“フォードの魔法”に満ちた一編
ザ・シネマ 今週の「シネマ・ウエスタン」は、『アパッチ砦』(48)『黄色いリボン』(49)に続く、ジョン・フォードの騎兵隊三部作の一編『リオ・グランデの砦』。『黄色いリボン』が騎兵隊を舞台に描いた男やもめの話なら、こちらは夫婦と親子の物語。ジョン・ウェイン演じる主人公の名前は『アパッチ砦』と同じカービー・ヨークだ。
俳優たちのアンサンブル、圧倒的な景観、バート・グレノン&アーチー・スタウトのカメラワーク、人馬一体となった見事なアクション、適度なユーモア…と、まさに“フォードの魔法”に満ちた一編。何の気なしに見始めたのだが、いつの間にか引き込まれて結局最後まで見てしまった。
ところで、昔々、初めてテレビでこの映画を見た時に、随分若くてきれいなお母さんだなあと思ったモーリン・オハラは公開当時(50年)30歳。つまり老け役だったということか…。
あまりひげの似合わないジョン・ウェインは43歳、『子鹿物語』(46)の名子役で息子役のクロード・ジャーマンJrは16歳、脇を固めるフォード一家のベン・ジョンソンは32歳、ハリー・ケリーJrは29歳、ビクター・マクラグレンは54歳。そして御大ジョン・フォードは56歳。フォード以外はみんな今のオレよりも年下だったのか…。
ところで、リオ・グランデ川と言えば、パンフレットにコラムを書いた新作西部劇『ある決闘 セントヘレナの掟』の舞台ともなっていた所。両作の違いを見ると、いろいろな意味で隔世の感を抱かされる。↓
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“自分の尾を食べる蛇”のお話
ロバート・A・ハインラインの「輪廻の蛇」を映画化したタイムパラドックスSF。一人の時間警察職員(イーサン・ホーク)の数奇な“宿命(プリデスティネーション)”を描く。
ネタが割れてしまうと「何だ究極の自己愛物語じゃないか」となるので、何の予備知識も持たずに見た方がいい。輪廻や因果応報といった仏教的な趣もあるところが面白い。
ホークにも増して、男女二役を演じたサラ・スヌークの妖しい魅力が光る。一人二役への思いは、一卵性双生児のピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟監督なればこそか。
日本でも同種のタイムマシンものの傑作として広瀬正の『マイナス・ゼロ』があるが、彼はハインラインの「時の門」を分析した文章を遺しているから、この「輪廻の蛇」の影響も受けていたのではないかと思われる。