惹句は、寅が訪ね歩いたのは、今や決定的に失われた風景、人情、ニッポン。映画に「動態保存」された役者を、鉄道を、時代を辿る。寅さんの跡を辿って「失われた日本」を描き出すシネマ紀行。
『男はつらいよ』の大ファンを自認し、軽い“旅テツ"でもある、物書きの端くれの自分にとっては、うらやましいことこの上ない企画。
最初は偶然だったのだろうが、シリーズの途中から、山田洋次は失われゆく日本の風景を記録することを強く意識していたと思う。だから、今や寅さんは記録映画の側面も持っていることになるのだ。それにしても「動態保存」とは言い得て妙である。
また、柴又の隣町の金町に住む身としては、「すべては柴又に始まる」「京成金町を行き来して」が特に印象に残った。
読後、YouTubeで名場面を見直してみたら、それぞれの場面ごとに、絶妙なタイミングで流れてくる、山本直純の音楽の素晴らしさに改めて気付いた次第。