨拶をして飛び立ったんだよ。
ありがとう。そして、さよなら!