ドリュー・バリモア、アダム・サンドラー共演、ピーター・シーガル監督の『50回目のファースト・キス』(04)を、長澤まさみと山田孝之、監督・脚本、福田雄一でリメーク。
舞台はハワイ、記憶が1日で消える障害を持つヒロインの瑠衣と、天文学者を目指すヒーローの大輔が出会う。大輔は毎日、初対面から始め、愛を告白し続ける。2人は毎日恋に落ち、毎日キスをすることになる。それは瑠衣にとっては常にファースト・キスなのだ。また大輔は、2人の出会いから現在までを描いたDVDを作成し、毎朝瑠衣に見せる。この二つが物語のミソとなる。
こうした設定はオリジナルとあまり変わらない。ところが、オリジナルに負けじと、単なる悲恋物にせずコメディの要素も加えて明るく描く、という主旨は分かるのだが、場違いなギャグ(特に佐藤二朗と太賀)がくど過ぎて笑えないのが玉にきずだ。
かつて、超常現象によって主人公(ビル・マーレー)が陥る時間の反復(同じ日を繰り返す)を描いた『恋はデジャ・ブ』(93)という映画があった。あの映画では、主人公の身にだけその現象が起こり、周囲は全く知らないというギャップが、面白く、切なく描かれていた。
この映画(オリジナルも)は、ヒロインだけが事実を知らず、周囲がヒロインに、同じ日を繰り返しているとは気づかせないように苦心するさまが描かれていて、逆のパターンとして対比的に見ると面白いと気付いた。
『恋はデジャ・ブ』は↓
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e86e17d1479e616cb36603a934409a31
ウェス・アンダーソン監督のストップモーションアニメ映画。
舞台は近未来の日本。ドッグ病が流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、全ての犬を犬ヶ島に追放する。市長の養子のアタリは、愛犬のスポットを救うために、小型飛行機に乗って一人で島にやって来る。
シュールなキャラクターを登場させながら、少年と犬たちの絆を描く。珍妙なところもあるが、目が離せなくなるような不思議なパワーがある。
リーブ・シュレイバー、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレー、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、オノ・ヨーコ、F・マーリー・エイブラハムと、声優も豪華。
日本映画、特に黒澤映画のイメージが満載だ。もともと犬に縁がある『野良犬』(49)はもとより、『酔いどれ天使』(48)の人殺しの唄、『七人の侍』(54)や『用心棒』(61)のテーマ曲、『悪い奴ほどよく眠る』(60)の口笛など、音楽面での影響が目立つ。
小林市長は三船敏郎のイメージらしい。『レディ・プレイヤー1』に続いて、ここにも“ミフネ”がいた。
以前、よく原稿を書かせていただいた『ビッグイシュー日本版』。最新号(335号)のスペシャルインタビューはポール・マッカートニーだった。
ポールが「16歳の自分」をテーマに、ジョンや、曲作り、家族、そして“不思議な夢”について語っている。
リンゴが歌った「ユア・シックスティーン」にポールが参加していたことを思い出した。
明治10年代の東京の姿をリアルに描き出した、知られざる明治東京名所絵のシリーズがある。描いたのは、26歳で夭折した絵師、井上安治。“光線画”で名高い小林清親に弟子入りし、江戸伝来の浮世絵とは全く異なる新時代の風景版画、134点のシリーズを生み出した。
杉浦日向子が安治をテーマにした『Yasuji東京』という漫画を残している。その中で安治の絵の特徴を、安藤広重や師匠の清親の絵と比べながら解き明かしてるという。早速読んでみた。
「広重描く「名所江戸百景」には、わくわくするような異郷の香りがする。ときには上空はるかから、あるいは地面に這って、ガリバー旅行記(おとぎばなし)のように町を見せる。(中略)安治の絵は実際に見たままの暗さを思わせます。総じて清親の絵は動きがあり劇的で、映画のワンシーンのように甘やかで切ない。安治のは拍子抜けするほど淡々とし、渋い色調にもかかわらず、画面は湿り気ない奇妙な明るさに満ちている。安治が対象に冷ややかだったのではなく、それが彼のやり方だった。清親は芸術家たらんと欲したが、安治はたぶん、自分のことを画工だと思っていただろう」
卓見である。この人も若くして亡くなったが、その時に「きっと江戸時代にタイムスリップしたのだろう」と言われたものだ。
写真でも、絵葉書でもない、安治の静謐な風景画に魅せられた。
クリストファー・リーブ主演の、『スーパーマン』(78)に始まるシリーズ4作で、ロイス・レイン役を演じたマーゴット・キダーが亡くなった。『スーパーマン』で、ジョン・ウィリアムズの音楽に乗って2人が演じた優雅な飛行シーンが忘れられない。このシーンは「まるでアステア、ロジャースのダンスのようだ」と言われたものだ。
キダーは、勝気さとかわいらしさが同居したキャラクターと、ハスキーボイスが魅力的だったが、撮影現場での大けが、自己破産、重度のうつ病と不運が重なった。奇しくも、スーパーマン役のリーブも、95年に落馬事故に遭い、首から下が不随となった。
ところが、リーブが車いすに乗って活動を再開したように、キダーも病を克服して女優を続けた。リーブに続いてキダーも亡くなったが、2人は実生活でも本当の意味でのヒーローになったのだ、と言ったら、センチメンタル過ぎるだろうか。
リーフレットの解説を執筆した
ゲーリー・クーパー主演の『軍法会議』(55)と、ジェームズ・スチュワート主演の『戦略空軍命令』(55)のブルーレイが25日に発売される。
どちらも東西冷戦下に作られた軍隊関連物だが、今となっては時代の証言者的な側面もある。
クーパーとスチュワートという大スターの存在感が光る映画だ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07CYRZYGG
https://www.amazon.co.jp/dp/B07CYVS6V2
日本に住んだこともあるというウィル・グラック監督。コメディを作るようには見えない、とても真面目な感じの人だった。
「実はこの映画は、あえて時代を特定していません。ですから、現代かもしれないし、あるいはもっと昔かもしれないし、50年後かもしれない」
「物語の中心にあるのは、ビア(ローズ・バーン)とマグレガー(ドーナル・グリーソン)のラブロマンスです。トロイの木馬(巧妙に相手を陥れる罠)のように、動物の話だろうと思っていると、実は2人の愛の話になっています」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1150118
仲代達矢がナレーションをすることで、かつての東宝の「8.15シリーズ」を思い出した。よくできた社会派のテレビドラマのようだと思ったら、NHK BSドラマを再編集したものだった。
英語のセリフでも頑張った井浦のほか、佐野史郎、石橋蓮司(屋良朝苗)、尾美としのり、先ごろ亡くなった大杉漣らが、実在の人物を好演している。
82歳のウディ・アレン監督の新作。セクハラだ何だと騒がれながらも、その枯れない創作欲には頭が下がる。
舞台は1950年代のニューヨーク、コニー・アイランド。ウエイトレスのジニー(ケイト・ウィンスレット)は、夫(ジム・ベルーシ)と、自身の連れ子と暮らしていたが、海水浴場でライフガードのアルバイトをする大学生のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と浮気をする。元女優のジニーは平凡な毎日に失望し、ミッキーとの未来を夢見るが、そこに夫の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現れて…。
原題の「Wonder Wheel」はコニー・アイランドの観覧車の名前。眺めはいいが、いつも同じ場所を回転しているだけで、決して別の場所に行くことはできない、という意味で象徴的なものとして映る。
ウィンスレットは熱演しているが、「ここではないどこかに、もっといい人生が待っているはず」と思い込み、自分勝手な行動を取るジニーに、感情移入ができるか否かが、この映画の評価の分かれ目になるだろう。
狂言回し的な役割を果たすミッキーのキャラクターの造形にアレンらしさが感じられる。ベルーシとの久しぶりの再会もうれしかった。
蚤とりとは、猫の蚤を取ると見せかけて、裏では女性に奉仕する男娼のこと。江戸時代に実在したという。
この映画は、殿さま(松重豊)の命により、「蚤とり」となった小林寛之進(阿部寛)が主人公の一種の艶笑コメディー。ただし、寛之進の性格や、殿さまとの関係の描き方が中途半端なもので、分かったような分からないような、妙な気分にさせられる。
また、見えそうで見えないところが、艶笑コメディーたる由縁だが、描写が生々し過ぎて、かえって興ざめさせられた。のみとり屋の親分役の風間杜夫がさすがのうまさを見せるのが救いか。