1970年代に書かれた半村良の“嘘部三部作”『闇の中の系図』『~黄金』『~哄笑』を再読。
このシリーズは、嘘つきの天才、浅辺宏一を主人公に、日本の歴史を裏から操りつづけてきた謎の一族・嘘部の暗躍を描いている。
『闇の中の系図』は、しがない工員の浅辺が、秘密組織「黒虹会」の一員となるピカレスクロマン、『~黄金』は、邪馬台国伝説を軸に、嘘部にだまされる側の視点から描いた伝奇ロマン、『~哄笑』は、政界の暗部を軸に、ホテルに集うさまざまな思惑(嘘)を持った人々を描いた群像劇、と、それぞれ趣が異なる。久しぶりに読んだのだが、相変わらず面白くて、一気に読んでしまった。
ところで『闇の中の系図』の解説として、奇術研究家として著名な松田道弘氏が「うそとまことのタイトロープマン」という一文を書いている。映画を引用した箇所も多く、いまさらながら興味深いものがあった。
まず「うそも相手に合わせてつく必要がある」として『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』(77)を比較している。
「日本では『スター・ウォーズ』の、いきなり惑星間戦争という空間的に飛躍したウソの世界についていけず、とまどいを見せた人か多かった。対照的にスピルバーグの『未知との遭遇』は何気ない日常の生活描写から、次第に非現実の世界へと観客をスムーズに抵抗なく誘導することで支持を得た」として『闇の中の系図』における半村良の筆致との共通点に挙げている。
また「うそのつき方は難しい。ひとつ計算を間違えると思いがけない結果が生ずる」として、相手の切先とわが身との微妙な間隔をとっさに見極める「見切りの太刀」という剣法の技術になぞらえて、オーソン・ウェルズ作のラジオドラマ「火星人襲来」が全米にパニックを引き起こしたのは、見切りの太刀に狂いがあったからだと説く。
最後に、火星に送り込まれたはずの宇宙飛行士は、NASAの陰謀で地球上にある撮影所に閉じ込められ、そこからテレビ中継されていた…という『カプリコン・1』(77)を引き合いに出し、「アメリカにも腕のいい嘘部が大勢いるのかもしれない」と結ぶ。
この解説を読んで、なるほど映画作りは嘘部が最も得意とする分野かもしれない。だからこの三部作を読んでいると映画を見ているような気分にさせられるのだと納得させられた。