これも残っていた公開当時のメモから。
映画監督は、一本傑作を作ってしまうと、その後はさらに上出来のものを求められてしまう、という実に過酷な仕事だ。この映画の監督のトビー・フーパーは、残念ながら自らの監督作でそのことを実証してしまっている。
傑作『悪魔のいけにえ』(74)以後のフーパーは、例えば『ポルターガイスト』(82)はどう見てもスピルバーグの世界だったし、この映画にしても、脚本に名を連ねるミスター・エイリアン=ダン・オバノンの色が非常に濃い、というように、己の力を存分に発揮しているとは思えない。
フーパーにしてみれば、いつまでも『悪魔のいけにえ』ではなく、スピルバーグやオバノンと組んで新境地を開拓しようと試みたのかもしれないが、残念ながら、見る側に『悪魔のいけにえ』のイメージをくつがえさせるところまでには至っていない。
こうなったらフーパーさん。得意のホラーではなく、スピルバーグが『カラー・パープル』(85)を撮ったように、180度違う映画でも撮ってみますか。
『日曜洋画劇場』(1987.4.12.)の淀川長治先生の名解説を採録。
はい、皆さん今晩は。今夜は怖くて眠れませんよ。『スペース・バンパイア』。スペース・バンパイアって、何でしょうねえ? 宇宙のバンパイア、宇宙の吸血鬼です。また、いつもと同んなじような? ところが、違うんですよ。今日の吸血鬼、ちょっと違うんですよ。
あなたは、旦那さんですか、奥さんですか、お嬢ちゃんですか、坊ちゃんですか? この映画ご覧になったら、旦那さんは今夜、眠れないかも知れませんよ。と言いますのは、このバンパイア、まあ、妙な妙なバンパイアで、全裸で出て来るんですよ。だから男性の前に、まっ裸でパーッと、まあ、恥ずかしい、オッパイ丸出しで出てくるんです。
だから、そんなオッパイ丸出しの美人が出てきたら、男というものは何とも知れん、しょうがないもんですね。思わず抱きつくんですね。抱きついたら最後、えらいことになってくるんですね。そのバンパイアに、生き血、生命、精力、全部抜き取られて、無残な姿になるんですね。というわけで、そういう怖い怖い映画です。
けれども、この映画の音楽はヘンリー・マンシーニ。こんな怖い映画にヘンリー・マンシーニの音楽。これがこの映画の強みですね。柔らか~い音楽で、怖~い映画。そういうとこが、面白いんですね。
この映画の監督はトビー・フーパー。この監督は、そうです『悪魔のいけにえ』がありました。だからあの手この手で怖がらせるんですね。
で、この映画に出てくる、全裸のオッパイ丸出し、やらしいねぇ。その丸出しの女の人、それがマチルダ・メイです。彼女は、この全裸おっぱいで一躍有名になって、だんだん人気出てきました。
これは1985(いっせんきゅうひゃくはちじゅうご)年のアメリカ映画です。皆さん、じっくりご覧くださいね。今夜は、何か眠れないかも知れませんよ。いろんな意味で。はい、ゆっくり怖がってくださいね。後でまた会いましょうね。
はい、いかがでしたか。怖かったでしょう? なに、面白かった? 困りますねぇ。
ところでこの映画の原名は『ライフフォース』と言うんですね。ライフフォースと言いますと、生命力なんですね。その生命力を、吸い取られるお話ですね。
しかし、こういうことは映画の上であって、実際にそんなことはあり得ない、そう思われたら大間違い。もしもあなた、お父ちゃん、お父ちゃんが銀座かどっかで、きれいな女にめぐり逢って、その女の方が全裸になって、目の前にオッパイ出されたら、思わず飛びつかれるかも知れませんね。もしもそんなことになったら、後でお帰りになる時に、ポケットの銭は全部なくなりますよ。というわけで、恐怖は現実になりますよ。
そういうわけで、この監督はこの映画の成功で、またもや『悪魔のいけにえ』の続編を作っております。まぁいろいろと怖いことがありますね。けれどもテレビで、こんなにオッパイの丸出しは、私この世に生きて、何とも世の中変わりましたねぇ、と思いましたよ。
はい、もう時間きました。それでは次週をご期待ください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。