メザスヒカリノサキニアルモノ若しくは楽園

地球は丸かった 太陽が輝いていた
「ごらん、世界は美しい」

感動の映画と美しい風景と愛おしい音の虜

台風家族

2019年09月04日 | 映画
台風家族
を観ました。


紙袋を覆面代わりに被った老人が地方銀行で2000万円を強盗。金ピカの宮型霊柩車で逃走し、妻と共に行方をくらました。強盗事件はあっという間にニュースになったが、老夫婦の行方も、霊柩車も、奪われた2000万円も不明のまま月日は過ぎていった──。
時は流れ2018年。台風が近づくある夏の日、鈴木小鉄は妻の美代子と娘のユズキを連れて実家へと車を走らせていた。10年前に銀行強盗をして世間を騒がせた両親の葬儀に参列するためだ。葬儀といっても、死体はおろか霊柩車すら見つかっていない。にもかかわらず形式的な葬儀をする理由は、きょうだいで財産分与を行うためだった。
すっかり朽ち果てた実家に一番乗りで到着したのは小鉄たちだ。葬儀屋を併設した古びた二階建ての日本家屋、表札には「鈴木一鉄」とある。店のシャッターには「盗人」「バカ」などとペンキで描かれ、当時の記憶がよみがえる。鈴木家の居間には2つの棺桶が並び、小さな写真立てには28年前の両親が映っている。
しばらくして長女の麗奈がやって来る。麗奈は両親の事件のせいで離婚、現在つき合っている男性はいるが独身だ。ほどなく住職の萬福寺さんがやって来て、“見せかけ”の葬儀が始まり、遅れて次男の京介も到着する。兄の小鉄とはあまり仲は良くなく、小鉄が遺産を独り占めしようとしているのではないかと勘ぐっている。残るは兄姉から可愛がられていた末っ子の千尋だが、なかなか姿を現さない。葬儀開催のハガキが届いていないのだろうか……。葬儀が終わっても千尋がやって来る気配はなく、仕方なく3人で財産分与についての話し合いをすることにする。
「預金や保険も一通り調べたけど、大した額じゃないから、遺産はこの家と土地だけだ」と、いかにも長男らしく振る舞いその場を仕切ろうとする小鉄。どんな仕事も長続きしない彼にとって「遺産」という二文字は何にも代えがたいほど魅力的だったのだ。おまけに少し前、勤務中に玉突き事故に巻き込まれてむちうちになり、首にはサポーター、頭には包帯が巻いてある。何としても遺された家や土地をお金に換えたい、一番多くもらいたい、というのが小鉄の本音だ。
財産分与について話し合う最中、玄関のインターフォンが鳴る。ようやく千尋が来たのだろうか? しかし、そこに立っていたのは千尋ではない、茶髪のチャラチャラした男だった。見知らぬ訪問者によって、話し合いは思いがけない展開に転がっていく。きょうだい同士がこれまで溜めてきた想い、小鉄とユズキの間にある親子の溝、そして10年前に両親が起こした強盗事件の背景に何があったのか? 刻々と台風が近づくなか、鈴木家にも嵐が渦巻いていた……。


市井昌秀監督作品です。
結構好みの監督で高評価した作品もあります。

色々あって公開自体が危ぶまれた映画でしたが、そこに話題がフォーカスしてしまいそうですが。
そんな事を吹っ切るくらいめちゃくちゃ面白い映画でした。

何かの途中から始まったかのような銀行強盗というインパクトシーンの冒頭。
それがプロローグ的ですが、短い時間ですがかなりのインパクトでその後の2時間に影響を与えるに十分です。
何故か銀行強盗している老いた父とそれによって人生が狂った長男の描写。

本編になんか特別感が無い静かな始まり。
物語がどう転がるのか?という妙な引きはありました。

そこから徐々に物語が加速していく雰囲気です。
モーターが回り始めた時のような印象で。
キサラギ的なほぼ密室の会話劇で居ない人のことや過去の事を解き明かしていき大きな真実に近づいていくような。
それが近づいてくる台風の舞台設定とシンクロしていてどんどん荒れていくのが素晴らし過ぎました。

なんかしっくり来ない雰囲気ですが一応親族が集まって失踪した父の葬儀を執り行います。
で長男が遺産の話を始めた途端に徐々にみんなが本性を表しだす感じで加速していきます。
それまでが一幕目だとしたらここからが二幕目って感じです。
草なぎ剛演じる長男がクズっぷりを発揮してみんなでそれに対抗する展開です。
なかなかのテンポで話は転がってあっという間に泥沼状態です。

末っ子が現れてとあることを告白します、かなりびっくりする洒落にならない事実ですが。
これで舞台は更に泥沼になって三幕目って感じです。
それと比例して長男のクズっぷりが加速して、次男や長女も決して褒められた人間では無いが長男のクズっぷりが凄いという構図でした。

そこから何度もどんでん返し的な物語のひっくり返りがあります。
その度に登場人物たちに抱いていた感情が変わっていきます。
これ以上無いってくらい憎んでいた人間がその後これ以上無いってくらいに愛しく見えたりします。

撮り方や見せ方に強く依存しないでシンプルに解き明かした問題の順だけで物語の色を変えていくという。
めちゃくちゃ巧妙なタイプの物語でした。
やはりキサラギだったり大洗にも星はふるなりとか暗黒女子とかに近いですかね。
この手の作品は非常に好きですね。
今作はそれに登場人物たちの色を変えていく巧妙さも強いです。

そこから10年以上過去のことまで解き明かして繋がって行くのも凄かったです。
とにかく小さな要素にも回収があって。
人間性やら事情を伝えるのに1を見せて5を伝えるようなスマートなシーンが多くて。
今の家庭からは殆ど消えてしまった一昔前の家電のあの動きを使っての演出などは天才的でした。
古い家電とかの使い方が見事でさりげないノスタルジーも多くそういう魅力もありました。
無駄な説明もなく説明不足もなく非常にストレスフリーでした。

この手の密室劇が密室を飛び出すのは勇気がいるでしょうがそれに見合うクライマックスの展開でした。
なかなかぶっ飛んで衝撃的で感動的でした。

観客目線では実は唯一ずっとまともだった長男の娘。
そんな彼女によるラストシーンも非常に素敵で決定的な設定破壊でとても印象的でした。

肝心のコメディも非常にハイセンスで流石元お笑いの人が作る映画だと思います。
劇場はなかなかの笑いでした。

そしてかなりの急角度で泣けます。
めちゃくちゃ素敵ですよ。

主演の草なぎ剛はめちゃくちゃ素晴らしかったですね。
今更言うまでもなく非常に演技派ですがそんな彼の良さがふんだんに出ています。
元SMAPでは抜けて演技力あるので圧力に負けずもっともっと活躍してほしいですね。
めちゃくちゃ憎らしかったです。

新井浩文が二番手でしたが残念ながらクレジットやら予告からは消されてしまっていますね。
元々大好きだった役者なので改めて辛いですがこの映画に関してはふんだんに良さが出ています。
草なぎ剛と主に衝突してやり合うポジションで流石の存在感でした。

MEGUMIが長女でしたがまー素晴らしかったですね。
演技が上手いしめちゃくちゃエロかったです。
多才なのですっかり忘れがちですが思いっきりそのセクシーボディを活かしていました。
改めてこれほどの武器を使う必要が無くなって今のポジションを確立している才能が凄いです。
色々時を経ても流石のプロポーションでした。

中村倫也が末っ子で引きこもりなもじもじタイプのキャラでした。
この手のちょっと可愛いふわふわ系な男を演じさせてもピカイチですからね。
とてもいい味だしていました。

尾野真千子が草なぎ剛の妻役でした。
ちょっと謎でクズな夫をひたすらサポートするやはりクズな人間な印象でしたがそうそう簡単な話では無かったです。

長女の甲田まひるって子が唯一くらいずっとまともで鋭く正解を言う役どころでした。
結局この子が正しく、ただひとつ大きく間違っていて。
こんな若い子でさえ過去に分岐点を作ってしまっている見事さでした。

大好きな若葉竜也がMEGUMIの彼氏役で凄い馬鹿なようで上手いこと物語を転がす役でした。
一番後ろから物語を転がすようで素晴らしかったですね。

藤竜也はもう言うまでもなく最高峰に素晴らしい俳優ですが。
近年のこの手の頑固おじいさんポジションを独占状態ですね。
今作もめちゃくちゃ良かったです、ずっと謎めいていましたがクライマックスには泣かされました。

びっくりするほど巧妙で綺麗にまとまった映画でした。
ぶっ飛んだクライマックスもとても素敵でこの映画によく合っていました。
間違いなく俺アカデミー賞にノミネートな名画でした。


そんなわけで9点。

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