



時々行く古風でセピア調に設えた喫茶店、名前は「四季」。
ここはこじんまりしていて、いつも閑散としている。客がいないのだ。だが、その日は珍しく二組いた。
どんなときでも即刻アメリカンと注文する僕も、どういうわけか、
「うーん、マスターちょっと待って」
と言い澱んでしまった。テーブルの上のメニューを手に取る。
どういう風の吹き回しか、クリームアイスコーヒーを頼む。何年振りだろう、ずいぶん久しぶりだ。アイスコーヒー自体、あまり記憶にないのに。
「おまちどおさまです」
からだが、大きく反り返った。
「…………うわ!!!」 目を丸くした。「こんなんだったっけ? クリームアイスコーヒーって」
丸いアイスクリームがポコンと、アイスコーヒーの中に浮かんでいるのを想像していた。
そのグラスの中にはびっしりと真っ白なアイスが詰まり、アイスコーヒーの黒い部分も見えない。それはエベレストのように高くそびえ立ち、裏側はさながらアイガー北壁。
山が崩れないよう必死にアイスを食べた。食べても食べてもなくならない。
帰りがけマスターに、
「鳩が豆鉄砲食ったような顔してましたね」
「あれはびっくりしたよ。あれ、サービスだったの? それとも久しぶりすぎて作り方を忘れてしまったの?」
さて、今日の雲行きは? 会社の窓の外を見ると、目の前は首都高速道路。走る車は、ワイパーを動かしていない。予報は、曇りそして雨マーク。今のところ降っていない。
1時半に出かけようっと。



