『パワー・オブ・ワン』(94.10.4.)
アパルトヘイト体制下の南アフリカを舞台に、1人の少年(スティーブン・ドーフ)がボクシングを通して人種の壁を越えて成長していく姿を描く。
公開当時は『ロッキー』(77)『ベスト・キッド』(85)のアビルドセンが撮った“第三の格闘技物”として扱われていたし、こちらも最初の『ロッキー』と『ベスト・キッド』以降のアビルドセンには裏切られ続けてきたもので、異を唱えることもなく見逃していた。ところが今回見てみたら、これが結構頑張っていたのである。
リチャード・アッテンボローが撮った『遠い夜明け』(87)以前の南アフリカの姿が、こうして映画として公に示されたのは初めてのことではないかと思う。事実、黒人のみならず、白人たちの中でさえも階級が分かれ、あからさまな差別が存在していたことなどを、この映画で初めて知らされた。その点では、大きな意義がある。
ただ、この映画は社会派メッセージ物ではないから、主人公がボクシングを通して成長していく姿や、ラストの処理などが、いわゆるご都合主義的に見えてしまうところもあるのだが、大上段に構えるのではなく、娯楽映画の中にそうしたテーマを巧みに盛り込んだアビルドセンの技を評価したい気がした。