メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

海辺のリア

2017年06月06日 | 映画
海辺のリア
を観ました。


桑畑兆吉(仲代達矢)は、舞台、映画にと、役者として半世紀以上のキャリアを積み、さらに俳優養成所を主宰する大スターだった。
芝居を愛し続けた、かつてのスターも、今や認知症の疑いがあり、長女・由紀子(原田美枝子)とその夫であり、兆吉の弟子だった行男(阿部寛)。
そして、由紀子と愛人関係にある謎の運転手(小林薫)に裏切られ、高級老人ホームへと送り込まれる。遺書を書かされた挙句にだ。
しかし、ある日、兆吉はその施設を脱走する。なにかに導かれるように、あてもなく海辺を歩き続ける。
シルクのパジャマ姿にコートを羽織り、スーツケースをひきずってー。
兆吉は彷徨い歩くなかで、妻とは別の女に産ませた娘、伸子(黒木華)と突然の再会を果たす。
兆吉には、私生児を産んだ伸子を許せず、家から追い出した過去があった。
伸子に「リア王」の最愛の娘・コーディーリアの幻影を見た兆吉。
兆吉の身にも「リア王」の狂気が乗り移る。
かつての記憶が溢れ出したとき、兆吉の心に人生最後の輝きが宿るー。


小林政広監督作品です。
あまり前情報は無かったですが、キャストが自分好みの各世代性別のトップクラスの演技派をズラリと揃えている感じなので、
名画の予感を抱いて観に行きました。

いや~、名画でしたー。
もうコレはなかなか凄い映画ですね。
沢山映画を観ていますが、また新しい感じで「コレは劇場で観ないといけないやつだ」と思わされました。

ストーリーは知らずに観ていましたが、知らずに観ていると最初はどういう全体像なのかはわかりません。
ただ会話が結構説明じみているので適度なタイミングで状況がわかっていきます。
全編通して舞台を観ているかのような会話劇ですが、感情的になりつつも上手に状況説明してくれます。
まあ、もう少し説明は少なくて観客に想像させても良いかな?とも思いましたが。
場面ごとにちょっと謎めいた導入をするのに、すぐに説明的セリフが入るので。

冒頭から引きの画で仲代達矢が独り言を言いながらハキハキと歩いていてなかなか謎めいた始まりです。
映像が凄い引きの画でまるで盗撮の様に撮影している箇所もあれば、ドアップで極限まで登場人物たちの表情を捉えている場面もあって。
固定カメラで長尺のセリフのやり取りをさせている場面が多く、演者には相当な演技力が求められます。
一回一回のセリフも眺めで、動きも流動的で、脚本はあるのだろうか?ってくらいの生々しい会話のやり取りでした。

全編通して5人しか出てこない映画でしたが、この5人に選ばれるだけでもはや日本代表みたいなものでしょう。
各役者同士の演技バトルみたいな様相もありました。
一番若い黒木華が大御所の仲代達矢相手に堂々と渡り合っていたのが流石でした。

ストーリーだけ観ると認知症を患った老人を抱える家族のものとしてはさほど珍しいものでは無かったです。
中心点に居る主人公が認知症なので、阿部寛演じる男が観客に一番近いフィルターになってる感じですが。
同じようなやり取りを繰り返して、「何度同じ事を繰り返すのか・・・」とツッコみたくなる場面も多いです。
捕まえても目を離すとすぐ逃げるおじいちゃん、
「さーんかーいめー!」とツッコみたくなりました。
ちゃんと危機管理して下さい、って気分になりました。

同じように黒木華演じる女性も神出鬼没な感じで。
この子もちょいちょい目が離せない感じで厄介な人が多いです。

何においても仲代達矢が凄いです、物凄いですね。
コレで日本アカデミー賞取らなければおかしいでしょう、ってくらいの熱演です。
認知症の老人にしかみえない、佇まい間合いルックス、全てがパーフェクトでした。
この目がもう飛んでしまってる感じを出せる人は他に居ないでしょう。
かなりの場面で歩いていますが、その歩き姿だけでも凄い演技力を感じました。

黒木華も非常に素晴らしかったです。
わけわからない登場でしたが、いつにも増して昭和風な雰囲気で。
心情がわからない部分もありまるが、常に怒っている感じで深く絶望している感じで。
天性の女優を感じさせます。

阿部寛も非常に好みの役者ですが、役柄的に少々演技がわざとらしく大袈裟に見えました。
色々と板挟みの男で、阿部寛のハンサムさはまるで出ておらず。
お年寄りにもなかなか追いつけないような運動能力も歯がゆかったです。

大好きな原田美枝子ですが、今作では最低の悪い女でした。
出番は少なめですが、ナチュラル演技は流石です。

小林薫は寡黙で謎の男で、セリフはほぼ無しです。
なんて贅沢な使い方でしょうか。

ずっと同じような調子ですが、仲代達矢を中心に演技がどんどん研ぎ澄まされて。
クライマックスには物凄い迫力で引き込まれました。
なんか鳥肌でした。

映画館からの帰りにはいつもラジコを聴きますが、チャンネルはランダムで。
偶然この映画について仲代達矢が語っている番組になり凄いミラクルを感じました。

映画を観ると本当の認知症に見えてしまいましたが、普段はやっぱりスマートな方ですね。
この世代の人をこんなにカッコよく観れる素晴らしい作品でした。

「人生はあっという間だと知りました。
わたしはわたしの思い出の中だけで生きていきたい」


そんなわけで9点。

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