メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

君が世界のはじまり

2020年08月05日 | 映画
君が世界のはじまり
を観ました。


希望と絶望を爆発させる夜が幕を開ける──。
大阪の端っこのとある町で、高校生による父親の殺人事件が起きる。
その数週間前、退屈に満ちたこの町では、高校生たちがまだ何者でもない自分を持て余していた。
授業をさぼって幼なじみの琴子と過ごすえん、彼氏をころころ変える琴子は講堂の片隅で泣いていた業平ナリヒラにひと目惚れし、琴子に憧れる岡田は気にもされず、母親に出て行かれた純は東京からの転校生・伊尾との刹那的な関係で痛みを忘れようとする。
皆が孤独に押しつぶされていたその夜に、事件は起きた──。


ふくだももこ監督・原作。
向井康介脚本です。

原作と監督やってて脚本をやらないのは珍しい気がしますが。
ふくだももこさんは音楽仲間の友人ということもあり軽くお酒をご一緒してお話をしたことがあり非常に信念の強い人という印象でした。
基本的に出役じゃない人が作る創作物、漫画も映画も小説も作り手を知らずに見たいタイプなので面識がある人の映画を見るのはかなりレアでした。
もちろん過去作も見たかったのですが、なかなか環境とタイミングで見れずようやく見れました。
ちゃんと作品の規模をステップアップさせていてリスペクトです。

大阪を舞台にしたガッツリの青春映画で。
冒頭や途中にあるショッキング展開でサスペンス的な要素もありかと思いきややっぱり青春映画でした。

青春映画には典型的に陰と陽がありますが、陰のものです。
淡い映像の質感でも無ければ胸キュンってわけでも無く。
青い春とかを思い出させるような情熱や悲壮感がほとばしるような内容でした。

そして遥か過去ですが自分の青春がほぼこんなんでした。
とにかく世界のあらゆる物が自分と規格が合ってないようで絶望的で憂鬱でイライラしてて。
生きるのをやめてしまいそうな日々でした。
しかしガッツリブルーハーツがリアルタイムでブルーハーツの新譜が出る度に号泣しては生き延びた。
まさにライフラインでした。
ブルーハーツ好きを掲げる人は多いですが中でも自分がトップだと思うくらいです。
崇拝しすぎているので音楽にその影響を入れないしカラオケでも歌わないし人前で軽はずみに言わないようにしてきたくらい。
自分だけが知っている秘密基地みたいなものだったので。
なのでちょいちょい出てくるブルーハーツを扱った映画には正直秘密基地を暴かれるようで抵抗をしてしまうのですが。
コレくらい本気で正しい解釈と描写をしてくれるとOKですね。

物語的に序盤は高校生たちの特別ストーリーもない群像劇のような描写で。
明確な起承転結があるわけではなくそれぞれが抱えるそれぞれの苦悩やら世界やらをうまく表現していました。
大きく分けると松本穂香側のストーリーと片山友希側のストーリーがあり、どうやって交差するのだろう?交差しないのかな?
と思っていましたが、かなり最高の交差の仕方するんですよね。
大人でも子供でも無いような高校時代の刹那的な時期。
人間が固まってるようで全然柔らかく、当人はめちゃくちゃ固まっていると思ったことも外から見ればそんなことも無く。
そういう曖昧なことを抽象的に描いて具体的な感情に昇華させている感じは感心しました。
個人的な見解ではこの時期の悩みを表現するならばイライラが一番なのですよね。

テーマが深いだけに登場人物たちのやり取りがクールで説明的なセリフもほぼないくらいで。
かなり上質な会話劇でした。
親友のお母さんとタメ口で友達みたいなやり取りするのは最高ですね。
リアルなやり取り系の映画と思いきやちょいちょい舞台っぽい演出になったり、幻想的な非現実世界になったり。

映像も非常に見事で、青春映画だけど淡い質感でも無くクリアで黒が映えるような感じで。
とにかく絵力強い、ポスターにしたくなるような、油絵にしてもう一度見たいくらいのシーンが多々ありました。
個人的には金網の向こうのでっかいタンクを見ている男女二人の背中は絶頂でしたね。
そして高校生にとってのオールって非常に特別な時間だと思いますが。
そんな出来事を最高に締めくくる少し白んだ空と高校生たちを下からのアングルでひとつに収めるセンス。
すでになかなか満腹でしたがクライマックスも最高に美しいシーンが待っていました。
多くは言えないですが、遠い過去に見に行って人生観変わるくらい心打たれた熊切和嘉監督の映画を思い出しました。

個人的なツボをやたら多く押される、琴線に触れるシーンややり取りが多かったですね。
そしてブルーハーツを扱ったりしてますが、しっかり令和な価値観な登場人物たちの価値観でしたね。

大好きな松本穂香が主演の女子高生を演じていました。
常々フラーム大好き人間を公言しているので、中でも相当好みの松本穂香です。
ほんわか不思議ちゃんからトゲトゲしい嫌な女から色々ハマる密かな多才女優さんですが。
今作は秀才でクールで俯瞰で周りを見ている感じでしたがしっかり自分にも苦悩があるという。
タバコが様にならないのが逆に良かったですね。
ナチュラルでクールでとてもいい演技していたと思います。

親友役の中田青渚はちょいちょい見かけたことありましたがここまでガッツリは初めてでした。
なかなか可愛い顔してるのでかなり弾けた演技していてびっくりしました。
この作品で彼女のキャリアの方向性が決まるようなそれくらいインパクトある演技していました。
しばらくは「君が世界の始まりに出ていた子」って肩書で行けそうですね。

片山友希はもともと高評価で活動もSNSもずっと追ってますが。
相変わらず雰囲気あって、可愛いキャラからクールキャラまでこなしますが。
この子が結構高校時代の自分を見るかのようでしたね。
全然喋らず音楽ばかり聴いていて、人にはわからない理由でイライラしているようで。
話せる相手が居る分このキャラは恵まれて居ると思いますが。
体も張っていてめちゃくちゃ本格派な演技していました。

金子大地は最近よく見かけますが今作は中でも一番くらい印象的な役でした。
東京からの転校生のでなかなかぶっ飛んだ家庭環境で。
妙に覚めてて知った風でも結局子供な感じがとてもリアルで良かったですね。

小室ぺいはふくだももこさんがスカウトしたようで素晴らしいキャスティング能力です。
影がある高校生の雰囲気がよく出ていて個人的経験上なかなかリアルに感じましたね。
学生時代ってあまり目立たないナメてた子が深刻な家庭環境だったりすると急に見る目が変わったりしたものです。
一人だけ抱えている問題が重くてちょっと切なかったですね。

甲斐翔真は最近ちょいちょい見かけますが。
スタイルもよくただただ良いやつな男の子でした。

板橋駿谷が先生役でしたがなかなかいい味だしてました。
よくなつぞらで生徒役をやってたものです。

江口のりこは演技派で常に高評価ですが今作でも流石の存在感でした。
彼女が得意としそうな役どころだったと思います。

ブルーハーツを使っていることもあり40代にも通じるし、見た人がタイムスリップするタイムマシンみたいな映画でした。
分かる人と語り合いたくなりました。


そんなわけで8点。
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