発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

(あくまでKバレエにおける) クレオパトラと男たち

2023年03月16日 | 映画
◆映画館でバレエ鑑賞
 Kバレエカンパニーの「クレオパトラ in Cinema」を見に行った。
 去年の秋、ネットで公演の広告をしていてちょっと気になっていたのだ。
 オペラやバレエは、チケットがお高いし公演も少ない。だから、ひょいと行くには敷居が高い。
 実際クレオパトラ公演を生鑑賞しようと思えば、大阪か東京か札幌まで出向く必要があったし、チケットはすぐ売り切れたらしいし。潤沢な資金力と機敏なチケット購入への熱意を要するが、そこまでのバレエファンではない。
 だが、映画館なら気軽に行ける。

◆さあ、世界史バレエですよ
 ユナイテッドシネマ最終日。先着順で貰えるクリアファイルはまだあった。6列目真ん中の席で予約なし鑑賞はバレエ公演ではあり得ない。
 最初にオーケストラピットが映し出され、カール・ニールセンの「アラジン組曲」から「祝祭行進曲」が演奏される。
 クレオパトラと共同統治していた弟のプトレマイオス13世が、緑の衣装の孫悟空という感じで現れ踊る。彼を教育する高官たちがスキンヘッドなので、悟空っぽさが増し増し。姉とは仲が悪い。派閥争いが起こっている様相から物語は進む。
 華麗な群舞、美しいソロやパ・ド・ドゥ。

◆3つの関係 
 2時間のバレエのなかで、クレオパトラと男たちの関係を3つ選ぶとしたら
1「奴隷」
2「カエサル」
3「アントニウス」
 あくまで熊川哲也プロデュースのバレエの話ね。

◆そこに愛はあるのか
 1はもう、ね、身も蓋もないハーレムなわけ。クレオパトラは、まさに女王蜂のよう。アピールするセクシー奴隷たちから「今日はどれにしようかしら、ホーッホッホッ」とばかりにひとりを選ぶ。
 選ばれし奴隷は、夜伽のあと毒殺される運命。もちろん奴隷もそれを知っている。女王は毒瓶を口に咥えて「こと」に及び、毒薬を奴隷の口に垂らして死に至らしめる。大地真央ならずとも「そこに愛はあるんか!」と言いたくなる女王の日常である。
 似た話は、よしながふみの「大奥」にも出てくるが、それは日常茶飯の話ではない(しかも、男性は結局殺されない)。

◆計画通り!の甘い誘惑
 2は、かの有名な、ハニートラップの元祖。エジプトにやってきたカエサルの前で、美女ダンサーが入れ代わり立ち代わりソロで踊るのだが、関心なさげ。そんな彼の前に、カーペットに巻かれて登場するクレオパトラ。カエサルを落としたその瞬間のクレオパトラの
「計画通り!」
な、会心の笑み!
 色仕掛けも厭わぬ策略家、政治家クレオパトラの本領発揮である。
 とはいうものの、可愛い子どもも生まれて幸せなら結果オーライ。
 でも、カエサルは、独裁を行い、ブルータスに殺されるのも有名な話で、落ち込み悲しみにくれるクレオパトラのところに、元気出して、とやってくるのが第3の男アントニウス。

◆単なる恋人同士なの
 エジプトに帰る船の中、カエサルはもういないし、おつきの人たちがクレオパトラを元気づけようと、珍しい食べ物やいろんなものを持って来ても、何か面白いことをしても、クレオパトラは、しょんぼり。
 そういえば、首飾りをくれたアントニウスはどうしているかしら。

 そこに、アントニウスが追いかけてきた。
 そこからの再会のパ・ド・ドゥが、このバレエ最大の山場だと思う。傷心のクレオパトラの心を動かしたアントニウス。女王でも英雄でもなく、恋人たちのダンス。会いたかったのはあなた。愛しくて愛しくて、とても大事なの。

 ネット上のレビューを見ると、奴隷たちとの絡みは要らないんじゃないか、という評が結構あるが、前半の人の生命を何とも思わぬ冷徹な女王ぶりを見せることで、幸せな恋人たちの悲劇がよりくっきりと浮かび上がる。
 愛を知らない女性が愛を知って死んだというストーリーとして見れば、やっぱり必要な場面なんだ、あれは。
 
 


 

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