硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-12 21:10:56 | 日記
僕らは昼食が済むと、友田はバイトへ、大井はこれから彼女の買い物に付き合うのだといって別れた。僕は午後の授業を受ける為、教室へ向かったが、教授の都合で休講になっていた。

ぽっかりと時間が空いてしまったが、こういう時の過ごし方も決まっていて、授業が無くなった天気の良い日はバイトに備えて屋上で昼寝をするのが常であった。

缶コーヒーを自販機で買って、屋上に向かって階段を上ってゆくと、階段を下りてくる何人かの学生が卒論のテーマで熱く議論していた。ああ、もうそんな季節なんだなと思いながら、屋上への扉を開けると、澄み渡る青空が一面に広がっていた。日差しは優しく、風もなく、穏やかで、気持ちの良い静かな午後であった。

僕は背伸びをして、友田の情報をもう一度考えようと、いつもくつろいでいるベンチへ足を向けると、その先には、空を見つめている「預言者」と呼ばれる彼女がいた。
一瞬目を疑ったが、間違いなく彼女だった。高鳴る鼓動に緊張が増した。しかし、ここで引き下がっては友田の情報も無になってしまう。勇気を出さねばと、自分に言い聞かせながら、ベンチに行き、床に缶コーヒーを置くと、リュックを枕にして仰向け寝転がった。すると・・・。

「あなた。そこのあなた!」と彼女が叫んだ。初めて聞く声だけれど、間違いなく彼女だ。僕は、びっくりして起き上がり、確認するふりをして、自身を指さした。
すると、彼女は、すごく通る声で、

「そう。あなたよ。今日、学食で私の事を話していたでしょう。」

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-11 20:40:42 | 日記
「そして、ここからがお前にとって最も重要な情報だ。」

僕は、友田の言葉に大きく頷き、重要とまでいう情報に聞き入った。

「彼女は決まった時間に決まった行動をするらしい。それも、よほどの事がないかぎり変わらんらしく、その行動パターンから、彼女の事を『カント女史』と呼ぶ者もいるそうだ。つまりだ、行動パターンがあらかじめ読めるのであれば、そこに偶然を装うチャンスがあるということだ。」

「それは、つまり、後は自分で何とかしろと・・・・・・。」と心の中で呟いたが、ドヤ顔で言いきる友田には言えるわけがなかったが、大井は、ためらいもなく「まぁ、最後は、自助力だな。しかし、よくそこまで調べたなぁ」と、言って、少し呆れていたが、痛いところを突かれた友田は、「まぁな。いろんな学部に知り合いがいるからな。なんとかなるもんだよ。それに、前々から、俺自身も“あの切れ者女子”について回る噂には興味があったしな」と、言いながら頭を掻いた。

「なんていっていいのか・・・。ありがとう。」

大井の言う通り、あとは自助力なのだ。ここまでしてもらって、文句を言うのは筋違いなのだ。僕はその情報収集力と、友田の友情に感動して、感謝の気持ちを伝えると、友田は爽やかに微笑み、

「これくらいならお安い御用だ。しかし、これ以上の情報収集活動は、ストーカー規制法に触れるとも限らん。よって、提供できる情報はここまでだ。後はお前の行動力と運にかかっている。以上だ! 健闘を祈る!!」

と、言って敬礼した。僕も思わず敬礼すると三人で笑いあった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-10 17:48:33 | 日記
「確かにその通りで、予知は奇蹟的な事かも知れんが、それだけの材料では誰も彼女を本物の預言者であるとは断定できんだろう。中には、彼女の事を揶揄して預言者と呼ぶ者もいるからな。しかしだ、話が複雑なのは、実質、科学がリードしている現在では、神の声という非科学的なものは、にわかには信じがたいものだが、彼女の助言から、危機を回避した者は、彼女は本当に預言者なのではと言う者もいるという事実だ。俺が思うに、彼女のように由来が少し特殊で、噂に物語がついて拡散されてしまうと、信憑性がおのずと後から付いてくるようになるもので、そこに預言者と呼ばれるようになった理由があるのではないかと思うのだ。」

僕と大井は友田の理論に大きく頷くと、大井は微笑を浮かべ「たしかに、そうかもしれないな。預言者は、偶然がきっかけで、口伝という伝達方法と、長い時間が、作り上げた産物かも知れんしな。」と、言った。

確かに、噂は噂であって、彼女が真の預言者であると、誰も断定はできない。でも、彼女の能力が真実であったなら、僕は、彼女と向き合うとき、どうしたらいいんだろうと悩んだが、友田は、その悩みさえも、払拭した。

「しかし、今、こいつにとって肝心なのは彼女が預言者かどうかではなく、彼女の攻略法なのだ」

「おおっ! そうだったな。すっかり忘れていたな。で、策はあるのか? 」

興味深そうに大井が聞く。僕も頷く。

「それなんだが、俺が思うに、難攻不落であるがゆえに色々と策を練るよりは、素直に自身をさらけ出して挑んだ方が良い結果を生むかもしれん。彼女に挑戦した者達のタイプは様々だが、お前のような純朴なタイプはいない。したがってチャンスはある。と、見ていいだろう」

僕は、本当にネガティブな思考が、良い方向に働くのか疑問に感じ、「それって、喜んでいい事なのかぁ」と、呟くと、友人二人はまた笑い、困り果てている僕を見て、

「いやぁ。失敬。しかしだな、純朴という言葉が当てはまる人物もそうそうはいない。だから誇りに思ってもいいと思うが、どうだろう、大井」

「そうだな。ヘタに策を練って、自分をよく見せようとするより、素のままで気持ちを伝えた方が、彼女は心を開くかもしれんな」

と、僕の背中を押した。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-09 21:36:25 | 日記
「そうだ。彼女の学部内の連中も、彼女の能力が、直感的に予知できるものなのか、それとも、誰かからの呼びかけによってはじめてその能力が解放されるのか、そして、預言者がどのようにして誕生するのかを解明しようという動きになって、彼女にその趣旨を説明し、同意を得て、検証をしたのだそうだ。しかし、過程が少し面白くてな、同じ学部のギャンブル好きの奴が、能力の検証と称して、彼女に競馬新聞を見せ、第一レースから最終レースまでを予想してもらい格レース1000円ずつ単勝の馬券を買ってみたんだそうだ。」

「おおっ。考えたな。それで。」

「一つも取れなかったそうだ。無論、一例だけでは検証にならん。そこで、悪乗りした奴らが、競輪だのボートだのと持ち出して来て、検証と言う名目で彼女を試したんだが、すべてが同じ結果だった。」

「そんなもんだろう。ギャンブルの結果まで見えたら学校なんか来る必要がない。」

「まぁその通りだ。それで収入が得られるのだからな。しかし、彼女の能力の検証をそれでおしまいとしない俺と同じような奴がいて、彼女にまつわる逸話を拾い集め、分析して、傾向を抽出した結果、人命に関わる事象に置ける予知に特化している事が分かって、俺もそいつと同じ結論に至ったのだ。」

いくら逸話から傾向を抽出した結果だと言われても、腑に落ちない事ばかりだ。それは、大井も同じ考えらしく、「なるほどな。でも、それだけの材料で預言者とは少し乱暴だな。」と、否定すると、友田は自らの解を展開した。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-08 17:34:52 | 日記
「ああ。あの日はどこのテレビ局も列車事故の報道ばかりだったからよく覚えている。本当に大変な事故だったな。で、どうなったんだ? 」

「それがだな。彼らの中に遅刻常習犯がいて、そいつのおかげで忠告した時刻の電車に乗らずに済んだんだそうだ。」

「それは、ラッキーだったな。」

友田は、大井の言葉に大きく頷き、「ラッキーと言ってよいだろう。実際、助かった者達も驚いていたからな。しかし、その事象だけで彼女を預言者と呼ぶには物足りないだろう。」と続けると、大井は「確かにな。彼女にしても、突然のひらめきだったかもしれんしな。」と、補足した。

「そこでだ、人脈を駆使して、話を聞いてみた所、多くはないが何例か採取できた。しかし、その中には、尾ひれのついたゴシップ的なものも多かったのも事実だ。」

すると、大井は腕を組み、「だろうな。虚偽とも真実ともわからない出来事を、もっともらしい理由をつけて、オーバーに扇動してゆく者と言うのはいつの時代にもいるからな。」と、言って眉間にしわを寄せた。

「その通りだ。全く迷惑な話だが、扇動にまんまと乗せられた民衆は、盲目になってしまうものだからな。だが、情報を冷静に捉え、吟味し、取捨選択すると、事実は見えてくるものだ。彼女の噂も同様で、理路に則って調べてゆくと、人命にかかわる予知に特化していると結論付けている事が分かったのだ。」

すると、大井は少し訝しげに「結論付けている? 」と、疑問を投げかけたが、友田の話は更に先へと延びていった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-07 20:53:31 | 日記
僕はその名称に唖然としたが、大井はいぶかしげに「予言者って、未来を予測する者ってことか? 」と疑問を投げかけた。すると友田は、「いや、そうじゃない。神の声を聴き、その意志と予告を代弁する者の方だ。」と、否定した。

それを受けて大井は、「まさか。それはありないだろう。紀元前の話じゃあるまいし。」と、否定し、僕も、「予言ならわからないでもないけれど。」と、言ってはみたが、友田はそれらの反論を予想していたかのように、さらにその先へと進んだ。

「ちょっとびっくりするだろう。預言者だなんて・・・。で、彼女にまつわる噂、その謎にも迫ってみた。彼女の事を良く知るにはその背景も知っておいた方がいいだろうと。」

「おおっ。踏み込んでいたのか? 」

「無論だ。いいか。ここから先は他言無用だ。厳守出来るか? 」

「おっ。おお。もちろんだ。」

友田は、僕らが快諾するのを確認すると、「では、ご両人よろしいかな?」と言って、エピソードを語り始めた。

「これは、数人が同時に体験した有名なエピソードなんだが、彼女の研究室で、何人かが、どこかへ出かける相談をしていたら、その話を聴いていた彼女が『明日のその時間の電車は大きな事故に巻き込まれるから、時間を変更したほうがいい。』と忠告したんだそうだ。しかし、相談をしていた連中からしてみれば、あまりにも奇想天外な発言だった為、まともに取り合わなかったんだが、翌日、彼女が指摘した時刻の車両が本当に事故を起こしてしまった。まだ記憶に新しいとは思うが昨年の9月、踏切で立ち往生した車に電車が追突して何人か死傷者を出した事故があったろう。あの事故の事だ。」

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-06 20:39:43 | 日記
「まず、肝心の名前からだが、彼女は滝本ジェシカ望という。年齢は我々と同じ21歳だ。父親が英語圏の人らしいから、ミドルネームを有しているのだが、その特徴としてグレーの瞳を持っている。専攻は理学部物理学科で、成績は優秀。クリスチャンらしくキャンパス内のチャペルにもその姿を時頼観る事が出来るらしい。」

「へぇぇ~。」

心の奥底から漏れるため息、ますます希望が遠ざかる。イケメンである大井も、「ちょっと俺らとは世界観が違うのかもな。」と難しそうな表情を浮かべていた。僕は、「住む世界が違いすぎるよ。」と、言って、テーブルに突っ伏したが、友田は話はこれからだと言わんばかりに、意気揚々と話をつづけた。

「あきらめが早いな。しかし、まだ、何も始まってはいないではないか。あきらめは全てをやりつくしてからでも遅くはない。勇気を出せ。顔をあげろ。見ろ、どこに絶望があるというのだ!」

たしかにそうだ。まだ何もしていないのに、諦めるなんておかしな話だ。すぐに諦めモードに入ってしまう自分に問題があるのだ。僕は、顔を上げ、友田に「ごめん」と言った。

「ふむ。よろしい。では、話を続けよう。彼女を調べているうちに驚いたのは、彼女の伝説と、仮の名称だ。」

僕らは、「?」となった。ニックネームなんて普通だし、伝説という物々しさもよく解らない。すかさず大井が「もったいぶらずに教えろよ。」と言うと、友田はイカリゲンドウのように両手を目の前で組んで、静かに答えた。

「彼女は『預言者』と呼ばれている。」

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-05 20:08:48 | 日記
「しかし、お前は本当にわかりやすいな。いや、笑ってすまなかった。では、早速、本題に入ろう。」

友田はそう言って、小さく咳ばらいをすると、クールさを取り戻し、彼女の情報を開示し始めた。

「まず、これは決して取引ではない。目的は、おまえの想いを成就する為のものだ。しかし、その前に、理解しておかなければならないのは、その想いを寄せている女性は、誰もが認める美しさを讃えており、隙がなく、しかもミステリアスだ。したがって挑んだ者も多数いるという事だ。」

友田の分析に大井は、「それはそうだろう。」と、同意した。僕は、余裕のある人はこうも捉え方が違うのかと感心していると、友田は僕を窮地に追い込む話を始めた。

「しかしだ。やはり、と言ってはなんだが、誰も成功には至っていない。そこで、挑戦者の幾人かから、彼女の事についてリサーチを試みたが、回答のすべてが『つかみどころがなく難攻不落である。』というニュアンスのものばかりで、どうしたものか考えてみたんだが・・・・・・。」

それを聞いて、もはや打つ手なしと、落胆している僕を見た友田は、「まぁ、そんなにがっかりするな。情報はこれからが本番だ。」と、さらに踏み込んでいった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-04 22:17:42 | 日記
僕の親友である友田と大井には、彼女がいて、公私ともに充実した学生生活を送っていた。俗にいう、リア充と呼ばれる人達である。
なぜ、そんな人たちと僕とが友達になれたのかは、今でも不思議だけれど、今改めて考えると、これも導きだったのかもしれない。

出会いは、学祭で、ゲーム同好会が主催するイベント、格ゲーの勝ち抜き戦だった。
その格ゲーがたまたま中学生の頃に夢中になったゲームで、しかも、バイトも休みという、なかなか出会えない条件がそろっていたから、暇つぶしくらいの感覚で参加を決めた。
でも、こういうイベントは猛者が集うものであるから、高校時代にはゲームに手を付けなかった僕が勝てるわけがない。でも、人との対戦にどこまで太刀打ちできるのかは、とても興味があったし、しかも、久しぶりのゲームだったから、夢中にならないわけがなく、攻めに攻めて、結果は、準優勝。
その時の対戦相手の中に、友田と大井がいたのであるが、腕に覚えのある二人が、ふらりと参加した、どこの学部の者かもわからないノーマークな僕に、倒されてしまった事が驚きだったらしい。
そのゲームイベント後に、友田から「お前、上手いな。俺の家で、もう一度対戦しないか」と声を掛けられたのであるが、
その時、なぜ僕だったのかと、ずいぶん時間が経ってから聴いてみたところ、僕のゲームスタイルに、仲良くやれそうな人なんじゃないかという印象を覚えたからだと知って、そういう感覚もあるのかと驚いた。
声を掛けられたときは本当に戸惑ったけれど、二人ともいい人であったから、次第にゲームを介して語り合えるようになり、今では何でも話せる友と呼べるような間柄になったと思う。

しかし、リア充の友達と一緒にいれば、リア充になれるかというと、そうでもない。
僕がリア充になれない理由は、自身の勇気のなさだった。

それは、今まで女性とつき合った事がなく、距離を縮め方も分からないし、つき合う前から振られた時の事を考えてしまうという、ネガティブ思考が先行してしまっていたからなんだけれど、それを見兼ねた二人の友は、意気地のない僕を察して、なんと、「合コン」の場を設けてくれた。でも、不甲斐ない僕は、女の子と上手く話しが出来ず、次につながらなったが、彼らは何一つ文句も言わず、「よし! 次いこう! 」と、励ましてくれた。
僕は、彼らの優しさと友情に心から感謝していた。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-03 21:22:39 | 日記
その人は、170cmの僕と同じくらいの身長で、全体的に線が細く、ハーフなのか、色白で、癖のないまっすぐな黒髪を肩まで伸ばし、小顔の中に少し切れ長の目と、薄い唇を備え、鼻筋の通った小鼻にはいつも銀色の細いフレームの眼鏡が掛かっていた。
服装は、決まって白いブラウスにパステル調のカーディガンを羽織り、膝が出るくらいの丈の、桜色か淡い灰色か緑色の少しふわりとしたスカートと、ハイソックスにタッセルローファーを履いていた。そして、最も彼女をミステリアスに感じるのは目の色がグレーな所だった。
それ以来、学食で彼女を見るたびに、これが恋というものなのかなと、ずっと考えていてたのであるが、それを見透かした目の前に座る友人の友田は、ある日、なんの前触れもなく指摘してきたのだった。

「そういえばさ。おまえ、時々、斜め後ろの女子を観てるよな? 気持ちが漏れ出してるぞ。」

大きく動揺した僕は、しどろもどろになりながら「えっ! いやっ。 う~ん。どうだろう」と答えると、友田は、満面の笑みを浮かべ、少し下がった黒淵眼鏡のフレームを人差し指で上げると、クールに告げた。

「俺は彼女の情報を握っている・・・どうだ、気になるか? 」

こういう時、むやみに取り繕っても怪しまれるだけである。と、すれば、ここはぼやかした方が無難だと踏んで、「まあ・・・そうだな。でも、そんなに気になる存在でもないしな。」と、とぼけてみた。しかし、ヘタなリアクションでは、けむに巻くことも出来ず、隣りに座る大井に、

「おっ。意外に疑り深い奴だな。まあいい。では、この情報は大井にくれてやろう。どうだ大井? この情報、明日のBランチで買わないか?」

と、交渉を始めた。すると、大井は、「おっ。 なんだ、Bランチでいいのか? 格安だな。いいだろう。売ってくれ。」と、意気揚々に答えたが、仮に冗談だとあったしても、大井がイケメンである以上、間違いが起こらないとも限らない。これは死活問題である。
焦った僕は、「いやっ。それはぁ・・・困るかな。」と、咄嗟に言ってしまったが、それがささやかな抵抗であることが分かったからなのか、友の二人は人目もはばからず爆笑した。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-02 21:14:51 | 日記
僕はなぜ生まれてきたんだろう。生きる意味って何だろう。

問うてみた所で明確な答えはない。だから、僕は、こう考えてみた。

もし、最初から、この世界が無意味なものだと思ってしまったら、僕らは存在している事の意味をも失うだろう。
それならば、生きていることを喜び、誰かを大切に思ったり、救いを求めている人に手を差し伸べたりして、他者から感謝されれば、誰かに必要とされていると実感できるし、神様の存在に関係なく、生きる事の意味、生まれてきた理由もおぼろげに見えてくるんじゃないかと思ったりもする。

でも、それは、頭の中だけの論理だから、どうにも釈然としない。

だから、僕は、それを知る為の最初の一歩として、家を離れ、両親からの援助を断って、バイトと学業の両立を試みたのであるが、いざ始めてみると、思った以上に大変で、一人暮らしのアパートに帰るのは、深夜一時を回ることが多く、一度、蒲団になだれ込んでしまうと、次に目が開くのは、朝の情報番組の可愛いアナウンサーさんが微笑みながら「行ってらっしゃい」と言っている時だった。

そんな状況でも、なんとか頑張れたていたのは、バイト先の店長さんやバイト仲間がよい人だったことも大きいけれど、労働を通して誰かのためになっている事を知るのは、学校では学べないと痛感したからだった。
しかし、それと引き換えに、勉強を犠牲にしているんじゃないかと思う時もあって、時々、実家に帰ると、母さんから、「そんな事で勉強できているの? 」と、説教されて、逆切れしそうになることも多々あったけど、逆切れした所で、何の解決にもならないし、単にエネルギーを消費するだけだから、とりあえず「大丈夫だよ」と言って、母を説き伏せていた。

それでも、時間に追われ続ける日々というのは、正直、息苦しくもなる。そんな時に、度々押し寄せる虚無感は、約束の地を目指して、預言者と共に荒れ野を延々と行脚する懐疑主義者の気持ちと同じなのではないかと塞ぎ込んでしまうときもあったが、荒れ野を歩み続けた者達と同様に、ある日、しかも、突然に、道は開けたのだった。

それは、友人と学食で、だらだら話をしながらご飯を食べている時だった。なんとなく視線を窓側へ移すと、斜め前の席に座っている彼女と眼が合い、その瞬間、僕の鼓動が早くなったのだ。これが運命というものなのか。いやそんなものではない。それは、まさに救済者が降臨するのを目撃した者の気持ちとは、このような感じなのではないのかと思うほどだった。