「え~と。君はとても優秀な人で、多くの男達からの交際の申し込みをすべて断り、危機迫る人達には、救いの言葉で救済を図った預言者であると。」
黙って僕の話を聞いていた彼女は、大きくため息をつき「・・・そう。」と言って表情を曇らせてしまった。
こういう時、どんな言葉を掛ければいいのか分からなかったから、ただ「ごめん。」と、あやまると、彼女は、「なにも気にする事はないよ。」と言って微笑んだ。
傷つけたかもしれないのに、ごめんしか言えなかった僕に対して、やわらかく接してくれた。
きっと、彼女の本質はクールとか切れ者と言うより、普通に優しい人なんじゃないかと思えたから、今感じている事を素直に言葉にしてみた。
「でも、不思議だよ。今日は、偶然時間が空いて、ここへ来て、君とどうすれば接点ができるか考えようと思っていた処だったんだ。で、偶然にもこうやってチャンスが訪れた。今日はラッキーデーかもしれない。」
すると、今度は「それは、よかったね。」と、言って視線を空へ移した。
ああ、なるほど、これが難攻不落と呼ばれるものなのかと思いながらも、此処で折れてはなるものかと自分に言い聞かせた。
「君は物理学を専攻しているんだってね。特に何を学んでいるの? 」
「摂理。」
「えっ。摂理って。自然界の法則の事?」
「そう・・・。いえ、創造主の計画と配慮の事だよ。」
彼女の答えに少し驚く。
「でも、それなら神学か哲学を専攻した方がいいんじゃ・・・。」
「それも考えたわ。でも、神と私の間に何かが介在すると魂が濁るの。」
「魂が濁る? 」
「そう。言葉は“濁る“と真理から遠ざかるの。どんなに素晴らしい経典でも、読み手が自分にとって都合のいい解釈をしてしまうのと同じように。」
「たしかに。」
「シェークスピアも、言葉は空に迷い、思いは地に沈む。心をともなわぬ言葉が、どうして天にとどこうぞ。と、作中で言わせているわ。」
「シェークスピアかぁ・・・・・・。でも、人が矛盾という価値を内在させているんだから、完璧な世界もないと思うんだけど、それはどう思うの? 」
「確かに、完璧な世界は存在しないわ。アダムとエバが善悪の知識の実を食べてしまったように、プロメテウスは天界の炎を盗んで人に与えたように、揺らぎというものは不可避なもので、すべての人が、天地我と同根、万物我と一体という思想には至らないものよ。それに対し、数字には矛盾も揺らぎもなく、数式とその配列には普遍性がある。だから物理を選んだの。」
「つまり、数字には一貫性がある、だから法則には神が宿っていると。」
「そう。言葉は神と共にあったなら、数字もまた然りだと思うの」
なるほど、これは一筋縄ではいかないわけだ。自身の魂の存在を認め、宇宙や素粒子にその起源を身い出そうとしている彼女の精神はとても繊細でクリアだ。
そして、歪んだ欲望を抱いていると、見透かされると思わずにはいられないほどの、純粋さを持っていて、自信のない僕なんか、相手にされないんだろうなと思ったら、それ以上、言葉が出なくなった。
黙って僕の話を聞いていた彼女は、大きくため息をつき「・・・そう。」と言って表情を曇らせてしまった。
こういう時、どんな言葉を掛ければいいのか分からなかったから、ただ「ごめん。」と、あやまると、彼女は、「なにも気にする事はないよ。」と言って微笑んだ。
傷つけたかもしれないのに、ごめんしか言えなかった僕に対して、やわらかく接してくれた。
きっと、彼女の本質はクールとか切れ者と言うより、普通に優しい人なんじゃないかと思えたから、今感じている事を素直に言葉にしてみた。
「でも、不思議だよ。今日は、偶然時間が空いて、ここへ来て、君とどうすれば接点ができるか考えようと思っていた処だったんだ。で、偶然にもこうやってチャンスが訪れた。今日はラッキーデーかもしれない。」
すると、今度は「それは、よかったね。」と、言って視線を空へ移した。
ああ、なるほど、これが難攻不落と呼ばれるものなのかと思いながらも、此処で折れてはなるものかと自分に言い聞かせた。
「君は物理学を専攻しているんだってね。特に何を学んでいるの? 」
「摂理。」
「えっ。摂理って。自然界の法則の事?」
「そう・・・。いえ、創造主の計画と配慮の事だよ。」
彼女の答えに少し驚く。
「でも、それなら神学か哲学を専攻した方がいいんじゃ・・・。」
「それも考えたわ。でも、神と私の間に何かが介在すると魂が濁るの。」
「魂が濁る? 」
「そう。言葉は“濁る“と真理から遠ざかるの。どんなに素晴らしい経典でも、読み手が自分にとって都合のいい解釈をしてしまうのと同じように。」
「たしかに。」
「シェークスピアも、言葉は空に迷い、思いは地に沈む。心をともなわぬ言葉が、どうして天にとどこうぞ。と、作中で言わせているわ。」
「シェークスピアかぁ・・・・・・。でも、人が矛盾という価値を内在させているんだから、完璧な世界もないと思うんだけど、それはどう思うの? 」
「確かに、完璧な世界は存在しないわ。アダムとエバが善悪の知識の実を食べてしまったように、プロメテウスは天界の炎を盗んで人に与えたように、揺らぎというものは不可避なもので、すべての人が、天地我と同根、万物我と一体という思想には至らないものよ。それに対し、数字には矛盾も揺らぎもなく、数式とその配列には普遍性がある。だから物理を選んだの。」
「つまり、数字には一貫性がある、だから法則には神が宿っていると。」
「そう。言葉は神と共にあったなら、数字もまた然りだと思うの」
なるほど、これは一筋縄ではいかないわけだ。自身の魂の存在を認め、宇宙や素粒子にその起源を身い出そうとしている彼女の精神はとても繊細でクリアだ。
そして、歪んだ欲望を抱いていると、見透かされると思わずにはいられないほどの、純粋さを持っていて、自信のない僕なんか、相手にされないんだろうなと思ったら、それ以上、言葉が出なくなった。