『洲崎パラダイス赤信号』と『不滅の熱球』
ところで、映画で描かれた洲崎といえば、洲崎遊廓の入口の飲み屋を中心に、そこに出入りする男女の姿を描いた芝木好子原作、川島雄三監督の名作『洲崎パラダイス赤信号』(56)がある。
作られたのは1956年だからなんと60年前、自分が初めてテレビで見たのは高校生の頃だからこれも40年前。けれども今見ても心に響くものがある。それは男と女の腐れ縁や人間の営みの本質は昔も今もあまり大差はないということなのだろう。決して器用でも幸せでもない登場人物たちのどこかあっけらかんとした生き方が強く印象に残る。
そして、沢村栄治といえば、池部良が沢村を演じた鈴木英夫監督の『不滅の熱球』(55)がある。沢村が英霊となって後楽園球場に戻ってくるラストシーンが切ない映画だ。『不滅の熱球』の脚本は、黒澤明の映画で有名な菊島隆三が書いているのだが、彼はこの映画の他にも、後楽園球場での巨人対南海戦が映る『野良犬』(49)志村喬がプロ野球の監督を演じた『男ありて』(55)の脚本を書き、『鉄腕投手 稲尾物語』(59)の原作、構成も担当している。多分無類の野球好き。日本の野球映画を語る時には欠かせない存在だ。